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対テロ特殊部隊スワン 血の巡礼団を壊滅せよ  作者: 風まかせ三十郎


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第14話 アンジェ&レナVSテロリスト集団

 まったく、なんてお転婆なんだろ?

 民間人のくせに、テロリストに逆らうなんて……。


 アンジェ・アイリーン大尉は唇を噛んだ。

 

 抜き差しならない事態になった。

 逆上した女テロリストが、お嬢さんの顔にナイフを突きつけたのだ。


 マズいな……。


 助けようにも、こちらは丸腰なのだ。今、助けに入っても犬死にするだけだ。

 でも放ってはおけない。もし女テロリストが有言実行すれば、お嬢さんは死にも等しい苦しみを味わうはず。

 なんとか言葉で取り成してみよう。それで駄目なときは……。

 意を決して座席から立ち上がったそのとき、


 ドォーン!


 突然、耳をつんざく爆発音が鳴り響いた。

 瞬間、女テロリストの視線が窓外へ流れた。


 今だ!


 一陣の風のごとく一気に通路を駆け抜ける。

 わたしの接近に気付いた女テロリストが、振り向きざま拳銃の引き金を引き絞った。

 

 バァーン!


 咄嗟に姿勢を低くして、放たれた銃弾の下を掻い潜った。

 勢いのままに、女テロリストの腰へ体当たりを喰らわせた。

 縺れ合いながら拳銃とナイフの奪い合い。

 相手の両手首を押さえると、すかさずお嬢さんが拳銃を蹴り飛ばした。

 民間人のくせになんて気の強い。深窓の令嬢という印象は、どうやら訂正した方が良さそうだ。

 自由になった右腕の前腕を、強引に相手の咽喉へ押し付ける。女テロリストの口端から泡が零れた。

 

「さあ、今のうちに、早く逃げて!」


 一瞬、二人は躊躇した。

 互いの表情に困惑の色を浮かべている。

 

「なにやってるの! 早く!」

「コニー、行くぞ」


 お坊ちゃんが戸惑うお嬢さんの腕を引っ張った。

 二人はノロノロと機首方向へ走り出した。

 わたしも二人のあとを追うべく立ち上がった。

 激しく咳き込む女テロリストを横目に、床に転がった拳銃を拾い上げる。

 その瞬間、

 

 バァーン!


 機内に銃声が木霊した。

 

 なに?


 見ると、お嬢さんが真っ青な顔して立ち竦んでいた。

 彼女の震える視線は、傍らにうずくまるお坊ちゃんに注がれていた。

 機首方向の通路に人影があった。

 

 少年だ。

 年の頃は十五、六歳くらいか。抜けるような白い肌をした金髪碧眼の坊やだ。

 握り締めた拳銃を、今度はわたしに振り向けた。


 バキッ!


 枝の折れるような音がした。銃弾が至近を掠めた。

 身体を捻って床に滑り込んだ。

 

 バァーン!


 敵の攻勢を挫く反撃の一発!

 瞬間、少年の小首が左に傾いだ。弾丸はわずかに逸れて、標的の影に弾痕を刻み付けた。

 まさか、弾道を見切っている?

 少年はその陶器のような頬に冷笑を浮かべながら、続けざまに引き金を引き絞った。咄嗟に傍らの座席に飛び込むと、弾丸がミシンの縫い目のように、わたしの残影を縫い付ける。

 

 なんて腕なの!


 凄腕の拳銃使いだ。

 あんな年端のいかぬ坊やが、--信じられない!

 

「あっ、危ない!」


 お嬢さんが悲鳴を上げた。

 振り向くと、ナイフを振りかざした女テロリストの姿が目に映った。

 

 しまった!


 少年に気を取られて、彼女の存在を忘れていた。

 

 キィーン!


 硬い金属音と共に、女テロリストの手からナイフが弾け飛んだ。

 彼女の背後、通路口の奥に作業服を着た女性の姿があった。その手には硝煙の立ち昇る拳銃が握られていた。


 味方だ。特殊部隊(スペシャルフォース)だ。


 構えた回転式拳銃(リボルバー)が再び火を吹いた。

 女テロリストが素早く床に身を伏せる。弾丸はその遥か頭上を水平に飛翔した。


 外した? いや、違う!


 あの女性隊員は少年を狙ったのだ。

 少年が通路口の陰に隠れた。弾丸が少年の残影を撃ち抜く。

 わたしのときとはえらい対応の違いだ。

 それだけ、あの女性隊員の射撃が正確ということだ。どちらも凄腕だけど、これは射撃競技ではない。

 見惚れている場合じゃないんだけど……。

 

 匍匐(ほふく)前進しながら、VIP二人に接近を試みる。

 援護する女性隊員の銃撃は確実に少年を圧迫している。

 彼女がいなければ、今頃わたしは射殺されていた。


 ようやく二人の側ににじり寄った。

 お嬢さんの瞳が動揺して揺れている。


「あの人が……、秀一郎さんが……」


 血溜まりの中で、お坊ちゃんが呻き声を上げた。

 どうやら銃弾が大腿部を抉ったようだ。

 首に巻いたスカーフを解くと、お坊ちゃんの大腿部を縛った。

 

「歩けます?」


 お坊ちゃんは痛みに耐えながら、足を引き摺り起こした。

 

 クッ……。


 スカーフが夥しい血で染まってゆく。

 やはり自力脱出は不可能だ。

 面倒なことになった。

 まさか銃撃戦の最中に、担いで逃げるわけにはいかないし。


「仕方ない。彼は置いていきましょう」


 お嬢さんの顔が恐怖で引きつった。


「そんな……」

「さあ、あなただけでも、早く!」


 キューン!


 思わず身体を屈めた。頭上を新たな銃声が駆け抜ける。

 通路口の少年の傍らに、金縁眼鏡の神父が拳銃を構えて立っていた。

 このままグズグズしていたら、テロリストに包囲されてしまう。

 女性隊員も同じことを考えたのか、反対側の通路から怒声を上げた。


「おい、なにをしている! 早く!」


 お嬢さんだけでも助けなければ……。なんとしても説得しなければ……。

 

「さあ、一緒に来るのよ。彼なら大丈夫。この程度の怪我で死ぬ人なんていないから!」


 本人の意識がハッキリしているので、命に別状はないだろう。

 でもお嬢さんは弱々しく首を横に振った。

 

「あなただけ逃げてください。わたしは残ります」

「あなたはVIPなのよ。あなたに残られると、今後の救出作戦に支障が出るの。他人に迷惑かけたくなかったら、わたしと一緒に……」

「嫌です! 彼を一人にするくらいなら、わたしも一緒に死にます!」


 お嬢さんの瞳から涙が零れた。


 なに浸ってんのよ。このバカ娘!


 突然、エンジン音と共に床がガクンと揺れた。窓外の風景が緩やかな弧を描いて移動している(プッシュアップ)。間もなく機は自力走行(タキシング)を始めるはず。

 残された時間は少ない。もはや説得は断念するしかない。


 仕方ない、ここは一先ず……。


 タイミングを計って立ち上がると、続けざまに弾丸をぶっ放した。

 残弾を残らず撃ち尽くすと、身を翻して一気に通路を駆け抜けた。

 女性隊員の右腕が大きな弧を描いた。直後、眩い閃光と大音響が客室(キャビン)を包み込んだ。

 対テロ用の非致死性特殊兵器、閃光音響手榴弾(スタングレネード)を投擲したのだ。

 敵は一時的に視覚と聴覚を奪われて、身動きが取れなくなる。

 銃撃が止んだわずかな隙に、味方の待つ通路口へ滑り込んだ。

 

「大丈夫か?」


 女性隊員の視線は前方へ向けられたまま……。

 

「ええ、なんとか」


 彼女には感謝しなければ。無事に客室から脱出できたのは彼女のお陰だ。


「あの二人は?」

「男性の方は撃たれて。彼女も一緒に残るとか」


 彼女、軽く舌打ちすると、


「チャンスをみすみす棒に振るとは。これだから女は……」


 自分が女であることを忘れてる? まあ、人のこと言えた義理じゃないけど……。

 

 周囲に味方の影は見当たらない。

 突入の際は数名でチームを組んで行動するはずなのに、どうして?


「あの、他の隊員は?」

「突入は失敗だ。機内にいるのはわたしだけだ」

「まさか、そんな」

「残念ながら事実だ」


 彼女、回転式弾倉(シリンダー)を開くと、排莢して手早く銃弾を詰め込んだ。


「機が飛び立ったら脱出は不可能だ」


 そうだ、旅客機にパラシュートは積まれていない。大空に活路はないのだ。機が飛び立ったら、わたしたちは袋の鼠だ。


「さあ、いくぞ」


 彼女、前後に注意しながら、わたしを庇うように走り出した。


「あの、わたしも軍人ですから。自分の身は自分で守ります」

「あの銃捌きを見れば素人じゃないことはわかる。しかし……」


 忙しく動いていた彼女の視線が、ふとわたしの顔に止まった。


「もう、弾倉は空だろ?」


 まさか、他人の残弾数までチェックしていたとは……。

 わたしは役立たずの拳銃を投げ捨てた。


 背後にテロリストの足音が迫る。

 急いで荷物室に滑り込むと、閉鎖された荷物室ドアに飛びついた。

 手動開閉用のハンドルに手をかけて、強引に荷物室ドアを開け放つ。

 一瞬、足が竦んでしまった。

 目の前の風景がゆっくりと流れてゆく。おまけに地上までの高さは優に五フィートを越えている。

 

「飛び降りろ! 機内に残ったら確実に殺される!」


 彼女が強風を押して叫んだ。

 機は徐々に離陸速度を速めている。わずかでも躊躇すれば永久に脱出の機会は失われる。

 

 不意に背後で連射音が響いた。

 振り返ると、彼女が通路に張り付いて、追ってきたテロリストの侵入を防いでいる。


「早くしろ!」


 ハイヒールを脱ぎ捨てると、意を決して飛び降りた。

 瞬間、風圧で身体が押し流された。

 

 危ない!


 着地した瞬間、両足に衝撃が走った。勢いを支えきれずに、身体が地面を転がってゆく。

 

 痛ぁ~。


 足の痛みに耐えながらフラフラと立ち上がると、女性隊員が腰を落とした着地姿勢のまま、離陸する旅客機を見つめていた。

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