第一章:プロローグ
森林の中、柳原智樹は身体中のあらゆる筋肉を酷使し、息を切らしながら全速力で走っている。
後ろから聞こえてくるのは複数の足音。智樹は現在、この者達から追われている。その者は体躯が小さく、顔つきが醜くく、身体の色は人間とは違い緑色である。ゲーム等で雑魚敵代表として出てくるあのゴブリンである。
―コイツらに捕まってしまえば、自分は死んでしまう―
自分の生存本能がそう呼びかけ、今この瞬間、なりふり構わず全速力で走りながら声を上げる。
「はぁはぁ、なんっ......でぇ......チート能力とかがぁ......無いんだよおぉぉぉーーーーー!!」
森林の中、彼の悲痛なる叫び声が響き渡る。何故、自分がこんな目に遭っているのか。それに至るまでの経緯が頭の中に蘇ってくる。
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俺は普通に暮らしていた。小学校も中学校も目立つ事もなく、クラスの空気的存在として生きてきた。
そして、高校へ入学する時にある決心をした。
美容院へ行き、髪を茶色に染めた。俗に言う高校デビューである。小学校も中学校も空気的な存在として生きてきた者が一発逆転を狙うチャンス...それが高校デビューなのである!!
べ、別に小学校と中学校で彼女が出来なくて悲しかったからという理由では無い。それに、俺が空気的存在になったのは原因があるのだ。
そして、待ちに待った入学式当日、家からは近い高校を選んだので徒歩で登校して行った。
天気は曇り一つなしの快晴!!いい天気だなと思い、歩きながら高校デビュー最初の難関である自己紹介スピーチを考えている時だった。
「智樹くん、おはよう! 今日もいい天気だね」
後ろから声をかけられ、振り向くとそこには言葉では言い表せない絶世の美女がいた。艶やかな長い黒髪に、艶を帯びた形のいい桜色の唇、瞳はとても愛くるしく、同じ人間なのかと疑問を持つほどの美女。
名前は双葉葵。俺の幼馴染であり、小学校と中学校で俺が空気的存在になった原因の女だ。俺はよく葵に話しかけられたせいで、クラスの男子からは当然の事、何故か女子にまで恨みを買ってしまい、友達が全くもって出来なかったのである。
「わー、ほんと良い天気ですね〜。 それでは僕は急いでいますのでさよなら」
適当に相槌を打ち、その場を即座に離れる。普通の人は葵と一緒に登校するという選択肢を取るかもしれない。てか、絶対に取る!しかし、それは悪手。この選択肢を取ってしまったら夢と希望の高校生活は一気に悪夢と絶望の高校生活へと変わっていってしまう!!早く逃げなければ!!!
「せっかく挨拶したのに何で逃げるんですかーーー!」
葵が追いかけてくる。
美女に追いかけられるというこの状況、羨ましいと思うかもしれないが俺にとっては葵が悪魔にしか見えない。
「やめろおぉーー! 俺の事は放っておいてくれえぇーー!!」
しばらく全速力で走り、横断歩道を渡り切った時に後ろを振り返ってみると、葵は疲れた様子で横断歩道を歩いていた。
(くそ、足速すぎだろ。もう諦めて一緒に登校するか。グッバイ、俺の高校生活(泣)。)
夢と希望の高校生活に別れを告げ、葵が来るのを待っていると横から猛スピードで走行してきている車が見えた。葵は、車には気づいていない様子でこっちに向かっている。
(このままだったら車と葵がぶつかってしまう!)
そう思った時、俺はすでに葵を突き飛ばしていた...
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...んー、なんかすげぇ周りがうるせぇな...眠たいのに眠れないじゃんか。
てか、何で空の景色が見えるんだ?仰向けになってんのかなー?まぁ、どうでもいいかぁ。
...あれ、葵じゃねぇか。おいおい、何で泣いてんだよ。そして、何て言ってるか...分からねぇよ。今は...凄い眠た...いから、また...こん...どに......
柳原智樹はそのまま女の手の中で息を引き取った。
初めて書いた。
言葉って難しい...