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扉を開けるとそこはどこかの部屋であった。先ほどまでいた部屋とは全く別の部屋で、かなり古く、汚れおり、あたりにはガラクタや古い家具が散らかっていた。一見、廃墟の部屋にしか見えない様な場所でおまけにひどく寒い。
「ここってどこなん・・・」
振り返り先程の職員に聞こうとしたが潜ったはずの扉は消えていた。だが、それよりも驚くべきことがあった。
「声が・・・」
そう、声が高い。今までとは似ても似つかぬ透き通った高い声。自分の声であるのに思わず聞き入ってしまうほどの綺麗な声だった。
「なに、これ」
体を見てみるとまず視界に入る大きな胸、身長はあまり変わっていないのか視界の高さは変わらないが手も足も細く女性らしくなっていた。服も何故だか白いワンピースに変わっている。
近くに偶然置いてあった古ぼけた鏡に恐る恐る近づく。
「女になってる・・・?」
鏡に写っているのは絶世の美女であった。長いプラチナブロンドの髪と、少しつり目気味の目に青くて吸い込まれそうな瞳、シミひとつない白く透き通った肌、手足は細くて長くてウエストも細いが出るところはしっかり出ている。凛として無感情な顔は氷の女王を連想させた。
「美しい・・・」
思わず自分の姿に見惚れる。日本では、いや地球ではまずお目にかかれないであろうな完成された美がそこにあった。
しばらく自分の姿に見惚れていたがずっとこうしているわけにもいかないため、とりあえず辺りを散策する。
「ここは一体どこなんだ?」
知らない世界の知らない部屋で一人ぼっち。なんだか無性に不安になってきたので部屋から出てみることにした。
「出口はどこだ?」
埃まみれのガラクタや家具を避けながら出口を探す。
「ここか?」
出口らしきボロボロの扉を見つけ壊れない様にそっと開ける。
「さっむ!」
扉の外は一面の雪景色であった。肌を刺す様な寒さが襲ってきてすぐに扉を閉める。
「なんだよこれ!ここから出れないじゃないか!」
外は明らかに氷点下だ。こんな薄着で外に出たら間違いなく凍死する。
「いきなり詰んでるじゃないか」
思わず頭を抱える。この部屋から出てすぐの場所に民家などがあるかどうかわわからない。おそらく、こんな寒さで外に出たなら30分も持たないだろう。もしも、民家が見つかったとしてもそこに住む人間が友好的である保証はない。なんせ、こっちは悪魔である。こちらの世界の常識はわからないがおそらく普通の人間は忌み嫌うだろう。
「終わった・・・」
思わず天を仰ぎ見た
<Side???>
私は人間が嫌いだ・・・
燃える様な赤髪に背中には羽の生えた異形な少女はこの世の人間や亜人を憎悪していた
人間はすぐに裏切る。
約束を反故にし、こちらの気持ちを汲み取ろうともしなかった人間達を思い出し怒りが次から次に湧いて来る。少女の感情が昂るたびに、爆ぜる様に火が出て周りの雪を溶かしていた。
少女は人間を憎悪していた。だから、人間も亜人も生活できない極寒の地に移り住み暮らしている。最初のうちは良かったが、長い長い孤独は彼女を少しずつ苦しめていった。人間は嫌いだ、だが、孤独も辛い。そこで彼女は思いついた。
悪魔を呼んで契約をさせようと。
普通ならば絶対にできない。この世界で異世界から悪魔を召喚するのは禁忌である。異世界からの召喚には莫大な魔力を消費するためこの世界では禁忌ではあったがその魔法自体が机上の空論とされてきた。しかし、幸か不幸か彼女には絶大な力と魔法の才能があった。すぐに取り掛かり部屋の中で魔法を発動する。
しかし、魔法が発動したにも関わらず悪魔は召喚されない。彼女は憤慨し、熱くなった思考を覚ますために外に出ていた。
「何がダメなんだ?魔法は発動したはずなのに」
外で熱くなった思考と体を冷ましながら考えるが答えは出ない。
「はぁ、どうしよう・・・」
(結局私は永遠に孤独に生きる運命なんだ。誰にも理解されず、愛されずに、死ぬこともできずにこの世界が終わる日までずっと1人なんだ…)
憂鬱な気分になりながら小屋に戻り扉を開けた
「えっ?」
見慣れたいつもの部屋。しかし、いつもと違う点がひとつ。
悪魔がいた。
息を呑むほど美しい悪魔。
その日、厄災と呼ばれた妖精は1人の悪魔に出会った。