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対テロ特殊部隊スワン 血の巡礼団を壊滅せよ  作者: 風まかせ三十郎


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第20話 戦略研究所の秘蔵っ子

 華やかなスポットライトを浴びて、わたしは舞台の中央に佇んでいた。

 シーンと静まり返った客席から、熱気と興奮が湯気のように立ち昇っている。

 数々の魔術(イリュージョン)に魅了された観客が、最後に体験する現代の奇跡。

 観客の表情が見れないのが残念だ。なぜならわたしは目隠しをしているのだがら。

 傍らで人の立つ気配がした。

 

「レディース&ジェントルマン。期待されし最後の出し物は、皆さまもご承知の通り、未だ誰一人として解明できなかった謎に満ちておりまする。ノーベル物理学賞を受賞した、かの高名な学者でさえ、とうとうその秘密を解き明かすことのできなかった……」


 長い前口上だ。元より観客も承知している。だから舞台は盛況なんだけど。

 お手軽な芸だけに、観客の過剰な期待を重荷と感じてしまう。

 幼い頃から自然にやっていたことだ。誰もが普通に出来ることだと思っていた。

 いつの頃からだろう。自分が他人と違うと感じるようになったのは……。

 

「さーて、それではセーラ・ホワイト嬢の千里眼をお楽しみいただきましょう」


 それがわたしの芸だった。種も仕掛けもない正真正銘の魔術。

 人はそれを超能力と呼ぶけど、わたしはその呼び名が嫌いだった。

 パパの目視を受けて、わたしは客席に語りかけた。


「あの、どなたか財布をお貸し願えませんか?」


 そう言われて積極的に財布を差し出す観客は、あらかじめ客席に仕込んだ桜に違いない。

 パパは舞台から降りると、最前列の親子連れから財布を借り受けた。

 

「まずは小手調べ。この財布の柄を言い当ててご覧にいれましょう」


 財布を目の前にして、少しばかり悩んだ振り。そうして観客の期待を盛り上げる。


「色は黒。牛革かしら。中央にミルケの刻印が。でもこれは偽物ね」


 ハハハハハッ……。


 最前列にいた老紳士の太い失笑は、すぐに大衆の静寂に飲み込まれた。

 目の前の物を、目隠し一枚で透視することなど朝飯前だ。

 でもお客さんは半信半疑。目隠しが透けて見えるとでも思っているのかしら?

 財布の特徴を言い当てても、拍手は疎らだった。


「さて、次は本番。財布の中身を当ててご覧にいれましょう」


 パパが口唇に人差し指に押し当てると、釣られて観客も押し黙った。

 目を閉じて意識を集中すると、闇の中から財布の中身が浮き彫りになってくる。

 札束を数えるのは一苦労だ。

 なぜならお札の絵柄は額面ごとに同じなので、重なっていると一枚一枚の区別がつきにくい。

 以前、身なりのいい老紳士に財布を借りたら、お札を数えるのに十分以上かかってしまった。

 以来、裕福そうな人からは財布を借りないようにしている。財布の持ち主が裕福でないと、その苦労は大幅に軽減されるのだ。


「百七十ドル四十セント。それとカードが五枚」


 わたしが控えめにささやくと、客席からため息が漏れた。

 持ち主立ち合いの下、パパが財布の中身を改める。

 お札の枚数を一枚ずつ数えるたびに、観客の興奮が高まってゆく。

 

「百七十ドル!」


 パパは高らかに宣言すると、続いて小銭を勘定した。


「〆て百七十ドル四十セント。カードも五枚!」


 金額も、カードの枚数もピッタリだ。

 客席から万雷の拍手が沸き上がった。

 目隠しを取ると、ドレスの裾をたくし上げて観客に頭を下げた。


 ■■■


 身体がガクンと座席に沈み込んだ。

 眠い眼を擦って窓外を見ると、誘導路に多数の軍用機がひしめいていた。

 先ほどまでは下方に見えた風景が、今では水平方向へ移行している。

 VIP専用機による快適な空の旅は、どうやら終わりを告げたようだ。

 

「あら、ようやくお目覚めね」


 傍らの席で、美しいおねえさんがほほ笑んでいた。

 わたしの監督役としてハイベル戦略研究所より派遣された、アンジェ・アイリーン大尉だ。

 

「さあ、ベルトを外して。パロマ基地に到着よ」


 民間人のわたしに、軍から出頭命令が出たのは昨日の夕刻だった。

 同じ戦研に所属するアイリーン大尉に伴われて、翌朝、用意されたVIP専用機に乗って、三時間の快適なフライトの後、こうして国内最大級の空軍基地に到着したのだけど。

 機から降りると、迎えのランドローバーが待機していた。

 黒く大きな瞳が印象的。年齢の割に可愛らしい感じの女性が直立不動の姿勢をとった。


「R・カンザキ曹長、お二人をお迎えに参りました。さあ、お乗りください。ムター大尉がお待ちです」


 挙礼すると、ランドローバーの後部座席ドアを開けた。

 彼女の運転で向かった先は、基地内にある指令センターだった。

 地下の作戦本部には、今回は作戦に参加する特殊部隊の面々が集合している。

 むろん、わたしもその一人。戦研で超能力開発プログラムに携わっているところを、その能力を見込まれて、ムター大尉に抜擢されたのだ。

 

「後方で作戦のアドバイスをしてもらいたい。できれば人質の監禁された場所を特定して欲しいのだ」


 ムター大尉の要求に対して、私は喜んで協力する旨を伝えた。

 できれば実戦に参加したい気持ちなんだけど……。


「子供を危険に晒すわけにはいかんのでな」


 体よく断られてしまった。

 超能力開発と並行して、戦闘技術の習得に励んでいるわたしにとって、今回の作戦は初の実戦経験となるはずだったのに。なんかとても残念な気がする。

 カンザキ曹長に先導されて、作戦本部の前に立った。

 ドアの外から室内の様子を観察する。

 一人、二人、三人……。ムター隊長の他に、女性兵士が二人いるのが見えた。

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