第63話 銃撃戦 スワンの反撃
あら~、あるわ、あるわ。
自動小銃から対戦車ロケット砲、果ては地対空ミサイルまで。
血の巡礼団の武器庫は正に近代兵器の博覧会。これだけの武器を揃えていたら、アムリア軍の一個師団と戦っても負けやしない。ここはレナ少尉の言葉に従って、必要な武器だけ調達して、残りは破壊してしまうのが世界平和への貢献というもの。それにしても昨今のテロ組織って、ほんとお金持ちなのね。
セーラは途方に暮れてため息をついた。
山のように積まれた武器を目の前にして、どれを選択していいのか迷ってしまう。
取り合えず銃架に据えられた短機関銃を手に取ってみる。
ズシリと重い感触に肩が悲鳴を上げた。
こりゃ、とてもじゃないけど扱えないよ。
それではとばかりに今度は自動小銃に手を伸ばす。
やっぱり重くて持っているのがやっと。こんなもんブン回して戦うなんて不可能だ。
あ~、困った、困った。
「おまえに似合いの銃があるぞ」
レナ少尉が一丁の銃を差し出した。
「ほら、おまえの好きなコルトの小型拳銃だ。これなら軽いから大丈夫だろ」
銃口を下げて拳銃の感触を確かめる。以前使用していたものより更に軽量化されており、銃把の握り具合も良好だ。
よし、これなら大丈夫。
予備の弾倉を五つもらって、その一つを銃把に差し込む。そうしてやっと武器を一つ選択し終えたとき、既に他の人は完全武装を終えていた。
レナ少尉は擲弾発射機付きの自動小銃。
ムター隊長とアイリーン大尉は短機関銃。
みんな襷掛けしたベルトに弾倉をぎっしり詰め込んでいる。
腰のベルトには予備の拳銃と弾倉。そしてパイナップル型の手榴弾が数発挟まれている。
レナ少尉の右手には見慣れぬ鉄製の箱が。
「さあ、モタモタしないでおまえも手伝え」
レナ少尉、そう言って鉄の箱を差し出した。
「なんですか、これ?」
「知らないのか?」
「……」
「対人地雷だ」
「エエッ、これがぁ!」
危うく地雷を落としかけた。
「気をつけろ」
レナ少尉が小声で呟いた。そして自らも両脇に地雷を抱えると、
「こいつで敵を片っ端から吹っ飛ばしてやる。VIP探しはその後だ」
「あの、それって順序が逆じゃ……」
「うん、なんだ?」
レナ少尉に怖い目で睨まれては、もう、なにも言い返せない。
総員、通路の各所に地雷をセットする。
箱の側面に付いた脚を広げて、敵の見えにくい場所に立てかけるのだ。それから本体の覗き穴を通して方向を調整する。
約五分ほどで二〇個の地雷をセットすると、隊長はレナ少尉とアイリーン大尉に指示を出した。
「よし、行け!」
囮を使って敵兵を地雷をセットした場所まで誘き寄せるのだ。
わたしと隊長、共に通路の陰に隠れると、息を殺して敵兵が来るのを待った。
三分くらい待ったろうか。彼方で銃声が鳴り響いた。
レナ少尉が通路の奥に姿を現した。
柱の陰に隠れると、小銃で追ってきた敵兵を狙い撃つ。そして再び猛ダッシュ。大広間を斜めに横切ると、また柱の陰に隠れて敵兵が群がり来るのを待つ。
誘き寄せた敵兵は十名ほど。我先にレナ少尉を仕留めようとして、周囲に対する警戒を怠っていたようだ。
レナ少尉が隙を見て左側の通路に飛び込んだ。
バックアップに回っていたアイリーン大尉が銃弾をばら撒きつつ叫んだ。
「今よ! 起動して」
「了解」
ムター隊長が手元の起爆ハンドルを押した。
ドォーン!
鼓膜が破れそうなほどの大爆発。
爆風が通路を吹き抜ける。
左側の通路に殺到した敵兵は、地雷によってバラバラに消し飛んだ。
息つく間もなく新たな敵兵が現れた。今の爆発音を聞いて押っ取り刀で駆け付けて来た。
ムター隊長がその魅惑的な唇を開いた。
「二発目、いくぞ」
「了解」
アイリーン大尉が即座に応える。
ドォーン!
通路の両側に仕掛けた地雷が爆発して、飛び出してきた兵士を片っ端から薙ぎ倒した。
「いいか、ここを動くなよ」
隊長が短機関銃片手に通路から飛び出した。
ほぼ同時にアイリーン大尉とレナ少尉も飛び出す。
三人は柱の陰から残敵に銃弾を浴びせかけた。
小さな悲鳴を連ねて敵兵が次々に倒れてゆく。逃げようとした敵兵も背中から撃たれて、すぐに仲間の後を追った。
余りの悲惨な光景に、顔を背けようとしても背けることができなかった。
隊長が硝煙立ち昇る銃口を下げた。
「だいたい二〇といったところか」
もちろん死体の数のことだ。どうやら隊長はその数に不満らしい。
彼女は足元の死体をつま先でゴロリと転がした。
「襟章を見ろ。こいつは少佐だ。たぶんこの要塞には小隊規模の部隊が駐屯しているはずだ」
アイリーン大尉が周囲の死体の山に視線を走らせた。
「……と言うことは、敵兵はまだ二〇名くらいは残っているわけね」
「まあ、そういうわけだ。敵兵が来る前に移動するぞ」
隊長がレナ少尉を顧みた。
「例の置き土産は?」
「いつでも」
「そうか」
わたしたちは足早に武器庫から離れた。
敵が索敵に動員した兵士は、先ほどの戦闘で大方始末したようで、敵兵に遭遇することなく一階の柱廊門まで辿り着いた。そこで隊長が部隊に停止を命じた。
「レナ、爆破だ」
「了解」
レナ少尉が起爆ハンドルを握り締めた。
「3,2,1,爆破」
ドカ~ン!
凄まじい爆発音と共に宝物殿が震撼した。柱にしがみ付いて咄嗟に転倒を免れる。そして何かが崩れる轟音。
砂粒がパラパラと頭に降りかかる。
天井が落下するんじゃないか、柱が折れるんじゃないかと、内心冷や冷やものの数十秒間。
間もなく激震は収まった。
柱の陰から恐々と外を覗くと、宝物殿の各所から濛々と黒煙が立ち上っていた。
それが隊長の言う置き土産だったとは……。




