表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
対テロ特殊部隊スワン 血の巡礼団を壊滅せよ  作者: 風まかせ三十郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/77

第19話 拒否権なし あたし、救出部隊に参加します

 闇の中に光が射した。

 目を見開けば、そこには、あら、懐かしい顔が……。


「クリス……」


 彼女の唇から安堵のため息が漏れた。

 

「リン、やっと目を覚ましたか」


 ぼんやりした視界で周囲を見回してみる。


「ええと、ここは……」

「野戦病院のベッドの上だ。俺ら、戦闘で気絶して運び込まれたんだ」


 思わずベッドから跳ね起きた。

 反射的に、あの金髪のすかし(づら)が脳裏を過る。


「そうだ! あたしら、あの女に銃剣で感電させられて……」

「ああ、とんでもねえ強ええやつだった。訓練なのに、殺されるぅ~って感じだったからな。誰なんだ? あのおばさん」


 そのとき駐屯地内に設置されたスピーカーからアナウンスが流れた。

 

--C・リネロ、R・カンザキ両名は至急、大隊本部へ出頭せよ。繰り返す……。


 お互いに相手の目を覗き込む。

 意識を回復したとたん、これだ。

 また鬼教官になんか言われそうだ。

 もう、うんざり……。

 クリスも天を仰いで嘆息すると、


「大方、さっきの戦闘の経緯が問題視されてるんだろうぜ。あんなヘボい戦い方したんじゃ、落第は当然ってな」

「なによ、作戦を立案したのは教官たちなのに……」

「取り敢えず急ごうぜ。教官共を待たせたら、小言が増えちまうからな」


 わたしとクリス、連れ立って大隊本部へ急いだ。

 擦れ違いざま、声をかけられた。

 同じく今回の演習に参加した、同期の士官候補生カール・ハインツだ。


「よう、一番手柄! お疲れさん」

「ああ、おめえもな!」


 二人は拳をかち合わせた。そうしてお互いの健闘を讃えるのだ。

 クリスが辺りを憚るように声を潜めた。


「おい、おめえら、なにやってた? 最終ポイントに辿り着いたのは、俺っちとリン、二人だけだぞ」

「いや、それなんだけど、全員途中で脱落したんだ。相手が強過ぎて」

「マジか?!」

「ああ、おまえらを除いて誰一人、敵の防衛線を突破できなかった」


 確かにカールの言う通り。

 そういえばあの女、精鋭揃いの部下をああたらこうたら言ってたっけ。

 まさか相手は実戦経験豊富な古参兵の部隊だったりして。格闘戦の基本に忠実でありながら、実戦の中で修得した独自の格闘術を身に付けている。そんな連中って気がしたんだ。

 去り際、カールが教えてくれた。


「みんな言ってたぜ。今回の演習、なんか試されてるみてえだって。試験を受けてるみてえだって」


 そういえばあの金髪のおねえさん、一次試験とか最終試験とか、そんなこと言ってたな。


 二人して大隊本部の前に立った。

 ドアを軽くノックする。


「R・カンザキ、C・リネロ。ただいま出頭しました」

「よし、入れ」


 ドアを開けると、正面の机にはあの鬼教官の姿が……。

 彼の名前はマイケル・フォックス少佐。まだ三十をちょいと過ぎたばかりの若い教官だ。

 背が高くて、足の長いイケメンなので、黙って見つめられていると、頭がボーッてしてしまう。もっとも、そんな素振りを少しでも見せようものなら、立ち所に落雷の直撃を受けるんだけど。

 そして鬼教官の傍らには、な、なんと、あの金髪の女性士官が!……後ろ手を組んで起立していた。


「アーッ、おまえは!」


 クリスがわめいた。うるさいったらありゃしない。まっ、驚くのも無理はないけどね。

 フォックス少佐が口元に笑みを浮かべた。


「紹介しよう。アンネ=ソフィ・ムター大尉。おまえたちも名前くらいは聞き及んでいるはずだ」


 驚いた。あたしら、噂に高い陸軍最強の兵士と闘っていたんだ。

 負けて当然だよ。

 金髪のムター大尉が口を開いた。


「今回の演習を利用して、おまえたちの実力を試させてもらった。まあ、褒められた戦い方ではなかったが、あれなら部隊の足手まといになることもなかろう」

「試す、ですか?」


 鏡を覗けば、狐に摘ままれた顔が見えるはずだ。

 そりゃそうだ。なんの試験かは知らないけど、そんなこと一言も聞いちゃいないんだから。

 クリスも不満顔だ。


「試験なら試験って、最初から言ってくれれば……。少しはいいとこお見せできたんですがね」


 ムター大尉が苦笑した。


「まあ、そう怒るな。詐欺行為の代償なら望み通り支払ってやる」


 そう言って一枚の写真を差し出した。


「この男に見覚えがあるはずだ」


 二人して写真を覗き込む。


 あら、ステキな人……。


 涼し気な目元と白い歯が印象的。品の良さを感じさせる二十歳過ぎの若い男だ。

 鬼教官を除けばこんないい男、士官学校では見かけたことがない。

 ほ~んと、お知り合いになりたいわぁ~。


「あ~、コンニャロォ~」


 突然、クリスが叫んだ。

 わたしは驚いて尋ねた。


「どうしたのよ? いきなりわめいたりして」

「おめえ、忘れちまったのかよ!」


 クリスの尋常ならざる意気込みに、あたしは少し引いてしまった。


「……忘れたって、なにを?」

「あいつだよ。ええと、ほら、泣き虫オカマの秀一郎」

「え~! まさかぁ!」


 あたしも思わず絶叫してしまった。


 新藤秀一郎。


 あたしとクリスの小学校時代(エレメンタリー)の級友だ。良家のお坊ちゃんで、下町(ダウンタウン)の小学校には不釣り合いな品の良さが災いして、よくクリスや仲間に泣かされてたっけ。


「覚えていたか。新藤財閥の御曹司を……」


 大尉は迷彩服のポケットに写真を忍ばせると、


「半月前に、エア・アムリア航空の旅客機がハイジャックされたことは知っているな?」

「ええ、そのことならニュースで」


 漠然と半月前のニュースを思い出す。

 救出作戦は失敗。ハイジャック機は人質を乗せたまま敵国領へ飛び去った。

 そのとき救出作戦の指揮を執ったのが、確かムター大尉だったはず。

 翌日、生徒たちの間で、テロリスト側の巧妙な戦いぶりが話題となった。

 

「ハイジャック犯は中立国で四百名の人質を解放した。しかしまだ五十名余りの人質が敵国に勾留されたままだ」


 大尉の決意を秘めた双眼が、あたしとクリスの顔を交互に睨み付けた。


「おまえたちの力を貸してほしい。敵国で行動の自由を確保するには、女性の方が都合がいいのだ。それにおまえたちは御曹司の顔を見知っているしな」


 クリスの口元に笑みが浮かんだ。


「秀一郎には借りがあるからよ。まとめて返すにはちょうどいい機会だ」


 背筋に悪寒が走った。クリスのやつ、やる気満々だ。


「C・リネロ、喜んで作戦に参加させていただきます!」


 挙礼すると、挑発するようにムター大尉を睨み付けた。


 あら、言っちゃった。

 思わず立ち眩みを覚えた。

 即断即決、迷いなし。まあ、昔からケンカ好きで、危険を好むようなところがあったから、この選択も自明の理ってやつなんだろうけど。


 大尉の視線がわたしに移った。

 まさか、あたしも作戦に参加しろと? ご冗談を!


「おまえはどうなのだ? 歯応えのある連中と戦いたいのだろ?」


 いえ、あたし、そこまで逞しい男には飢えておりませんので。できれば今回の要請はお断りしたいかと。


「あの、あたしが救出部隊に参加しても、お役に立てるとは、とても……」


 突然、鬼教官があたしの名を呼んだ。


「リン・カンザキ士官候補生!」

「ハ、ハイ!」


 鬼教官の押し殺した呟きに、思わず直立不動の姿勢をとった。

 厳しい眼差しで、あたしを睨み付けてくる。


「おまえも救出作戦に参加するんだ」

「そ、そんな、教官!」

「反駁は許さん。これは命令だ」


 最悪だ。上官の命令には逆らえない。でも若い身空で死にたくないよぅ~。


「もし命令を拒否した場合は?」

「そのときは退校処分とする」

「そんなの横暴です」

「横暴だと? では訊くが軍人の本分とは? おまえはなんのために軍人を志した?」

「それは……」


 言葉に詰まった。

 そうだ、あたしの心の中に志願動機など存在しない。クリスが時折口にする軍人への憧憬など、ひと欠片も存在しなかった。結局、お座成りの回答しか頭に浮かばない。


「……国家に忠誠を尽くし、国民としての義務を果たすため」

「おまえ、本当にそんな大義を信じているのか?」

「……」

「大義を妄信する人間は、いざとなると脆いものだ。士官学校の優等生によく見かけるタイプだが」

「自分は他に回答を知りません」


 鬼教官がフッと笑みを漏らした。


「ならば宿題を出そう。その答えを実戦で探してくるのだ。その答えを見つけたとき、おまえは一人前の兵士になれる」

「答えを見つける前に、もし戦死したら……」


 元も子もないんだよ。このアホ教官が!


「軍人である以上、死は覚悟の上だ。その壁を乗り越えて、死の恐怖を超克(ちょうこく)してみせろ」


 あ~、まだ死にたくないよ! なんとか、なんとかしなきゃ!

 あたしがなおも逡巡していると、


「バカ者が! なにをしている! さっさと宿題を片付けてこんかぁ!」


 とうとう落雷だ。これ以上グズっていたら、次は間違いなく鉄拳の雨が降り注ぐ。


「了解。リン・カンザキ、これより救出部隊に参加します」


 クソッ、鬼教官のやつ、戦死したら必ず化けて出てやるから。


 挙礼してクリスと共に部屋を退出すると、ドアに向かってアカンべ~と舌を出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ