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対テロ特殊部隊スワン 血の巡礼団を壊滅せよ  作者: 風まかせ三十郎


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第53話 裏切りと罠

 突然、高圧的な声が響き渡った。

 クリスとリンさんがわたしを挟んで素早く拳銃を構えた。

 やがて闇の中から、わたしたちを包囲するように、小銃を構えた兵士が一人、また一人と姿を現した。

 

「おとなしく銃を捨てな」


 最後に通路の奥から、グラサンの男が現れた。

 拳銃の照準をピタリとわたしに合わせると、「さもねえと、大切なお嬢さんの命はねえぜ」

 見知った男だ。旅客機をハイジャックしたテログループの一人。

 

「クソッ、サリムの野郎」


 クリスがアッサリと拳銃を投げ捨てた。

 

 まさかサリムがわたしたちを裏切った?

 頭の中はもうパニック状態。次に取るべき行動が思いつかない。

 

「まっ、人生、こんなもんかもねえ」


 リンさんも諦め顔で拳銃を投げ捨てる。

 ここで拳銃を投げ捨てたら、身を守る術を失ってしまう。

 座して死を待つよりは、わずかな可能性に賭けて一か八か。

 

「やめろ!」


 クリスが厳しい口調で言い放った。


「銃を捨てるんだ」


 どうしてよ? と目で問うと、「いいから、言う通りにしろ」と怒鳴った。

 仕方ない。嫌々ながら拳銃を投棄した。

 クリスがグラサンに向かって叫んだ。


「このお嬢さんの命は保証してくれるんだろうな?」

「ああ、勿論だ。アムリア政府が俺たちの要求を呑むまで、せいぜい可愛がってやる」

 

 グラサンが口元に酷薄な微笑を漂わせた。


「それを聞いて安心したぜ」

 

 クリスがチラッとわたしを見てほほ笑んだ。


 なんだ、そういうこと。自分の命は犠牲にしても、わたしの命だけは守ろうと、

 ほんと、舐めた真似してくれるじゃない。

 だんだん腹が立ってきた。そんなことされてわたしが喜ぶとでも思ってんの?

 

「最後にひとつだけ聞きたいことがある」


 グラサンは拳銃を掲げて一旦、わたしから照準を外すと、「ハシャを殺ったのはどいつだ?」


「ハシャ?」


 リンさんが小声で呟く。

 

「誰だよ、そいつは?」


 クリスも追従する。わたしだって知らないし。

 グラサンが押し殺した声で呟く。


「そのお嬢さんを追っている最中に、おまえたちに射殺された男だ」


 ああ、あの男ね。頭にバンダナを巻いた……。

 

 クリスが唇を歪めた。


「なるほど、仇討ちってわけか。おたくも大変だねえ。身内にアホがいると」


 あの男、わたしの唇を強引に奪った……。

 思い出しただけでも身震いする。

 あの男はアホに違いない。わたしに乱暴しようとして、背後からリンさんに頭を撃ち抜かれたのだから。

 

「アホなやつでも俺の弟分でね」


 グラサンの口元から笑みが消えた。


「あいつの仇は兄貴分の俺が取ってやらなきゃな」

「あたしよ、その男を殺ったのは!」


 不意にリンさんが叫んだ。


「おい、リン」


 クリスがポツリと呟いた。


「そう死に急ぐなよ。教官も言ってたろ。戦場ではしぶといやつが生き延びるって。もう死んでもいいと思ったら、そのときが本当の最後だって」

「そうか、おまえか……」


 グラサンが拳銃の照準を定めた。

 

「じゃあ、まずはおまえから死んでもらうとするか」

「やめて!」


 毅然とした態度でグラサンを睨みつけた。

 リンさんを背中で庇いつつ、照準の軸線上に立ち塞がった。

 グラサンが焦れたように呟いた。

 

「おい、どけ。どかねえと、おまえから殺すぞ」

「ええ、どうぞ」


 わたしは胸を張って答えた。


「その方がわたし、自分に納得できるから」


 そうだ! 自分のために二人を犠牲にするなんて、そんなこと納得できるはずがない。

 目に前で二人を殺されるくらいなら、自分が先に殺された方がどれほど気が楽か。

 

「まったく、おめえってやつは……」


 クリスが呆れ顔で呟いた。


「気にするなよ。俺ら、おまえを助けるのが仕事なんだから。おまえを庇って死ぬのも給料のうちだって」

「その通り」


 リンさんが同調して言った。


「あたしは死ぬ気なんてサラサラなかったけど、それでも保護対象を見捨てて逃げるほど落ちぶれちゃいないって。だからあたしらのことは気にしないで」


 彼女、顔が真っ青。間違いなく無理して言ってる。でも土壇場になれば、命懸けで義務を果たそうとする。そんな二人の一途なな使命感に、わたしは鼓舞されたのだ。


「おい、早くどかねえか!」


 グラサンが語気を荒げた。もう切れる寸前って感じで。

 それでもどかない。絶対にどくもんですか!


「クソッ!」


 グラサンが叫んだ。銃口はピタリとわたしに向けられたまま。

 てことは大切な人質だろうと容赦はしないってこと。

 

 グラサンのトリガーを引く指が、わたしの瞳の中で大写しになる。指の筋肉がピクリと動いた瞬間、両肩にかかったリンさんの腕が、わたしの身体をドンと前方へ押し出した。


 バーン!


 銃声が夜空に木霊した。同時にドッと何かがわたしの上に覆いかぶさった。

 背中に人の重みと温もりを感じさせる。

 きっとリンさんだ。わたしと一緒に倒れ込んだのだ。そのままの格好でピクリとも動かない。

 まさか撃たれた!?

 首をひねって尋ねた。


「大丈夫?」

「ええ、どうにか」


 やっとリンさんが上半身を起こした。でもそれっきり彼女は前方の一点を見据えたまま、なかなか起き上がろうとはしなかった。

 凍てついた大気の中で一切の音が消えた。

 いったい何が……。彼女の目を釘付けにしてしまうものって?

 生死の境でボケをかますのだから、きっと何か物凄いものを見たとか。

 それって、もしかしてクリスの死体。まさか!?

 恐る恐る彼女の視線を辿ってみる。

 地面に何者かが横たわっている。

 あれはグラサンの死体だ。

 

 ドドドドドッ……。


 刹那、多数の銃声が凍った大気を撃ち砕いた。

 咄嗟に地面に伏せて目を閉じる。瞼の裏は曳光弾の光で真っ白。耳の鼓膜だって破れそうだ。

 銃撃は十秒ほどで止んだ。

 再び静寂。

 余りの急激な変化に、もう頭の中も真っ白。

 ただひたすら亀のようにジッとして、次に起こる変化が幸運であることを祈った。


「隊長!」


 クリスの弾んだ声がした。その声音に幸運の響きを感じ取った時、ようやく目を見開くことができた。

 

 あの人、誰?

 

 迷彩服に身を包んだ金髪の女性が、小銃片手にグラサンの死体を見下ろしている。ふと周囲を眺めれば、あちこちに敵兵の死体がゴロゴロしている。

 広場の奥手に、やはり小銃を構えたロングヘア―の女性が。

 あの人、どこかで見た覚えが。そうだ、旅客機の中で客室乗務員(キャビンアテンダント)を装って、わたしを助け出そうとした……。

 その背後に隠れた幼い少女、怯えた目つきで死体の山を見つめている。あの子とも以前会ったような気が。旅客機の中? いえ、もっと以前のどこか別の場所で……。

 混乱した記憶が泡沫のように浮かんでは消え、浮かんでは消え……。

 それはリンさんも同様なようで。やはり現状がよく呑み込めないらしく、わたしに覆い被さったまま、彫像みたいに固まっていた。

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