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対テロ特殊部隊スワン 血の巡礼団を壊滅せよ  作者: 風まかせ三十郎


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第45話 セーラの迷い 水脈探しは大変だ!

 あ~あ、残念。 もうちょっとで人質を奪還することができたのに。


 セーラは岩の上に腰かけて、昼間の戦闘を思い浮かべていた。

 隊長もレナ少尉も奮闘したしたのだけど(双眼鏡を覗いていて震えたよ)、敵も()る者、あと一歩のところで逃げられてしまった。

 アイリーン大尉が戦闘に加わっていたら、あるいは成功したかもしれないけど、わたしのお守役としては、異郷の地でわたしを一人にしておけなかったようだ。

 で、わたしたちはテロリストを追って、パメラ遺跡の麓の町シバムルへやってきたのだけど。

 

 セーラはそっとため息をついた。

 山頂に仰ぎ見るパメラ遺跡は既に残照に染まっていた。

 地面に転がる石ころの影が長く尾を引いている。

 町外れの荒れ地をさまようこと三時間。ダウジング能力をフル回転して探しているけど、それでも見つからない。

 なんて役立たずな超能力。ほとんど泣きが入っている。

 本来ダウジングというのは地下水脈を探すために考案されたものなので、地下水脈(カナート)の入り口を探すのなんて朝飯前のはずなのに……、なんで見つからないのよ!

 もし夜までに見つからなきゃ、今夜要塞に潜入できなくなる。それは人質救出作戦の著しい遅延を意味する。下手をすると作戦は失敗するかもしれないのだ。

 わたしが作戦の成否を握っている。だからなんとしても見つけなきゃ!

 

 息を深く吸い込んで再び意識を集中しようとすると、不意に肩を叩かれた。

 驚いて振り返ると、そこには逆光の中から浮かび上がるレナ少尉の姿が……。

 

「どうだ、少しは休んだら」


 この人のさりげない優しさが嬉しい。でも甘んじてはいられない。

 

「いえ、大丈夫です」


 ほんとは頭の芯が痺れて少し視界が霞むのだけど。こんなに長時間、意識を集中したのは初めてだから。

 

「水脈に沿って探せば必ず見つかるはずです。日没までには必ず……」


 日没まであと一時間。夜になれば発見は困難になる。

 地下水路はパメラ遺跡に向かってほぼ直線状へ延びているのがわかる。だからその水路付近を探索すれば……。

 不意にレナさんの顔が靄の彼方へ遠のいた。

 

 えっ、どうしたの?


 そう思ったのも束の間、意識が急に闇の中へ埋没した。

 

「セーラ、セーラ!」


 呼ばれるままに目を覚ますと、そこにはわたしを心配そうにのぞき込むアイリーン大尉とレナ少尉の顔があった。

 ああ、そうか、わたし、気を失ったんだ。


「セーラ、大丈夫?」


 わたしの身体はアイリーン大尉の腕の中にあった。

 

「ええ、大丈夫です」


 アイリーン大尉の腕を無下に押し退けた。

 と突然、ゴロゴロドーン!

 地鳴りのような音がして、わたしの目の前に何かが転がり落ちてきた。


 えっ、えっ、えっ!?


 気が動転してただうろたえるだけのわたしを尻目に、レナ少尉、ムター隊長、アイリーン大尉の三人が続けざまに音のした方を振り返った。

 落ちてきた物体を落ち着いてよく見ると、それは人間だった。

 アラブの民族衣装(カンドゥーラ)を着た七十代のおじいさんだ。

 何か独り言を呟きながら、痛そうに腰を摩っている。

 背後では三人が用心深そうに佇立したまま、誰もおじいさんに手を貸そうとはしなかった。

 わたしは見兼ねておじいさんの傍へ駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


 おじいさんはわたしをチラリと見たきり、また苦しそうに屈み込んだ。

 

 ああ、そうか、英語が通じないんだ。

 背後の三人に目線で助けを求める。

 アイリーン大尉がわたしの傍らに腰を下ろして、流暢なアラビア語でおじいさんに話しかけた。

 

「大丈夫ですか?」


 たぶんそんなニュアンスだ。

 おじいさんはウンウンと頷くと、アイリーン大尉の肩に掴まって蹌踉と立ち上がった。

 どうやら大した怪我はないようだ。

 

「歩けますか?」とアイリーン大尉。


 わたしには何を言っているのかわからない。

 で、背後を振り向くと、レナ少尉に目線で通訳を頼んだ。

 

「歩けますか?」

 

 彼女はわたしの意を汲んで英語で一言。


「いや、大丈夫じゃ」


 おじいさんは礼も言わずにアイリーン大尉の腕を振り切って歩き始めた。そしてすぐに石に躓いて腰から崩れた。

 アイリーン大尉が呆れ顔でムター隊長を顧みた。


 どうする?


「仕方ない。町外れまで送ってやれ」とムター隊長。

「そこまでお送りしましょうか?」


 アイリーン大尉の好意に、なぜかおじいさんは顔を顰めた。

 

「結構じゃ。異教徒の助けは借りんて」


 そう呟くと、地面を舐めるようにあっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ。どうやら何かを探しているようだけど。

 ムター隊長が痺れを切らしたように進み出た。

 作戦の都合上、この辺りをウロウロされては困るのだ。

 

「何かお探しですか?」


 ムター隊長の顔が強張っている。

 おじいさんは少し驚いたようだけど、「余計なお世話じゃ」そう吐き捨てると、再び地面に視線を落とした。


「そうおっしゃらずに」


 ムター隊長も必死だ。


「わたしたちの仲間に探し物の上手な子がおりますから」

 

 そう言ってムター隊長はわたしを招き寄せた。


「この子です」

「フム」


 おじいさんは白い顎鬚を弄びながら、わたしを睨みつけた。


「で、どうやって探す?」

「それはこの子にお任せくださいな」


 ムター隊長はわたしの両肩に手を置くと、


「神様から力を授かった子ですから」


 えっ~、そんな大袈裟なぁ! 恥ずかしくて思わず俯いてしまった。


 案の定、おじいさんも不快な表情を隠そうとしなかった。

 

「どうせ異教徒の神じゃろ」


 わたしを睨みつけると、


「それとも単なる世迷言かのう。異教徒は平気で嘘をつくからのう」

 

 そして皮肉を一言。


「特にアムリア人は我々イスラム教徒との約束を守った試しがない」


 ちょっとばかりカチ~ンとくる台詞だ。祖国の名誉のためにも聞き捨てにするわけにはいかない。

 

「わたしは嘘をつきません!」


 大見え切って言い放った。


「フン、まあ、よかろう」

 

 おじいさんがムター隊長に視線を移した。


「ところでおまえさん方、ここで一体何をしておる?」


 その訝し気な眼差しに、ムター隊長が答えた。


「我々は観光でパメラ遺跡に来たのです」

「あそこは現在、補修工事中じゃ。入ることはできんぞ」

「ええ、それで遺跡の周辺だけでも見学しようかと」


 そこへ突然、レナ少尉が口を挟んだ。


「我々は地下水路の入り口を探している。だが場所がわからなくて難儀しているのだ」


 ムター隊長の片頬がヒクヒクと引き攣った。

 そりゃ、わたしだって驚いたよ。

 だって現地人に直接、要塞への進入路を訊こうっていうんだから。ほんと、単刀直入もいいところ。

 もし正体を疑われてテロリストに内通されたら、わたしたちは要塞に侵入した瞬間に、哀れ銃弾でハチの巣だ。


「フム、地下水路の入り口とは……」


 おじいさんは白髭を弄んだまま考え込んだ。

 やっぱり怪しいよね。レナ少尉、勇み足だよ。

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