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対テロ特殊部隊スワン 血の巡礼団を壊滅せよ  作者: 風まかせ三十郎


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第64話 激闘! スワンVS血の巡礼団

「敵さん、大混乱ね」


 アイリーン大尉が炎の照り返しを受けて呟いた。


「さあ、今の内だ。セーラ、VIPを探してくれ」


 隊長がわたしを顧みた。


「了解」とは言ったものの、こんな状況で精神を集中できるはずもなく……。 

振り子(ペンディユラム)はウンともスンとも言ってくれない。

 もう一度。

 再び精神を集中すると、振り子はようやく動き出した。

 やれやれと安堵したのも束の間、あれれ、なに、これ?

 振り子の動き方が変! いつものように円を描くことなく、いきなり左右に振幅した。そして鎖を引きちぎらんばかりの勢いでグイッと右へ跳ね上がった。その先端が指し示した方向を見ると……。


「危ない、逃げて!」


 総員、四方へ散った。

 なんて素早い人たち。結局、取り残されたのはわたしだけ。

 それって最悪! なぜなら対戦車ロケット砲の標的にされていたのだから。

 向けられた砲口に死の深淵を覗き見た。

 あの対戦車ロケット砲を担いだ大男は、確実にわたしを殺そうとしている。ーーと思ったら、突然、大男は照準から視線を外してしまった。その顔には明らかに動揺が見て取れた。

 

「セーラ、来るんだ」


 レナ少尉だ。わたしを抱えて柱の陰に逃げ込んだ。


 ドドドドドッ。


 少し遅れて敵兵の銃撃が始まった。

 

「よくもまあ、次から次へと」


 アイリーン大尉が呆れ顔で呟いた。

 敵兵は攻撃に有利な大広間の上層部を占拠していた。

 わたしたちは不利な立場に立たされたのだ。


 突然、銃声に紛れて、ロケット弾の発射音が耳朶を掠めた。それは二〇ヤードほど離れた柱に命中して、その陰にいたムター隊長を(あぶ)り出した。

 すかさずアイリーン大尉とレナ少尉が敵兵に援護射撃を浴びせかける。

 敵兵を二人撃ち倒したところで、隊長が柱の陰に飛び込んできた。

 

「どうする?」とアイリーン大尉。

「取り合えず、あそこへ逃げ込むか」


 隊長が左手の通路へ視線を走らせた。

 わたしたちは柱の陰から飛び出すタイミングを伺った。

 不思議なのは対戦車ロケット砲の第二撃がなかったこと。

 ロケット弾を装填する時間は十分あったはずなのに……、なぜ?

 その疑問は即座に氷解した。呆れたことに、あの大男は紫礼装の女と、対戦車ロケット砲の奪い合いを演じていた。その怒鳴り声は銃撃音を縫って、わたしの耳元まで届いた。

 

「なに子供にビビッてんだい! さっさとお寄越し、このチキン野郎!」


 紫礼装の女が喚きながら対戦車ロケット砲を引っ張った。

 

「無理です。アネさんには扱えやせん!」


 大男が必死に対戦車ロケット砲を抱え込む。

 なんでこんなときに……。

 

「セーラ、行くわよ!」


 耳元でアイリーン大尉が怒鳴った。

 そうだ、逃げるなら今の内!

 銃火が止んだ隙に、まず隊長が先行して、その後をわたしとアイリーン大尉が追った。

 敵の銃火が先行した隊長に集中する。その間隙を縫ってわたしとアイリーン大尉が通路へ向かって走り出す。

 足元の跳弾(リープ)にヒヤッとしながらも、なんとか無事に通路へ滑り込んだ。

 最後にレナ少尉。そのとき悲劇は起こった。

 

「くらえ!」


 紫礼装が絶叫と共に対戦車ロケット砲のトリガーを引いた。

 

 ドォーン!


 直後、レナ少尉の姿が炎に包まれた。

 心臓が凍り付いた一瞬。何かが炎の中から躍り出た。

 

 アアッ、よかった。レナ少尉だ。

 

 隊長とアイリーン大尉が援護射撃で敵兵を抑え込む。

 レナ少尉が走り出す。

 隊長がタイミングを計って手榴弾(ハンドグレネード)を投擲した。

 ほぼ同時に紫礼装が対戦車ロケット砲の第二弾を発射した。

 

 ドォーン!


 ロケット弾は大きく逸れて後方の壁に命中した。

 でも手榴弾の方は敵兵のど真ん中で炸裂した。

 

 やったぁ!


 数名の兵士が悲鳴を上げて上層階から落下した。

 生き残った兵士が我先にと逃げ出す。

 紫礼装と大男の姿は見当たらない。不利を悟って(いち)早く撤収したのだ。

 

「レナ、大丈夫か?」


 隊長が尋ねた。

 レナ少尉が手早く身体の各所をチェックした。


「異常ありません」

「そうか」


 隊長の顔に安堵の色が浮かんだ。


「アッ、あれは……」


 不意にアイリーン大尉が叫んだ。

 彼女の指さした方向を見ると……。

 

 まっ、まさか、あの人、わたしたちの探していたVIPじゃ……。


 瓦礫の上に男の人が横たわっていた。

 なんでそんな所にVIPが?

 ふと上を見上げると、ロケット弾が命中した壁にはポッカリ穴が空いていた。

 どうやら外壁と内壁の透き間に階段が存在したようだ。

 男の人はそこから落下したのだ。


「お~い、秀一郎。大丈夫かぁ?」


 不意に若い女性の声がした。

 なんか聞き覚えのある声だ。下品で乱暴でおまけに間が抜けてて、出来れば二度と聞きたくなかった。

 壁の穴から声の主がヒョッコリと顔を出した。

 

「あれ、隊長!?」


 やっぱクリスだ。その背後からリン曹長が顔を覗かせた。

 隊長が気絶した男の人の傍へ駆け寄った。

 手首の脈と心臓の鼓動を手早く確認すると、


「大丈夫、気絶しているだけだ」


 それから男の人を抱えて活を入れた。

 

 ウ~ン。


 男の人が意識を取り戻した。わたしたちを味方と認識したのか、慌てた様子で左右を見ると、


「コニーは、コニーはどこに?」


 隊長が目視でクリスに尋ねた。


「それが……、敵に捕まっちゃって」


 男の人が隊長の手を振り払って立ち上がった。

 

「待て」


 隊長が男の人の肩に手をかけた。


「彼女は我々が救出する。おまえは先に脱出しろ」


 そしてクリスとリン曹長に男の人の護衛を命じた。

 だが男の人は収まらなかった。

 (まなじり)に悲壮な決意を漲らせると、


「もしコニーを救出できなければ、わたしは一生悔いるでしょう。彼女は必ず我が手で救出してみせます。たとえ我が身は滅びようとも!」


 なんて大袈裟な台詞!

 思わず吹き出しそうになって慌てて口を押えた。

 でもこんなに愛されてるコニーさんって、やっぱ幸せなんだろうな!

 隊長も口元を綻ばせた。

 

「その気持ちは尊重しよう。だが素人を同行しても邪魔になるだけだ」

「どうしてもわたしを同行できないと?」

「すまない」


 男の人の表情が険しくなった。

 

「ならばわたし一人でコニーを救助するまでです」


 押し殺した声でそう呟くと、いきなり隊長に拳銃を突き付けた。


「救出してくれた人にこんなこと言いたくはありませんが……。動くと撃ちますよ」


 男の人は拳銃を構えたままジリジリと後退した。


「クソッ!」


 クリスが飛び出そうとして、隊長に肩を掴まれた。

 やがて彼我の距離が五ヤードほど開いたろうか。不意に男の人は踵を返して走り出した。

 その背中に向かってクリスが喚いた。


「あのバカ、昔とちっとも変らねえ!」

「総員、後を追うぞ」


 隊長が口端に微笑を浮かべて厳命した。


「いいか、必ずあの二人に式を挙げさせてやれ。これは女の意地だ」


 リン曹長が尻馬に乗って呟いた。


「そんときゃ、ご祝儀なしの食い放題ってね!」

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