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対テロ特殊部隊スワン 血の巡礼団を壊滅せよ  作者: 風まかせ三十郎


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第44話 ガイドの少年サリム

 ウン、いってえ何だ?

 

 不意に服の袖を引っ張られた。

 ふと傍らを見ると……、小汚ねえガキだ。キラキラした瞳で俺っちの方を見つめてやがる。

 いってえ、何の用だ?


「ネエチャン、旅行者だろ? もしかしてアムリア人?」

「……」


 いや、驚いたねえ。田舎町の、それも見た目、十一、二歳のガキのくせに、一丁前に英語を話しやがった。

 更に驚えたのは、俺らの変装をいとも簡単に見破ったことだ。

 スカーフとコートで全身を覆っているのに、なんでバレちまった?

 

「よう、何でアムリア人とわかった?」

「そりゃ、英語で騒いでたから」


 一瞬、目が点になった。まあ、言われてみりゃその通り。


 オーホホホッ……。


 コニーの高笑いが癇に障る。

 チェッ、てめえだって英語で話していたくせに。


「それにネエチャン、腕まくりして飯食ってたろ? 普通、イスラムの女性は他人に腕を見せないから」

「……」


 そうだった。頭で理解していても、いざとなると普段の癖が出ちまうもんだ。

 以後、気を付けなきゃな。ウンウン。

 ガキンチョが呟いた。


「第一、地元の女性はレストランなんかに入らねえし」

「えっ、どうしてよ」


 周囲を見回してみると、確かに客は男性ばかり。

 でもなんでだよ? ハトバラのホテルのレストランじゃあ、地元の女性客の姿もけっこう見かけたよな。


「ここは田舎町だから。女の人がレストランに入るのはタブーなんだ」

「ひどいわ。それって女性差別じゃない」


 コニーがいきり立った。それは俺っちも同じこと。一番腹を立てたのはリンの奴かもしんねえ。

 ガキンチョが申し訳なさそうに呟いた。


「旅行者はみんなそう言うけど、仕方ないよ。神の思し召しなんだから」

「でも……」


 ガキ相手に、なおも食ってかかろうとするコニーを片手で制すると、


「よう、オメエ、この辺りには詳しいんだろ?」

「そりゃあね。俺は町一番のガイドだから」

「ガイド……」


 俺っちとコニーは反射的に顔を見合わせた。

 

「ねえ、頼むから仕事くれよ。パメラ遺跡が補修工事中で観光客が来ないんだ。お陰でこっちはおまんまの食い上げでよ。今日だって、まだ何も食っちゃいねえんだ」

 

 ガキンチョの視線はテーブルに釘付け。

 ズズズッ……。コラ、みっともねえぞ! 涎なんか啜るんじゃねえ。


「ほら、食えよ」


 見かねて羊肉のヨーグルト煮の皿を差し出した。すると、


「さあ、これも食べなさい」


 コニーも一緒にカバブの皿を差し出した。

 よほど腹が減っていたに違えねえ。ガキンチョは二枚の皿を抱え込むと、(むせ)ぶようにガッツキ始めた。

 

「よう、ところで物は相談なんだが」


 頃合いを見計らって、ガキンチョに話しかけた。


「どうよ。そのパメラ遺跡に入れるよう取り計らっちゃくれねえか」

「駄目だよ」


 ガキンチョは皿から目を離さなかった。


「ガイド仲間が遺跡の責任者に頼んでみたんだ。工事中以外の場所を観光客に開放してくれって。そうしてもらわないと、俺たち失業しちまうって。でも駄目だった。怒鳴られた挙句、もし無断で入ったら銃で撃ち殺すって。実際、あそこにゃ銃を持った兵士が大勢いるし」

「だからよ。誰にも気づかれねえように、そぉ~っと忍び込めねえかって、そう頼んでるんだ」


 ガキンチョのスプーンを持つ手が止まった。

 皿の端から訝し気な瞳が覗いている。


「なあ、頼むよ。俺ら、あの遺跡を見学しに、遥々アムリアから来たんだから」

「そうなの、わたしたち、大学で考古学を学んでいるの。だからどうしてもあの遺跡を見学しておきたいのよ」


 コニーも一緒に頼み込んだ。そうして二人して頼んだが、それでもガキンチョは承知しねえ。

 

「ねっ、お願いよ。もしうまくやってくれたら、ガイド料弾むから」

「いくら?」

「う~ん、そうね……」


 コニーは少し考え込むと、


「一万クレルでどうかしら?」


 ええと、ドルに換算すると約八百……。おいおい、そりゃあ、いくらなんでも払い過ぎだろうが。

 ところがガキンチョの奴、不満タラタラの表情で、「それじゃ引き受けられないや」と抜かしやがった。


「なぜよ?」


 コニーが納得できねえのも当たり前。するとガキンチョはしたり顔で、


「だって、もし見つかったら撃ち殺されるかもしれないんだぜ。たった一万クレルぽっちで、命懸けの仕事なんて出来ないよ」


 このガキ~、人の足元見やがって~!

 思わず手が伸びて、ガキンチョの胸倉を掴みかけた。

 コニーがその手を押し止めた。


「やめなさいよ。子供相手に」


 俺っちを諫めてから、ガキンチョの方を振り向いた。


「じゃあ、二万クレルで手を打たない?」

「二万クレル……」


 そんな大金を提示されても、ガキンチョはまだ不満げな顔してやがる。

 いい加減、そんな生意気なガキ、見切っちまえばいいのに。

 それでもコニーは諦めない。哀願するように両手を合わせると、


「それ以上、持ち合わせがないの。お願い、わたしたちを助けると思って」


 ガキンチョは探るような目つきで、コニーの顔を見つめていたが、やがて、


「わかった。引き受けるよ。それで案内してやるよ」


 俺っちとコニー、顔を見合わせて頷いた。

 内心、ホッと一息……。

 ガキンチョの奴、とうとうOK出しやがった。

 すかさず俺っちが本題に切り込んだ。

 

「で、遺跡に忍び込む方法だけどよ。いってえ、どうやるつもりよ」

「任しておきなよ。おいら、誰も知らない秘密の通路知ってんだ。そこを通れば遺跡の中へ入り込めるよ」

「本当かよ」


 驚き半分、眉唾半分って感じで。まっ、迂闊に信じちゃいけねえな。こりゃ。

 コニーも、そしてリンの奴も、不安げな表情を隠そうともしねえ。そんな雰囲気を敏感に感じ取って、ガキンチョが喚きやがった。


「なんだよ。おいらの言うこと信じられねえのかよ」

「そんなわけじゃねいけど……」とコニー。


 フン、そんな訳だから言葉を濁したんだろうが。


「よう、その話、信じていいんだろうな?」


 俺っちが念を押す。


「神の思し召しのままに」


 チッ、なんてえ言い草だ。とても信用できたもんじゃねえ。


 そのときコニーが俺っちを肘で突いた。

 見ると、何やら目で合図してやがる。

 どうやら話を纏めろってことらしい。まっ、仕方ねえか、こいつ以外、頼れる者はいねえんだし。

 

「よし、それじゃおまえに頼むことにするぜ。いいか、このことは誰にも話すなよ」

「うん、わかってるよ」


 そう言ってガキンチョは掌を差し出した。

 料金の催促だ。

 チェッ、しっかりしてやがるぜ。

 コニーが数枚の紙幣を手渡した。

 ガキンチョはそれをゆっくり数えると、


「あっ、これ、一万クレルしかないけど」

「それは手付金よ。残りは案内してもらった後に」

「チェッ、厳しいな」


 ガキンチョは舌打ちしてから、紙幣を懐へ仕舞い込んだ。

 

「それじゃあ、今夜、さっそく案内してもらうぜ。その前に、まずはおまえの名前を訊いておかなきゃな」


 ガキンチョは胸を張って答えた。


「サリムさ。アフマド・サリム。遊牧民(ベドウィン)の子さ。今は町に住んでるけど」


 その誇らしげな態度からして、それがガキンチョの本名だと確信できた。どうやら偽名を使って、前金をちょろまかすつもりはねえようだ。


「よし、それじゃあ、契約成立だ」


 そう言って、サリムの手を強引に握り締めた。

 サリムが痛みで顔を顰めるくらいに、強く、強く……。

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