最強の固有魔法
「ついにきたぞ!やっと魔力操作を覚えた。」と俺は叫ぶ。
「進化値13で魔力操作か、次は火魔法だな。おっと、術式構築…『魔力嵐』」
そう告げる野村の後ろのゴブリンが魔力の渦に巻き込まれる。
俺は剣の間合いに飛び込み、首を切り飛ばす。
つーか、魔法術使えるからって見せつけるように打つのやめてもらえませんかね?
そう、野村は10日程で魔法を使うに至ったのだ。
俺が使えないのは言うまでもない。
「お前止めろっていても言ってるよな。」
「えー?属性魔法できないんだったら固有魔法でも使えば良いんじゃない?」
固有魔法?忘れてた。
黒い結晶ってのがあるんだった。これをやろう。
黒い結晶を発動しようとすると勝手に術式が構築されていく。
「術式構築…『黒い結晶』発動!おおっ、出来た!」
手には文字通り黒い結晶が握られている。
よし、これで野村にマウント取らせずにすむぞ。
「広斗、悪いが俺も固有魔法のインベントリ持っているから変わらないぞ。」
「え、聞いてないぞ?お前魔法術捨てやがれ。」
「別に良いだろ。それよりあの鑑定石で固有魔法について言われなかったのが気になる。」
そういえば何でなにも言われなかったんだ?
固有魔法ってそこまで珍しくもないのか?
「今日のところは一回引き上げて固有魔法について聞きに行くぞ。」
「そうだな、支部長に言えば分かるだろ。」
※※※
いつもの受け付けカウンターにやって来た。
まずは今日の分の魔塊を取り出す。
しかし、いつもと違うのは野村のインベントリから魔塊を取り出してもらう。
「今回は魔塊少ないですね。あれ?今どこから取り出したんですか?」
やはりそうなるだろうな。
初めて見せるしアイテムボックス特有の魔力の揺らぎもないからいつもの受け付け係が動揺する。
あと、アイテムボックスはこの前近くの冒険者がつかっていた。
「これは固有魔法です。」
「え、今固有魔法って言いましたね。ヤバイじゃないですか!支部長、支部長の電話は…」
「ヤバイって何がですか?」
「支部長?!高校生2人が…」
何でそこまで焦るのかが聞きたかったんだよ。
まあ、今回は隣に書類があるし悪かったな。
「まず落ち着いてくださいよ。」
「落ち着けないですよ!固有魔法は確認されているだけで42人しか持っていないんです。野村さんのことが大分騒がれますよ!」
「いえ、俺も持ってます。」
「もっと余計ですよ!倍騒がれる要素が増えた!とにかく支部長のところにいって下さい!」
やっぱり固有魔法を持っている人はいないのか。
追い出されるようにしてやってきたのは冒険者連盟迷宮管理支部のいつの間にか造られていた二階だ。
それにしてもここは迷宮管理支部なんて名前だったのか。
「失礼します、入ります。」
「君たちか、厄介ごとを持ってきて。」
「いや、すみませんね。でも戦力増強と考えてくださいよ。結構便利ですから。」
「便利でも固有魔法を使い過ぎてはいけないぞ。何しろ使う人が少なすぎる。本部にばれると引き抜かれて訓練付けの毎日だぞ。」
訓練付けは嫌だな…
誰も見ていないところでしか使えないってことか。
「まあ、大丈夫ですよね。誰も見ていないところで使えば。」
「良いが誰にも見られないように注意しろよ。」
「分かってますよ。しっかり気を付けます。ところで鑑定石で固有魔法って見られないんですか?」
「固有魔法は所持者どうしにしか見られないようになっているそうだ。」
だから鑑定石でも所持を確認できなかったんだな。
これ、黙っていれば誰にもバレないから悪用して不意打ちしてくるやつも居そうだ。
一応気を付けておこう。
※※※
またダンジョンの中まで戻ってきた。
ゴブリンを倒しながら進んでいく。
「ゴブリンだと進化値があんま上がらなくなってきたな。」
「だったらゴブリンナイトに切り替えるか?奥の方に行けば遭遇するだろ。」
「まだ早いんじゃないか?まずはホワイトゴブリンが倒せるようになってからだろ。」
ホワイトゴブリンとは連携してくるジョブ持ちのゴブリンの総称だ。
タンカー、アーチャー、アタッカーなどの種類がいる。
「あいつら連携プレーしてきて狩りづらい。」
「しょうがないだろ。ナイトは進化値20はあるからな。まだ、ホワイトゴブリンの方がいい。」
そんなこと言っていたら、ホワイトゴブリンがいた。4体PTか、これなら倒せるな。
また、後ろに回り込んで攻撃兵の首を落とす。そのまま盾兵も倒す。
「やっぱりナイトも倒せるんじゃないか?」
「じゃあ試しにやってみるか。」
奥に行くと『推奨進化値15以上 ゴブリンナイトに注意』と書かれた金属の立て札がある。
ここからは鈍色のゴブリンナイトが出る。
「あれナイトじゃないか?」
「そうだな、都合よく単体だ。回り込んむぞ。」
いつもの戦術通りに後ろに回って剣を抜き、野村の合図に従って飛びかかる。
いつもはそれで首を落として終わりだった。
--でもナイトは違った。
「何で奇襲が気づかれてるんだ!」
「知るか!いいから騎士を……危ねっ。術式構築、『魔力針』」
野村の手元から輝く針が飛ぶが、そこまで効いていない。
俺は手数を重視して突きを繰り返すが当たっても防がれてしまう。
「駄目だ、倒せない。どうすればいい?!」
「広斗、一回撒くぞ。」
俺は斬撃と打撃を発動して上段切りの後逃げる。
推奨進化値15以上ってのは伊達じゃ無かった。
って、まだ追ってくるじゃないか!
これなら手を出さなきゃ良かった。
「まだついてくるぞ。どっちに逃げる?」
「広斗、魔法術で罠をしかける。看板の下で落ち合うぞ。5分頼めるか。」
「分かった。先に行ってろ。」
と言うことで俺の華麗な逃走劇の始まりだ。
逃げてる時点で華麗でも何でもないけど。
転がっている岩を飛び越す。が、ナイトは腕の一振で砕いてくる。
チッ、だったら横の脇道にそれて反転するか。
急な機動にもしっかり追い付いてくるゴブリンナイトを横目に岩に隠れながら撒き続ける。
そうか、黒い結晶を使ってみよう。
俺は足元に棒を作り出す。
都合よく転んでくれたから今のうちに先に逃げる。
もう何分立ったか?
俺、今時計持ってないんだよ。
うわっ、手に持った銀色の剣を振るってきた。
黒い結晶を使いすぎて半ば魔力切れになってきた。
もう駄目だ、5分経っていると信じて立て札のところまで戻ろう。
岩を飛び越して曲がり角を右に曲がる。
「やっと来た、もう8分経ってるぞ。おかげで大量に設置できたけど。」
「もうちょっと早く来ればよかった……罠の範囲はどこだ。」
「そこの円が書いてあるところだ。足場も作っといた。」
足場を渡り、対岸までわたって走り抜ける。
後ろを向くとちょうどゴブリンナイトが罠に足をかける。
効果範囲に入ったと同時に魔力の嵐が吹き荒れる。
「よし!かかったぞ、『死嵐罠』発動だ。」
「名前の割には効果が表れてないように見えるけど。」
そこまでいったあといきなり正八面体が表れ、突き刺さり、爆発し、蹂躙する。
名前の割になんて言って悪かったな。すごい威力だ。
ただし、その中二病みたいな名前はやめてほしい。
いまので進化値が14になって高速移動の能力魔法を覚えた。
経験値はいいけどしばらくは手を出したくないね。
※※※
受付のカウンターにいき売却をしてくる。
「この魔塊大きいですね、これゴブリンナイトの魔塊じゃないですか。」
「身の程知らづでしたよ。俺たちが到底かなう相手じゃない。せいぜい狩れるようになりたいです。」
本当に今日は疲れたよ。自分の弱さが身に染みる。
ところでゴブリンナイトの魔塊は1万5千円もした。
狩れるようになればいい収入源なんだけどな……進化値を頑張って上げよう。
あ、これでついに装備の借金返せたぞ。
いやー、金のことはしっかりしておかないとな。
電車に乗って俺は帰る。
駅で野村と別れて家まで歩くついでに高速移動を使ってみた。
「すごいなこれ、軽く走ってるだけなのに自転車を追い越せた。」
でも魔力を使うから使いすぎには注意だな。
自分の力でも強くならないと。
そう思い高速移動を切って自分の力で走る。
明日もダンジョンにいくぞ。