幸せを願って
ATM
私はATM。この繁華街の銀行内入口付近に何年居り何十年経ちます。お客様の方々はお気づきになって無い様ですが、私は毎日皆さんにタッチされながら誠実に働いております。
私はお客様の皆様との出会いを大切にさせて頂いて、大切に大切に務める事を誇りとして居るのです。
正月もひと段落した一月八日の今日、ほら今年もあの可愛らしいお客様がいらっしゃいましたよ。あの優しそうなお母様に連れられた、北沢ほのか様。
「お母さん、ここ触るんだよね? 」
ほのか様は小さな肩に斜め掛けした鞄から『お年玉』と書かれた封筒を出して私の画面に指さされました。お母様を見詰める目が頼りにされて居るのを物語っておられます。
「そうよほのか、ここに通帳入れて」
「うん!お母さん蓋開いた!お年玉入れて良いんだよね⁉︎ 」
「うん、入れれる? 」
「よいしょ…背伸びしたらとどいたよ」
そうそう、去年はとどかなくてお母様に抱っこされて、お金を入れてましたね。今年は少し成長されて、自分でお年玉を挿入出来ましたね。あっ、気付いたら私の顔が笑顔になっていました…。
「お母さん、通帳出て来たー! 」
「どれどれ…ほら昨年は…一万七千円だった預金、今年は三万二千円になったわよ」
小さな指で通帳の数字を辿って居られるほのか様。真剣な目をされてますね。
「本当だ!来年もお年玉預金する! 」
「うん、お爺ちゃんやお婆ちゃんから貰ったから大切にしようね」
お母様、貴女様の娘さんの愛情と教育心が私にも伝わって参ります。ほのか様の安心した笑顔を拝見すると、胸が温かくなります。
そして、お母様は北沢結衣様でございますよね?結衣様も幼い頃からお年玉を預金しに、私の元へいらしてましたのを覚えております。ほのか様は貴女の幼い頃にそっくりで懐かしくなります。