第21話 秘蔵っ子 クリスと喧嘩する
「隊長、二人をお連れしました」
カンザキ曹長の後に従って、アイリーン大尉と共に入室した。
「なんでぃ、子供じゃねえか」
いきなりカチンときてしまった。誰よ、そんな失礼なこと言うのは……。
隅の方で壁に寄りかかって、薄笑いを浮かべる人影があった。
あいつか……。
浅黒い肌をした、いかにも兵士といった活発そうな女だ。
「まったく、何の役に立つんだよ。あんなガキ……」
そりゃ、わたしは純情可憐な乙女だけど、それでも役に立つから呼ばれたんだ。
嫌いなんだよね、あのタイプ。言いたいことだけ言って、人に気を使わないから。
あんな人と行動を共にするかと思うと先が思いやられる。
取り敢えず、一発入れときましょうか。
「オバサンこそ、部隊の足手まといにならないでね」
「なんだと!」
女がキッと眉を吊り上げて、わたしに接近してきた。
「おめえ、いってえ、何歳だ?」
「十二歳」
「ハッ、十二歳ねぇ。戦場を舐めんなよ。生きて帰れる保証はねえんだ。その若さで死にたかねえだろ?」
「オバサンの歳なら、死んでもかまわないわけ?」
「この野郎!」
彼女、いきり立って、わたしの胸倉を掴んだ。
なんてからかいがいのある相手なの。取り敢えず安全地帯に避難しなきゃ。
「あ~ん、助けて! 大尉」
わたしはアイリーン大尉に救いを求めた。
彼女はバカ女の腕を片手で押さえた。
「この娘は国防総省が認定したVIPだ。もし傷付けたそのときは軍法会議を覚悟してもらう」
そう、わたしに階級はないけど、それでもお偉方から身分は保証されているのだ。
認識番号ESP003、特別能力試験体。それがわたしの軍における正式名称だ。
「まったく、こんな場所に過保護のガキなんか呼ぶんじゃねえよ」
バカ女は肩をそびやかすと、ようやく諦めて背中を向けた。
アッカンベ~。
わたしはアイリーン大尉の背中から舌を出した。
フフッ……。
誰かが忍び笑いを漏らした。あの人だ。ムター大尉の隣に座っている……。
切れ長の青い瞳に、スッと筋の通った鼻梁。そして薄い唇。身長も六フィート近くありそうで、室内に揃ったメンバーの中では最も高い。
ムター大尉が全員を一頻り眺めた。
「さてと、これで全員揃ったな。それにしても人選の妙だな。よく、これだけの個性的なメンバーが揃ったものだ。気に入ったぞ」
どうやら隊長はご満悦のようだ。
でもあのバカ女が役に立つ隊員なのかしら?
アイリーン大尉も同じことを感じたようだ。
「士官候補生が二人いるようだけど。どうせなら、あなたの部下から二名選抜した方がいいんじゃない?」
ムター大尉が苦笑いした。
「まあ、そう言うな。これでも人選には苦労したんだ。直属の女性隊員は前回の作戦で全員負傷したからな。男性隊員と行動を共にすれば、どうしても目立ってしまう。まっ、このメンバーなら敵に悟られることもなかろう」
なるほど、それで自慢の第一小隊を使わないのね。
わざわざ寄せ集めのメンバーで、人質を救出しに行くわけがわかった。
それにしても、ほんと、大丈夫かなぁ~。
「今回の作戦は極秘任務だ。参加メンバーが少ないのも機密漏洩を防ぐためだ。潜入先は国連からテロ国家に指定されているクルシア共和国。もし我々の存在が表沙汰になれば、両国は戦闘状態に入る恐れがある。従って我々が敵の捕虜になった場合、アムリア連邦は一切の関与を否定するそうだ。つまり助けは来ないというわけだ」
一転して、ムター大尉の目が険しくなった。
出撃に際し、メンバーに命懸けの覚悟を求めているのだ。
既に覚悟は出来ているのだろう。誰も動揺した素振りを見せなかった。
「作戦の詳細を伝える前に、まずはメンバーの紹介といこう」
大尉は傍らの女性の肩に手をかけた。
一瞬、彼女の碧い瞳が微かに含羞んだように見えた。
「エレナ・ニコラスカ中尉。わたしの頼りになる片腕だ。今回の作戦では副隊長を務めてもらう」
「よろしく……」
美人で、かっこよくて、おまけに凄腕みたいで……。なんか理想の女性兵士を見た思いがする。
大尉は続いて、わたしの隣に座っているアイリーン大尉に目を移した。
「彼女の名はアンジェ・アイリーン大尉。戦研から派遣された優秀な頭脳の持ち主だ。今回は作戦アドバイサーとして参加してもらうことになった。むろん腕の方も確かだ。その点はわたしが保証する」
アイリーン大尉が浮き浮きした口調で話し始めた。
「戦研にいて腕が鈍ったけど、本当はソフィ同様、前線勤務が望みだったの。やっと長年の夢が叶ったってところね。そういうことで、よろしく……」
当分、わたしはこの人の監視下に置かれるのだ。
よろしくね、おねえさん。
「さて、次は隣のお嬢ちゃんだが……」
あっ、ひどい! 隊長まで、わたしのこと子供扱いして!
「セーラ・ホワイト。戦研の秘蔵っ子だ。彼女は……、一言でいえば超能力者というやつだ。遠くにいながら、犯罪者や行方不明者の所在を掴むことができる。昔は千里眼を特技に、父親と共に興行していたことがある。知っている者もいるだろう。一時期、マスコミで持てはやされていたからな」
「ああ、知ってるぜ。そうか、おまえが……」
バカ女が失礼な目付きで、わたしをジロジロねめ回した。
「ありゃ、イカサマかと思っていたがよ。まさか超能力とは……。そんなもん信じちゃいねえが、まっ、苦しいときの神頼みだ。ないよりはマシってかぁ」
ふーん、人を舐めてくれちゃって。
わたしはバカ女を睨み付けた。
威圧するためじゃない。そんなことをしても、バカ女には蛙のツラにションベンだ。
透視するために意識を集中したのだ。




