表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
対テロ特殊部隊スワン 血の巡礼団を壊滅せよ  作者: 風まかせ三十郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/77

第69話 廃校からの脱出

 月明りに照らされて、ひっそりと佇む廃墟。

 そこは元工学系の大学だったらしいんだけど、以前の戦争で空爆の標的となって破壊されたという。今は廃校となって幽霊の巣窟と化しているので、人質を隠すには持ってこいってわけ。


 セーラは腕時計に目を落とした。

 あと三十分ほどで夜が明ける。

 隠密行動には闇が必要なので、一刻も早く廃校の人質を救出して、空港で待機しているアイリーン大尉の別動隊と合流しなければ……。

 先ほどからレナ少尉が軍用トラックに乗り込んで、なにやらゴソゴソやっている。

 人質の搬送用に使用できるかどうか確認しているのだ。

 やがてレナ少尉が運転席から顔を出した。

 

「使えます」


 隊長がわたしの肩を叩いた。

 

「さあ、行くぞ」


 レナ少尉、わたし、隊長の順で割れた窓ガラスから侵入した。

 二人が廊下で前後を警戒する。

 わたしは振り子を使って人質の監禁場所を捜索する。

 人質の数が多いせいか、振り子はすぐに反応した。

 

「こっちです」


 廊下の左手を指さした。人質はすぐ近くにいる。

 それにしても変だ。

 なぜ警備兵と遭遇しないのだろう? 大切な人質を監禁している割には警備が手薄な気がする。

 やがて振り子は動かなくなった。どうやら監禁場所に着いたみたい。

 

「この先です」


 ムター隊長のハンドサイン。レナ少尉が廊下の角からそっと顔を出した。

 わたしはドキドキしながら報告を待った。

 ダウジングの結果が当たっていればいいのだけど。

 レナ少尉が後ろ手で出したハンドサインは、明確に敵兵の存在を告げていた。

 

 警備兵、二人。


 どうやら監禁場所の特定に成功したようだ。

 隊長とレナ少尉が互いの目を見て頷いた。

 隊長が手にした手榴弾を安全ピンも抜かずに床へ転がした。

 コロコロコロと床を転がる手榴弾。警備兵が何かと拾い上げる。それが手榴弾と気付いたのだろう。なにやら喚いて放り出した。その瞬間を狙って二人が廊下の角から飛び出した。

 

 シュッ、シュッ、


 空気を裂く小さな銃声。二人は消音器(サイレンサー)付きの拳銃で立ちどころに警備兵を射殺した。

 隊長は手早くドアの鍵穴に万能キーを差し込む。

 レナ少尉がつま先で警備兵の生死を確認する。

 その間、わたしは周囲の警戒を担当する。敵兵がやって来ないのをひたすら祈りながら。

 レナ少尉がドアの反対側に張り付くと、隊長はそっとノブを回してドアを押し開いた。

 ドアはキーッと軋みながら開いた。ワンテンポ置いて二人が部屋に飛び込んだ。

 銃声は聞こえなかった。

 ドアの陰からそーっと中を覗き見た。

 いたいた、人質が約一〇名ほど。皆キョトンとした目で飛び込んだ二人を眺めている。

 

「アムリア軍特殊部隊です。皆さんを祖国へお連れします」


 ムター隊長が小声で囁く。人質全員の顔が安堵と希望で輝いた。

 レナ少尉が命じた。


「さあ、早く行け。モタモタしていると死ぬぞ」


 全員の顔が蒼白になった。

 英語を理解できるなんて、どうやら全員アムリア人らしいけど。

 アムリア人は利用価値が高いとみて選別されたのかもしれない。

 隊長が先頭に立って全員を誘導する。最後尾にレナ少尉が付いた。

 人質の中には老人もいたけど、祖国へ帰れる希望に後押しされて元気に移動している。

 心配して隣に並ぶと、その老人は目を丸くして、「お嬢ちゃん、どこに監禁されておったのじゃ?」と人質と勘違いする始末。

 思わずクスッと笑うと、「わたし特殊部隊の一員です」


 老人は丸い目を更に丸くして、「まさか、こんな子供が……」

 絶句したきり立ち止まった。


「さあ、早く」


 老人の手を引いてあげると、「人助けに年齢は関係ありません」


 間もなく窓の並んだ廊下へ出た。マズいことに夜が白みかけている。

 急がなければ……。

 隊長が窓を開け放った。


「さあ、ここから脱出しろ」


 その指示に従って人質が次々と窓外へ飛び出した。そのとき……。

 

 ダダダダダッ!


 背後で銃声が響いた。

 レナ少尉が叫んだ。


「敵兵、五名接近」


 そのまま壁の陰に張り付いて反撃を開始した。

 脱出した人々を隊長が先導する。わたしも全員が脱出したのを確認すると、


「レナ少尉、早く!」


 そう叫んで窓枠を跨いだ。

 レナ少尉が手榴弾を投擲した。そして踵を返して走り出すと、頭から窓枠へ飛び込んだ。

 

 ドォーン!


 ほぼ同時に手榴弾が炸裂した。咄嗟に身体を屈めて爆風をやり過ごす。窓ガラスの破片がパラパラと頭に降りかかる。それっきり銃声が止んだ。

 

「よし、行くぞ」


 レナ少尉に伴われて、門の傍に止めてあった軍用トラックに乗り込んだ。

 

「レナ、バイクで空港まで先導しろ」


 隊長が車窓から顔を出して叫んだ。

 レナ少尉がバイクのスターターを踏んでエンジンを吹かした。

 後から敵兵が迫ってくる様子はなかった。

 なんか肩透かしを喰らった気分だ。

 隊長が呟いた。


「どうやら国軍は撤収したようだ。たぶん両国政府間の交渉が難航しているのだろう。人質を足手まといと考えたのかもしれない」


 昨夜、複数の人質が、撤収する国軍兵士を目撃したという。廃校に残っていたのは一部の兵士のみ。

 どうやら先ほどの攻撃で全滅させた兵士がすべてのようだ。

 

 レナ少尉のバイクを先頭に、人質を乗せた軍用トラックが後に続いた。

 空港まで十五分ほど。早朝なので予定より早く到着しそうだ。

 追跡してくる不審車両もない。

 ホッと一息。窓外へ目をやると、地平線に連なる山々から朝日が顔を出した。

 今頃はアイリーン大尉の部隊も行動を起こしているはず。上手くいくといいのだけど……。

 

 行く手に空港が見えてきた。

 レナ少尉が片手を上げて一行を停止させた。

 ムター隊長が双眼鏡を覗いて空港の様子を監視する。

 

「フーン、強硬突破するしかないか」


 そう言って、わたしに双眼鏡を手渡した。


 アッ、見える見える! 


 空港の片隅に駐機する旅客機FF-A800の姿が。

 空港の入り口付近には敵の検問所があった。

 数名の兵士が門の周辺を警戒している。その後ろには装甲車が一台待機していた。

 隊長の唇に怪しい笑みが浮かんだ。


「事態は一刻を争う。強行突破するぞ」


 ハァ~、


 失意のため息をついた。

 これが最後の試練。どうか神様、無事にクリアできますように……。

 

 隊長が運転席から下車した。入れ替わりに若い男の人が運転席についた。


「よろしく、お嬢ちゃん」

「アッ、ハイ」


 人質の一人だ。隊長から軍用トラックの運転を任されたのだ。

 それにしても隊長は何をやらかすつもりなのか。

 隊長が荷台から跳び下りた。そしてキビキビした足取りでレナ少尉のバイクの方へ歩いてゆく。

 あの肩に担いだ濃緑色の金属体は確か……、ロケットランチャー!?

 隊長がバイクの後部座席を跨ぐと、軍用トラックに向かって発進するよう手を振った。

 運転席のお兄さんがアクセルを踏んで、軍用トラックをノロノロと発進させた。

 二人を乗せたバイクは既に二百ヤード先をばく進している。勢いのままに加速して、空港の門に急接近した。

 

 双眼鏡を覗くと、慌てふためく敵兵の姿が確認できた。

 小銃で攻撃してきたけど、そんなヒョロヒョロ弾当たるものか!

 装甲車の砲口が素早く接近する二人に向けられた。もし砲弾が命中したら、バイクなど簡単に吹っ飛んでしまう。

 でもレナ少尉は速度を緩めなかった。恐怖など意に介さないのか、車体を右に左に蛇行させて、装甲車の砲撃を軽く(かわ)してしまった。

 吹っ飛んだのは、わたしの恐怖心の方だ。余りに見事な運転技術ドライビングテクニックに思わず見とれてしまった。

 ムター隊長がロケットランチャーを構えた。射程距離に入るや狙い澄ました一撃をぶっ放す。


 ドカァ~ン!


 フロントガラスを振るわせる大音響と共に、入り口の門が吹っ飛んだ。

 すかさず隊長が次弾を放つ。今度は装甲車が紙のように燃え上がった。

 

「やったぁ~!」


 思わずガッツポーズを決めてしまった。

 レナ少尉がハンドルを切ってバイクを急停車させた。

 隊長が片手を上げて大声で叫んだ。


「さあ、わたしたちに続け!」


 軍用トラックも速度を維持して検問所を通過した。そのまま飛行場を横切って、先行するバイクを追いかけていると、やがて眼前にFFーA800が雄姿を現した。

 アアッ、とうとう最終目的地へ到着だ。無事祖国へ帰還できる!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ