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私はATM  作者: いりこ
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結衣

結衣

 晴久とは、結衣が看護師として努める病院で出会った。結衣が22歳の頃だった。

 20代の男性、石畑省が結衣の勤める病院に救急搬送され入院した。若いのに脳幹出血を起こしており手の施しようが無く重篤な状態だった。晴久は救急車に同乗し、医師から説明を受けた後に石畑のベッド横に座って付き添った。

 晴久は自分の職場に着いた石畑と挨拶を交わした途端、倒れたのを目の当たりにしてショックを受けていた。モニターや呼吸器の機械音がピコピコ鳴る音が事の重大さを醸し出し、晴久は自分が何か出来なかったのかと思いを巡らした。石畑の顔を見ると、目を開けたまま意識は無く浮腫みもあり人相が変わり果てて居た。やはり辛い。

 そこに点滴の交換に結衣がノックして入って来た。神妙な顔つきの晴久を見て声を掛けた。

「石畑さんと一緒に救急車で来られた方…ですよね」

「はい」

脳神経外科病棟に勤めて居る結衣は、急に倒れたり症状が突然現れるこの恐ろしい病気を、一緒に居た人や家族が目の当たりにしてショックを受ける姿を幾度となく見て来た。そんな付き添って居る人への言葉掛けも時折心掛けていた。

「闘病中の姿って見ていて辛くなりますよね。きっと直ぐ救急車を呼んで下さったから、石畑さんも頑張る力残せたのでしょうね」

その言葉に晴久は少し救われた思いになった。

「そうですよね!石畑君は頑張っているんですよね! 」

何かハッとした顔をした晴久を見て結衣も

「はい、石畑さんも貴方様も頑張ってますよね」

と優しく微笑んだ。

 それから晴久は石畑の死が間近な中でも、頑張って今生きてる事を称賛する思いで見詰めた。

 石畑の家族は病院に夕方到着した。石畑はまだ結婚していない為、両親が駆けつけた。

「あっ、あの…貴方が救急車を…」

「…あっ、私は北沢と申します」

「北沢さん…息子を…ありがとうございます」

両親は深々と頭を下げて晴久と挨拶を交わした後に、息子が臥床するベッドに駆け寄った。朝出勤する時の元気な姿とは打って変わって、力の無い目を閉じる事も出来ず、麻痺や浮腫で人相が変わった息子を見て母は崩れる様にベッドサイドの床に座り込んだ。夫はそっと妻の肩に手を乗せた。

晴久は結衣の受け売りを言った。

「看護師さんに言われました。こんなに大変な中でも石畑君は頑張ってるって」

 それを聞いて母は立ち上がり、息子を撫でた。

「頑張ってるの…。そう…頑張ってるのね」

愛おしく優しく撫でながら溢した涙は息子の頬に落ちた。

 数日後に石畑が亡くなった後、結衣はベッドを片付けて居た。床頭台を消毒しつつ忘れ物が無いか収納スペースを開けて確認していた。

 引き出しから石畑のスマホが出て来た。届ける為に晴久の居る会社に電話をした。受け取りに来たのは晴久だった。結衣が言ってくれた慰めの言葉が思い出される。心のこもった結衣の働きぶりが晴久の心をくすぐった。そんな晴久の石畑に寄り添う姿は結衣も親近感が湧いた。

 石畑の命が繋いだ縁は暖かく強かった。ぎこちなく晴久が食事に誘い、二人に愛を芽生えさせ、一年半後には結婚に至った。多くの人達に祝福されての結婚生活がスタートした。


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