02 海賊は美味しい
「アミ、あそこまでなら泳げそうか?」
「うん。ここは少し水が温かいから大丈夫だよ」
「よし、泳ぎで競争しようか。よーいドン」
「え? え? ちょっまっ」
出遅れたアミだが、長い尻尾をくねくねと巧く使ってスピードを上げ、あっという間に追いつかれた。俺も負けじと高速クロールで突き進む。
「あはは……なんか楽しいね」
「プハッ、これから二人でもっと楽しく生きようぜ」
「……うん」
アミは少し怯えていた。ユージーは変わってしまった。無茶な事をするクセは変わってないが、これから元同族を殺すことに何も躊躇わない姿に一抹の不安を感じたのだ。
いつか完全に心を失ってしまうのではないか? その時、私は一緒に居られるのだろうか。怖い。だから今は考えない事にした。
暫く泳ぐと島の全貌が見えてくる。船着き場みたいな所もある。ほったて小屋みたいなのもいくつかあるみたいだ。
島の裏側に泳ぎ着くと、現地民に見つからない様に上陸する。俺の身体に巻き付けてある木の皮で編んだコアカバーの中を見て、コアが無事なのを確認してから歩きだす。
「大丈夫? 万が一コアに矢でも受けたら……」
「コアが無いと人間を吸収出来ない。手放すという選択肢は無いんだ」
「……危なくなったら逃げてね?」
「おう」
島にはいくつか粗末な小屋がある。隙間から中を覗くと半裸の女性が何人か寄り添うようにして居た。お? ユリユリパラダイスってか?
と、一瞬喜んだが、どうやらそんな綺麗なものではないな。女性たちはみんな薄汚れていた。さしずめ拉致されてきた挙げ句に性のはけ口にされた感じかな。
「いいね。実にいいね。こういう事をする連中なら遠慮なくぶっ殺せる」
「女の子達は殺さないの?」
「俺にも一応の線引はある。クソな連中のみ糧となってもらう。どの程度クソかは俺の気分次第だけどね」
「そう……それなら少し安心したかも」
「俺が無差別に人間を殺す殺戮マシーンになったと思った?」
「ごめんね。ちょっと思った」
「ダンジョンと人間は持ちつ持たれつの関係なんだよ。じきにこの意味がわかる。今は俺を信じてついてきてくれないか?」
「うん。ユージーを信じるよ」
アミの髪を優しく撫でてから俺は行動する。実のところ、コアの情報からここが海賊どものアジトなのは解っていた。一応それを自分の目で確かめたかったのだ。
さあ、俺達の糧となってもらおうか海賊ども。
俺とアミは堂々と島の真ん中を歩く。それに気付いた小汚い男どもが集まってくる。手には槍を持ち、ニヤニヤしている。
「見ろよ。ラミアが居るぜ。具合が良いらしいからな、殺すんじゃねーぞ。エルフの男は奴隷商に売り払うか」
「ラミアなんて珍しいな。あのエルフはテイマーか? どうやってここに来たのか知らねーが、運がなかったなぁお前ら」
「ウヒャ! ウハー! ラミアだヒャッホー!」
俺は男達を見渡す。小汚いし臭い。かつて俺も臭いと言われてショックで泣いた事あるし、それは言わないで置いてやろう。
「これで全員か? ゴミ掃除は一度にしたいから他に居るなら連れてこい」
「だとよー? 聞いたかお前ら。威勢のいいエルフが居たもんだぜ。ああ、何人かはあっちの小屋でお楽しみ中だ。邪魔すんなよ?」
「情報ありがとよ。そして、ごっつあんです」
俺は一瞬で間合いを詰めると、海賊のリーダーらしき男の首を手刀で斬り飛ばす。血が噴き上がった時には既に取り巻き二人の心臓へ俺の手刀が刺さっていた。
三人が倒れたのを呆然として見つめる海賊、そのまま固まってるがいいさ。俺は一切の容赦をせず、一気に残りの6人を手刀で斬り裂いて絶命させた。
辺りに濃厚な血の匂いがたちこめる。人を素手で殺した感触も血の匂いも特に気持ち悪いとか思わない。むしろ楽しい。これが魔物になったという事なんだな。
「よしコアよ、た~んとお食べ」
俺は、まだ新鮮な人間の死体へとコアを押し当てる。すると死体は一瞬で消えた。何体もの死体を一瞬で吸収していく様が、お掃除してるみたいでだんだん楽しくなってきた。
地面に撒き散らされた夥しい血の跡も今はもう無い。みんなコアが吸収してくれた。スッキリ。
「ユージー! そっちの小屋に居た男を持ってきたよ」
「お、サンキュ」
俺が海賊リーダー達をあっさり片付けたから、アミは小屋の方を片付けて来てくれたらしい。アミは既に事切れてる男三人を指で摘んで俺に向かって差し出す。
差し出された遺体にコアを押し当て吸収させる。よし。この島からゴミは一掃されたな。これで解決。はい解散って訳にもいかんよな。囚われの女達も居るし。
コアには12人の死体を吸収させたが、いまだ半休眠状態のままだった。とはいえ、少し余裕はできたかな? 一週間ぐらいならば持つ気がする。
まぁ、ギリギリなのは変わらない。なる早でこの島にある船を使って大陸に渡り、ゴミ人間収穫祭を行うべきだろう。
「女達の様子はどんな感じだった?」
「怯えてたよ。私、魔物だし」
「そりゃそうか。俺が行ってくる」
小屋に入ると女達は皆で抱き合って震えていた。目の前でラミアが男達を殺すの見たのだから当然か。
「安心してくれ。あのラミアは味方だから。殺すのは海賊だけ。あ、俺の名はユージー。とりあえず皆がここに来るまでの経緯を聞かせてもらえるかな?」
「はい……。もしかして助けていただけるのですか?」
一番手前に居た女が俺の言葉に応対する。その目は俺を疑いながらも、少し希望を持ち始めてる感じだった。
女達からの話を総合すると、船で移動中に海賊に襲われて拉致され連れてこられたパターンが多かった。中には港町で拉致された女も居た。
そして海賊の本隊は別に居るらしい。その本隊は今お仕事中みたいだ。一度出港すると2~3日は帰ってこないみたい。
「つまり本隊が出港してから2日経ってるから、そろそろ帰ってくるんだね?」
「はい。リーダーは火の魔法使いで、とても強いです。早く逃げましょう」
「焦らなくても平気だ。それよりこの島には海賊のお宝的な物は無いのか? 小屋を見て回った限りでは女達しか居なかった」
「……地下があります。あそこです」
女が示した場所には特に何も無かった。いや、偽装してあるのか。俺はその場へ歩いて行き、地面を踏み鳴らした。
ドンドンと少し軽い音がする。覆ってある砂を退かすと木の板が見える。木の板を力ずくで引っ剥がすと地下への穴がぽっかりと開いていた。
斜めに掘られた穴を降りて行くと、いくつかの部屋が見えてきた。地下道は魔道具によってぼんやりと明かりが灯っている。真っ暗であっても魔物になった俺なら見えるんだけどね。
振り返ると、穴の上からアミが覗き込んでいた。ちょっと心配そうな顔をしている。
「アミは海賊の本隊が帰って来ないか見張っといてくれ。俺は中にある物をコアに吸収させる」
「わかったよ。コアって人間以外も吸収できるの?」
「どうやら、金銀財宝はコアにとって大好物らしい。ミスリルとか特殊な金属なんかも好きらしい」
「ふーん。よくわからないけど気を付けてね?」
アミに見送られて3つ並んだ手前の部屋からから入っていく。ここは武器防具などが置いてあった。一通り見てみると、鑑定した訳ではないのに武器の良し悪しがなんとなく理解る
武器の素材も理解るのはダンジョンマスターになったせいだろうか? あれなんてファンタジー定番のミスリルの剣と盾だ。とりあえず全吸収かな。あ、でもこのミスリルの剣と盾は何個か残してしておくか。
2つ目の部屋に入ると綺麗な服や本がたくさんあった。女ものの服ばかりだけど、男物も少しある。どれも上等な服って感じ。本は立派な装飾をされた魔導書だった。
魔導書か……吸収してしまうべきだろうか? やっぱ読んでみたいから止めておこう。お、可愛い白いワンピース見っけ。アミに着せよう。マッパだと色々困るんだよ。主に俺の股間的に。
それと、このリュックみたいなのは使えるな。リュックの中にコアを入れて、コアの緩衝材代わりに適当な服も入れて、リュックの表側にさっき見つけたミスリルの盾を紐でくくりつける。
そしてリュックを背負えば、背中のリュックは盾で守られてかなり安心だ。これから海賊本隊と戦うし、コアは地面にでも埋めて置いた方がいいのかもだが……何故か手放したくない。
やはりダンジョンマスターにされた影響は色々出てるのかもしれない。大陸に渡った時に変な振る舞いをしないように気を付けないとだな。よし、次の部屋行こう。
3つ目の一番奥にある部屋には、金貨や銀貨の他に宝石などがたくさん置いてあった。随分と溜め込んでやがったんだな。
大陸に渡った時に必要になりそうな額だけ革袋に入れ、それ以外は全てコアに吸収させた。なんとなくコアが喜んでる気がする。そして俺は何冊かの魔導書を持って地上に出た。
地上に出るとアミはすぐ俺の下に来る。ニコニコした笑顔が可愛い。てか、顔よりぷるんぷるんなおっぱいに目が行っちゃうんだよ。さっさと服着せよう。
「アミー。これ着てみ」
「えー服は邪魔だからいいよ」
「いいから着てみ? 絶対似合うからさ」
「うぅ……わかったよ」
ワンピースだから上からスポッと着れば良い。初めて服を着るせいで戸惑うアミに手助けをして着せた。海に映える白いワンピースを纏ったその姿は、スカートから上は完璧な美少女だった。
アミはちょっとテレてる感じでその場でくるくる回って服の感触を確かめている。
「どう? 本当に似合ってる?」
「ああ。ヤバい可愛いな。思わず抱きしたくなるぞ」
俺の言葉を聞いてアミは嬉しそうに抱きついてくる。俺たちは場を弁えずに抱き合っていた。小屋の方から女たちの視線を感じるが知ったこっちゃない。
「さて、海賊の本隊を潰すのは確定として、女達はどうしたもんかねぇ」
「希望を聞いてみるのがいいんじゃない?」
「ま、それしかないか」
これからの事について女達と話し合いに行こうと歩き出したその時、アミが何かに気付いた。アミが指す先を見ると遠くに2隻の船が見える。どうやら本隊のご帰還の様だ。
それを知った女達は震えだす。中には泣き出す子も居た。正直、女達の事はどうでもいいが、コアの為にも素早く片付けますかね。
◆◆◆◆◆
本隊の船が近づいてくると、その大きさに驚く。帆船ぽい感じだけど帆は無い。魔道具で動いているのだろう。2隻が船着き場に入ると、ぞろぞろと男達が降りてくる。
そいつらは、この島に居た男達と違って小汚くはなかった。エリート海賊メンバーなのかね。
船から降りた男達は島の様子が少し変だと気付いたみたいだ。多分お出迎えが来ないからだろう。それなら俺がお出迎えしてやろうかね。有り難く思えよ。
俺はゆっくりと船着き場まで歩いて行く。すぐ後ろにはアミも居る。アミには武器持たせようかと思ったけど要らないらしい。一応盾だけは持たせた。
俺はと言うと、ミスリルの剣を腰に下げ、コアを守る盾付きのリユックを背負い、左手に小さめの盾を装備した。装備の具合を確かめながら歩く。まぁ、なんとかなるっぺ。
船着き場を見ると男達はこっちを警戒している。何か話し合ってるみたいだ。俺はニコニコと笑顔を浮かべながら進み、男達の手前で歩みを止めた。
「やあやあ、海賊のみなさんお仕事お疲れ様っす。冷えたビールご用意してお待ちしておりました」
「お前何者だ?」
「俺はユージー、この子はアミ。覚えなくていいよ。ちなみに、この島には海賊狩りに来たぞい」
「お前とラミアだけでか? ここに居た雑魚を倒して調子に乗っている様だが、身の程を知れ」
男達は剣を抜いて広がり、即臨戦態勢となった。おぉ……なんか動きが精鋭っぽい。生まれ変わった魔人ボディの強さを確かめるのに丁度いいかもね。
刹那、3方向から剣を抜いた男達がゆっくりと迫ってくる。実際にはかなりの速さなのだろうが、魔人の動体視力からすると、彼らの動きはスローモーションだ。
左側の男の攻撃を盾で受け止め、右手の男の攻撃は剣で受け止めた。そして中央の男の剣を蹴り上げる。剣は弾かれて空高く弾き飛ぶ。
面倒くさいな……。精鋭と思われる3人と対峙して俺が思ったのはそれだけだった。何もこいつらの戦い方に付き合う必要はない。
俺は一気に加速すると、ほぼ動きの止まった3人の男を斬り刻んだ。そして同時に崩れ落ちる男達。人間側からすれば一瞬で3人が殺された様に見えただろうな。
どうやら魔人とは俺が思っている以上に強いみたいだ。意図せずチートを手に入れてある意味ラッキー。
アミの方を見ると、残りの男達を尻尾の一振りで全員一瞬で仕留めていた。初めてアミが戦ってるのを見たけどメッチャ強いぞ。まぁ、あの尻尾の振り回す範囲内はヘリのローターばりに危険だからな。
そうなると海賊らのラミアを侮るような発言が度々出たのが気になるな。アミ以外のラミアは弱いのだろうか?
「アミってラミアの中でも飛び抜けて強いの?」
「んー? その人間達が弱いだけじゃない?」
「かもな。どっちでもいいか。それより、船から矢がいっぱい飛んでくるな。しかも出港しようとしてるし……。たった二人相手に逃げるのかよ」
飛んでくる矢を盾で受けつつ、船の様子を見る。このまま逃げられたら困るな。飛び乗るか? でも、魔人ボディにまだ慣れてないし狭い場所で戦いたくないかも。
「うぅ……矢が当たるとチクチクする。くすぐったいよ。 あぁぁ! ユージーに着せてもらった服に穴が……」
アミも上半身を盾で守っているが、アミの身体は尻尾を含めればかなり大きい。盾では尻尾までは隠せない。だが、特に矢が刺さる事も無いようだ。頑丈だな。
多分俺も矢は刺さらない気がする。刺さったら嫌だから足に当たりそうなのは避けてるけどね。特に目には絶対当たりたくないから注意しよう。
それよりマズいぞ……。逃げられたら面倒だ。何か無いかと見渡すと、薪用と思われる切り倒された丸太があるのに気付いた。
丸太は最強の武器だ。吸血鬼だって倒せるしな。そんなわけで拾い上げた丸太を抱えて船着き場まで一気に駆け抜けた。
「そーれっ! よっこぉ~いしょーいち!」
俺の丸太フルスングが特に罪のない船を襲う。派手な音を響かせ、船の横っ腹を破壊して航行不能にする。
「ほら、もういっちょ!」
隣の船には丸太を投げつけて串刺しにした。凄いな魔人パワー。何処かの世界一の殺し屋みたいに柱を投げて、そこに飛び乗って移動できないかな。
破壊工作が上手く行って、船に刺さった丸太を気分良く眺めていると、後ろから高熱が迫るのを感じた。危険を感じてすぐ移動すると、今居た場所を火の矢が通り過ぎた。
「あっぶね、いきなり後ろから撃つなや」
文句言いながら振り返ると、最初に壊した船の船首にローブを着た男が立っていた。確かリーダーは火の魔法使うとか女から聞いてたので、多分アイツだな。
「素晴らしいですね。それだけに殺すのは惜しい。我々の仲間になりませんか?」
「あんたが海賊のボスだよな? 能力を認められてのお誘いは嬉しいけど、海賊のお仲間になるのはお断りだな」
「そうですか、残念です」
海賊のボスが右手を挙げると上空に数十本の火の矢が浮かんだ。カッケェ! あれが火の魔法か。あいつ捕まえて魔法を教えてもらおうかな?
ボスが挙げた掌を返すと、一斉に火の矢が俺に向かって飛んできた。ちょっ……回避不可能の弾幕シューティングゲームかよ。おまけに海賊メンバー達が放った矢も死角から飛んでくる。
こんなの完全に詰んでるじゃん。まぁ、俺が普通の人間であればな。華麗に全部避けきっとやろうと気合を入れた瞬間、何かに巻き付かれて目の前が真っ暗になる。え? なにこれ。
巻き付かれた何かごしに魔法が着弾したと思われる衝撃が伝わってくる。うすうす気付いているが、これってアミだよな。過保護にも程がある。
「ユージー大丈夫?」
下から声がして足元を見る。アミは俺の足の間に寝そべって俺に尻尾をぐるぐると巻きつけているみたいだ。外から見たら巻きグ……ソフトクリームみたいになってるのかもね。
「おかげさまでかすり傷一つ無いぞ。アミの方こそ連続して火の矢が当たってるみたいだが痛くないのか?」
「ちょっと痛いかも。いたずらした時にママに尻尾でバシッって打たれたぐらいの痛み」
「痛さの度合いがさっぱりわからんが、俺なら大丈夫だ。開放してくれ」
「本当に? もう死なない?」
「死なない事を約束する。もし死んだらあの世で再び出会えた時に尻尾でバシッと打っていいぞ」
「死んだら終わりだよ。魔素に分解されて終わり。二度と会えない」
「それが終わりじゃないんだなぁ。まぁ、その辺の説明は後でするよ。開放してくれ」
そう言い聞かせてアミの尻尾をポンポンと軽く叩く。するとシュルシュルと尻尾が解かれ、格子状の光が入る。うーん、眩しい。
船首を見ると、海賊ボスが両手を挙げている。その上にはさっきの倍以上の火の矢が俺達を狙っていた。開放いきなりピンチってか。
「ラミアクイーンを使役するテイマーなど初めて見ましたよ。惜しいですね。実に惜しい。どうでしょう、考え直していただけませんか?」
「海賊はそんな人材不足なの? まぁ、ブラックそうだしな。そうだなぁ、毎日100人生贄をくれるなら仲間になってもいいぞ」
「……どうやら普通のエルフでは無い様ですね。禁忌に魅入られた錬金術師と言ったところでしょうか? ならば、ここで仕留めて……ブハッ」
海賊ボスのセリフが終わる前に何かが飛んで行き、ボスの体を両断した。上半身は海に落下して海面を赤く染める。海賊メンバーは呆然とそれを見つめていた。
アミの方を見ると、振りかぶった姿勢のままドヤ顔で俺を見ている。
「盾投げたの?」
「うん。セリフ聞いてるうちにイライラしてきちゃった」
「わっかるぅー。ところでアミってラミアのクイーンなのか?」
「ママは普通のラミアだったよ。族長は他に居たから違うと思う」
「ま、いっか。それより海賊メンバーが再起動したな。アミはあっちの船の奴らを皆殺しにしてくれる? 俺はあっちをやる」
「うん、いいよ。ユージーは無理しないで危なそうなら逃げてね?」
「ああ。俺は逃げるの得意なんだ。ニートなめんなよ?」
サムズアップした俺の姿を見届けてアミは船に飛び乗って行った。悲鳴と血の飛沫が空を舞う。綺麗な花火だ。
さて、俺も頑張りますか。船を破壊した時に開いた穴に飛び込むと、エンカウントした海賊を鼻歌まじりに次々と斬り捨てる。ちょと楽しくなってきた。銃とかあればもっと楽しそう。
海賊を皆殺しにして甲板に立つと、アミも仕事を済ませて佇んでいた。目が合うとお互い笑い合う。
「アミ血まみれじゃん。白いワンピースに飛び散る赤いアクセントも前衛的で面白い」
「ユージーも真っ赤だよ。怪我してない?」
こちらの船に飛び乗ってくるアミを抱きとめ、お互いの無事と、一仕事終えた実感に充実感に心は弾んでいた。後は、死体を全部吸収させるだけだ。もうひと踏ん張りしますか。
◆◆◆◆◆
血と臓物のぶち撒けてる船内や地面をコアを使って全て綺麗にした時だった。突然コアが点滅して熱を帯びた。ま、まさか爆発する!?
『マスターありがとうございます。多くの人間を吸収したおかげで無事復活出来ました』
「それなら良かった。急に熱くなるから爆発するかと思ったぞ」
『本来ワタシは熱を帯びています。これが正常な状態ですのでご安心下さい』
「とりあえず今の状態だと人間を吸収しなくてもどれぐらい維持出来るんだ?」
『ワタシが何もしなければ2年は持ちます。創作活動の内容如何ではすぐに力尽きる事も有り得ます』
「創作って、何か作れるのか?」
『ダンジョンには多くの物があります。トラップ、宝箱とその中身、照明装置等、物品だけでなく、魔物を作っているのもワタシです。取り入れたチカラ次第で何でも作れるのです』
「ほぉ……。つまり、コーラと照り焼きバーガー作ってくれと言ったら可能なのか?」
『マスターの記憶にある物は再現可能です。創りますか?』
「おう、やってくれ」
『出来ました。マスターにストレージの魔法をセットしましたので、そちらからお取り下さい』
「はやっ。1秒も経ってないぞ。それとストレージ? あーアイテムボックスみたいなやつか。ちょっとタンマね」
魔法ってまだ慣れてなくて咄嗟に使えないんだ。俺が風魔法を上手く使えていれば海賊を遠くから皆殺しに出来たかもしれない。これから慣れていくしかないな。
集中してストレージを起動する。なるほど、こんな風に収納してある物が見えるのか。それを引き出すイメージで移動させる。すると目の前に現れて、それを掴むと照り焼きバーガーが実体化した。
食欲をそそるソースとスパイスの香りに唾をごくりと飲み込む。う、美味そう。ジャンクフード最高だぜ! 俺は満面の笑顔でかぶりつく。
「……うめぇ」
気の利いた食レポなんて出来ねぇよ。だって久々のジャンクフード美味すぎるし。ちょっと泣けてきた。ストレージからコーラも出して飲む。
照り焼きタレの塩分と鶏肉の旨味と脂質をコーラの糖質で流し込む。美味い。美味すぎる。風は語りかけないけどな。
「アミ、これ食べてみろ。飛ぶぞ」
「すごく美味しそうな匂いだよね……。それじゃ一口」
アミは一瞬動きが止まったが、我に返るとあっと言う間に完食してしまった。手についた照り焼きソースを舐めようか迷っているぽい。
「これも飲んでみるか?」
俺はコーラを差し出す。アミは受け取ると、初めてのストローで飲むという体験にどうすれば良いのか迷っているみたいだが俺がやっていたのを真似て吸い始めた。
「ブッ……ぺっ! 何これぇパチパチするし甘いけど変な味」
「コーラは馴染めなかったか。そんな気がしてた。コアよ、照り焼きバーガー2つとフライドポテトも二つ作ってくれ」
『出来ました』
「相変わらず仕事早いな。ほら、アミももっと食いたいだろ。ポテトは気にいると思うぞ」
差し出された照り焼きバーガーとポテトをアミは幸せそうに食べる。なんかほんわかした雰囲気に見えるが、俺達血まみれなんだよね。とりあえず風呂に入りたいわ。
『マスター、お食事が終わってからで構いませんので、そちらの壊れた船を吸収させて下さい。一隻壊れていない小さな船もありますが、それもお願いします』
「オッケー」
食い終わった後にコアを持って船を吸収していく。吸収する物は割となんでもいいらしい。それこそ木でも草でも砂でもね。ただ、物によって栄養価が違うみたいだ。
島にある物を色々と吸収してまわり、すっかり何も無くなった島。女達を繋いでいた鎖すら吸収してしまった。
「魔導書もあるんだけど、これって吸収したらどうなるの? 読めなくなっちゃう?」
『いいえ。内容はアーカイブから読めます。魔導書はDP高いので是非吸収させて下さい』
「DP? ダンジョンポイントみたいなやつかな? 読めるならいいよ。吸収してくれ」
『ありがとうございます。DPは仰る通りダンジョンポイントです。後に数値化しますので、それを参考にしてダンジョンマスター活動にお役立て下さい』
「ところでコアよ。大陸に渡る為の船を作ってくれ。俺の記憶にあるやつを参考にな」
『かしこまりました。それでは今思い浮かべている船を参考に創ります。お時間を少々いただきます』
「焦らなくていいぞ」
『出来ました。ご確認下さい』
「お時間って、5秒ぐらいの事かよ……。ちなみにコアの残燃料ってどれくらい?」
『先程より少し消費した程度です。問題ありません』
「それなら良かった。えーと、ストレージから船を出すには海の側に行かないとだな」
俺はアミを連れて船着き場へ行くと、ストレージから船を取り出す、というか前に置くという感じで出す。船は俺が思い浮かべていた通りの豪華クルーザーだ。
お金持ちが愛人連れて海上ファック大会するあれね。金持ちのイメージが歪んでるって? いいんだよ。貧乏人はそんな風にひねくれて金持ちを貶してないとやってられんのだ。
クルーザーに乗り込むと、色々見て回る。細かい所までは指定出来なかったのに完璧な仕上がりだった。マジすげぇなコアのやつ。
『記憶の曖昧な部分はこちらで補完しておきました。船の出来栄えにはご満足いただけましたか』
「ああ。最高だぜ。ただ、スクリューを回す動力はどうなってんだ?」
『スクリューはございません。水魔法の応用で移動する仕組みです。動力源は基本的にマスターの魔力です。航行にはそれ程魔力は使いませんのでご安心下さい』
「お前の仕事完璧過ぎだろ。日本に居た時に欲しかったぜ」
後は、女達を乗せて大陸に向けて出港アイアイサーだ。最初はゆっくり動き出したクルーザーだったが、スピードが乗ってくると速い。これならカジキマグロ野郎もぶっちぎれるな。
ちなみに女達は全員大陸に行く事を望んでいた。何人かは俺に保護して欲しいと懇願してきたので困ってるのだが。まぁ、なるようになるべ。
「では、大陸に向けてゴー!」
「おー!」
『マスター、その前にワタシが居た島に行くのをお許しいただけませんか』
「あの島に何かあるの? 行きたいならいいぜ。では進路変更ゴー!」
「おー!」