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対テロ特殊部隊スワン 血の巡礼団を壊滅せよ  作者: 風まかせ三十郎


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第46話 発見! 要塞への入り口

 全員、固唾を飲んで、おじいさんの出方を見守っていた。

 非協力的な態度を取ったら、口封じのために射殺するんだろうか?

 相手は民間人だよ。たとえ自分たちが被害を被っても、彼らを巻き込まないようにするのが本当の正義ってもんでしょ? 

 もし仲間の誰かがおじいさんに危害を加えるようなら、そのときはわたしが身を挺して守るつもりだ。

 でもなるべくなら、レナ少尉の質疑には素直に答えてほしい。

 希望と不安を胸に待つこと三十秒。不意におじいさんが顔を上げた。

 

「ではこうしよう。わしの探し物を見つけてくれたら、お前さん方に地下水路の入り口を教えてやる」


 なるほど、交換条件ってわけね。よ~し、望むところだ。その挑戦、受けて立とうじゃないの!


「ところで何ですか? その探し物って」

「ジャンビアじゃ」

「ジャンビア?」


 なに、それ?


 戸惑い気味にアイリーン大尉の方を見ると、「装飾品の短剣のことよ」と教えてくれた。


「わかりました。」


 わたしはおじいさんの方へ向き直ると、


「その代わり、もしジャンビアを見つけたら、必ず入り口を教えてくださいね」

「ああ、勿論じゃ。イスラム教徒(ムスリム)はアムリア人と違って嘘はつかん」

「そうですか、では」


 そのときアイリーン大尉が心配顔で口を挟んだ。


「セーラ、あなた、疲れているんでしょ? 大丈夫?」


 気を使ってくれるのは嬉しいけれど、甘えてなんかいられない。こういうときこそ部隊のお役に立たねば。


「平気です。わたしもスワンのメンバーですから。こんなことくらいでへたばっちゃいられません!」


 そう言い放って隊長の方を振り返った。

 隊長が力強く肯首した。


 アイリーン大尉も諦め顔で、「そう、なら仕方ないわね。やってみなさい」


「はい、頑張ります!」


 久し振りのステージ気分。気合一新。疲れなんか吹っ飛んだ。

 わたしがしくじれば今夜中に人質を救出することは不可能になる。いや、もしかしたら永久に機会は失われるかもしれない。

 今はおじいさんだけが頼りだ。でもそのおじいさんときたら……。


「フン、見つかるものか。アムリア人に砂漠の何がわかる」と相変わらず非協力的。

 

 仕方がないので、わたしはおじいさんの手を強引に握り締めた。

 

「おい、何を……」

「シッ、静かに」


 意識を集中して、おじいさんの意識とコンタクトを試みる。

 するとモヤモヤした霧の中から、何やら具象化した映像が浮かび上がった。

 少年だ。年頃十二,三歳くらい。ちょっとおじいさんに似ていなくもない。

 あるいは孫かも。

 傍らにいるのはおじいさんだ。何やら得意げに短剣をひけらかしている。

 少年は手を伸ばして、それを欲しがっている。

 おじいさんは短剣を腰の鞘に納めると、


「わしももう歳じゃ。次の誕生日が来たら、これをおまえにやろう」

「本当?」

「ああ、本来なら、もう少し大人になってから与える物なのじゃが、わしが死んだら、誰もおまえにジャンビアを与える者がいなくなってしまうからのう」


 不意におじいさんが落涙した。


「息子が生きておれば、直接手渡すことが出来たろうに」


 残留思念が強くなった。

 今だ!


 右手に握っていたダウジングの振り子をスルリと地面に垂らす。

 物の十秒も経たないうちに、振り子は激しく円を描き始めた。やがてそれは楕円を描いて、わたしを右方向へ引っ張り始めた。

 

「こっち、こっちよ」


 振り子に導かれるままに、おじいさんの手を引いて右方向へ歩き始める。

 目標物に徐々に接近しているようだ。振り子の振幅は鎖が千切れんばかりに大きくなってゆく。

 それに従いわたしの歩調も速くなってゆく。


「こら、もう少しゆっくり歩けんのか!」


 おじいさんの抗議もお構いなし。そうして五百ヤードほども歩いたろうか。

 突然、振り子の振幅が小さくなった。

 ふと足元を見ると、地面の割れ目に、夕日を反射してキラリと光る物体があった。

 

 やったあ、とうとう見つけた!


 地面に垂らした振り子の先端が、その物体の上でピタリと止まった。

 刃先が湾曲した長さ三十センチほどの短刀。柄に美しい装飾品が施してある。

 ジャンビアだ。


「おお、なんと!」


 おじいさんはジャンビアを拾い上げると、愛おしそうに頬擦りした。そして地面に座りなおすと、何やら小声で呟きながら三度ほど平伏した。

 どうやらジャンビアが見つかったことを、(アッラー)に感謝しているようだ。

 でもそれってお門違いじゃない? 見つけたのはわたしなのに。なんでお礼の一言もないのよ。

 わたしのムスッとした表情を見て、アイリーン大尉が囁いた。


「よくやったわね。セーラ」


 背後からわたしの両肩を抱きしめると、


「あなたを連れてきた甲斐があったわ。これでようやく地下水路の入り口を教えてもらえる」

「あの、おじいさんは本当のことを教えてくれるでしょうか?」


 アイリーン大尉が疲れた笑顔で答えた。


「たぶん大丈夫。ジャンビアは男の誇りの象徴なの。それに誓った約束事なのだから、嘘はつかない。いえ、つけないはずよ」


 フ~ン、ジャンビアって本当に大切な物なんだ。


 やがておじいさんが夕日を背に立ち上がった。

 その柔和な瞳にわたしを映しながら。

 

「お嬢さん。よくわしのジャンビアを見つけてくれた。ありがとう」


 あら、意外。あの頑固者のおじいさんが、まさかお礼を言うなんて。

 

「アムリア人は信用できんと思っておったが、お嬢さんは例外のようじゃ」


 おじいさんはわたしの頭を乱暴に撫でると(イテテッ)、その手を彼方へ伸ばした。

 その指先が示した先が……。


「ほれ、あそこじゃ。あの茂みの中に、トタンで塞がれた穴がある。そこが地下水路の入り口じゃ」


 やった! とうとう見つけた! これで今夜中に要塞へ侵入することが出来る。


「おじいさん、ありがと!」


 おじいさんの首に抱き付いて、その日焼けした皴深い頬にキスをした。


「これ、やめんか」


 そう言いながらも、おじいさんは嬉しそうに笑った。


「レナ、入り口を確認しろ」


 ムター隊長の命令が飛ぶ。


「了解」


 レナ少尉は足早に駆け去った。そして待つこと五分。少尉が舞い戻った。


「地下水路の入り口を確認しました。あの老人の言う通りです」

「そうか」


 ムター隊長の顔に安堵の色が浮かび上がる。

 アイリーン大尉も「よかった」とポツリ。

 おじいさんも満足そうにウンウンと頷いた。

 そのとき、


「ーー!」


 突然、目端に入った。

 おじいさんの背中に銃口を向けたレナ少尉の姿が。

 まさか、口封じ!? そんな、やめて!


 咄嗟に意識を集中して、レナ少尉の意識に圧力をかけた。

 彼女の眉根が吊り上がって、額に大粒の汗が浮き上がる。

 トリガーのかかった指はピクリとも動かなかった。

 

 フッー、よかった。


 ムター隊長が駆け寄って、レナ少尉の腕を押し下げた。

 さすがに隊長もやり過ぎと考えてたのだ。

 おじいさんは背後で起こった出来事に気付かなかった。

 わたしたちに向かって片手を挙げると、


「次に来るときには、わしの孫をガイドに雇うといい。あいつは遺跡のことなら、隅から隅までよく知っておる」


 そう言い残して薄暮の中へ消えていった。


「その孫を同行できれば、遺跡の中で迷うこともないのだろうが」


 ムター隊長は厳しい眼差しで、レナ少尉を睨みつけた。


「民間人を巻き込むわけにはいかんからな」

「大丈夫。わたしたちにはこの子がいる」


 アイリーン大尉がわたしの肩を抱き寄せた。


「この子なら必ず人質を見つけてくれる」


 アイリーン大尉の感謝の眼差し。

 きっと彼女もおじいさんを殺すことに反対だったんだ。

 

「フン、甘いな」


 レナ少尉の冷たい一言。

 一瞬、ガラス玉みたいな目で、わたしを睨んだ。

 なんか、いつもの彼女じゃないみたい。いえ、あれが彼女の本性なのかも。

 だとしたら、わたし……。


 そのときムター隊長の命令が耳朶を打った。

 

「今夜、作戦を決行する。宿に戻って救出の準備だ」

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