086「予選トーナメント三回戦(10)」
「それでは、予選トーナメント最終の第九試合を開始致します! ヘリックス・マロン、リュウメイ選手の入場です!」
「うぉぉぉぉーーー!!!! 今度も下克上だったらすげえぞぉぉぉーーー!!!!」
予選トーナメント最終試合。最後に出てきたのはAクラス配属のヘリックス・マロンと平民のリュウメイ。ヘリックスは余裕の笑みを浮かべながら入場してくるのに対し、リュウメイという茶髪の男⋯⋯ていうか、男だよな? なんとも、こう、顔が『中性的』というか、美少年にも美少女にも見える。
まあ、Cクラスでたまに目に止まったくらいだが、見てる感じは『男』だと思う。トイレも『男性用』使っていたし。
さて、観覧席のほうを見ると、どうやら前の試合で『下克上』が起きたこともあってか、この試合もそれに期待しているのか、異様に盛り上がっている。
しかし、舞台の席で観覧している一回生たち状況を冷静に捉えていた。
「ヘリックス様か。たしか、カート・マロン様の従兄弟で火属性の魔法威力が凄いって噂の⋯⋯」
「ああ。あのカート・マロン様も一目置いているらしいからな」
「まあ、ガス様やレイア姫様がいる今年の『動天世代』の一回生では目立たないけど、実力者なのは間違いないからな」
「ああ。観覧席にいる客はあまり知らないから『下克上』とか言っているけど、正直、ヘリックス様が負けるってことはないな」
ほうほう。どんどん『フラグタワー』を積み上げているように見えるのは錯覚じゃないよな? しかし、その席の生徒の話を聞いていると、カートは俺が思っている以上に他の生徒からは評価が高いということがわかって少し驚いている。ほうほう。あのカートがねぇ〜。
さて、それにしても、この平民の『リュウメイ』て奴⋯⋯たしか、今回初めて『下克上』をやった『ウキョウ』という奴といつも一緒にいる奴だったよな。そして、俺はこの二人⋯⋯特に『ウキョウ』という奴の名前に対してちょっとした違和感を感じていた。
「日本人の名前っぽいな⋯⋯」
そう。『ウキョウ』⋯⋯この世界ではだいたいが西欧の名前が多いのだが、『ウキョウ』は初めて聞く。そして俺は『ウキョウ』という名前を耳にした時、頭に浮かんだのは『右京』だった。
まあ、たまたまである可能性も否定できないがな。なんせ、そのウキョウと一緒にいるこの舞台にい生徒の名は『リュウメイ』だ。特に日本人の名前という感じもしない。どちらかというと中国人に近い感じだ。
なので、俺は「気のせいか」と納得する。
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「それでは、予選トーナメント最終第九試合を開始します! 両選手、開始位置へ」
両者、開始位置につくと、ヘリックスが話しかける。
「お前、もしかして『下克上』を期待しているのか? だとしたら、そんな浅はかな考えは捨てろ。俺はあまり手加減できないから少しでも力の差を感じたら棄権しろよ? 大ケガさせたくないからな? ヒャヒャヒャ」
「⋯⋯」
う〜む。初めてカートに会った時のことを思い出すな。さすが従兄弟。『小物感』は似ているようだ。しかし、そう考えると、今のカートは力をつけてだいぶ余裕が出てきたのか『小物感』は無くなった。まーそれはそれで寂しいがな。
「では、予選トーナメント最終第九試合、はじめーーーーぇぇぇ!!!!!」
ゴーーーーン!
「シャーーー! 火属性中級魔法火炎弾!」
ドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!
開始早々、ヘリックスの先制攻撃。火炎弾がリュウメイに迫る。リュウメイはよけきれず無数の炎球が全弾ヒットした。
「フン! 平民ごときに負けるわけないだろ! はい、おしまい。おしま⋯⋯」
「どこへいく?」
「⋯⋯え?」
火炎弾の衝撃で煙が舞い、それが晴れると全弾命中したはずのリュウメイが無傷で立っていた。
「な、ななな、なんで⋯⋯!?」
「うーん、中級魔法の威力ってこの程度が普通? それとも君の魔法威力が弱いだけ?」
「くっ!? 言ってくれるじゃねーか、この野郎〜。ていうか、何で服まで無傷なんだよ⋯⋯」
「ん? ああ⋯⋯そんなこと君に言うわけないじゃないですか」
「ちっ! じゃあ、これならどうだ!」
舌打ちしたヘリックスは、今度は両手に炎を纏った。
「俺の武闘術ランクはまだ『拳士』だが、炎を手に纏うことにより火属性効果を付与した武闘術を繰り出せることができる。お前への魔法攻撃が通用しないのなら魔法威力を込めた拳を直接叩き込んでやるよ!」
ドン!
「剛拳・一ノ型『重剛撃』!」
ヘリックスは炎を纏った両拳を突き出して、リュウメイへとものすごいスピードで突っ込んだ。
「はっはっは! 全体重をのせ、且つ、火属性効果を伴った一撃必殺の技だ! 受けられるものなら受けてみろぉぉぉぉ!!!!」
「いえ、遠慮します。あなた自身でその技を味わいなさい」
「え?」
トン⋯⋯、ススーーーーーー⋯⋯。
「「「「「な、なんだあれはっ!!!!!!!」」」」」
リュウメイは右手の平を前に出して、ヘリックスの技を受けようとする⋯⋯と誰もが思ったが、そうではなく、ヘリックスの両拳が右手に当たる瞬間、その『勢い』を受け止めず、その勢いを殺さないよう、体を回転させながらその威力を引き込み、さらにそのまま何回転も加えてから、
「はっ!」
ドゴォォォォォォォォォン!!!!
リュウメイは、最後に軽くジャンプをして、ヘリックスが放った攻撃の何倍にもなった勢いのまま地面に叩きつけた。
「がは⋯⋯っ!?」
地面に叩きつけられたヘリックスは白目を剥いて失神していた。無理もない。ちなみに、ヘリックスが叩きつけられた舞台には小さなクレーターができていた。つまり、それほどの威力だったのである。
「勝負あり! リュウメイ選手の勝利! 予選トーナメント最終試合で三度目の『平民』による下克上が起きたぁぁぁぁぁ!!!! 動天世代、やばすぎっしょぉぉぉ!!!!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!! 今年の一回生やべぇぇぇぇ!!!!!」」」」」
司会のフェリシアも観客ももはや『下克上』に驚くことはなく、フィーバー状態で大興奮していた。しかし、今の試合⋯⋯リュウメイの技を見て、一部の者たちは驚愕の顔を浮かべていた。
「あ、あの技は⋯⋯まさか⋯⋯いや、だとすると、あの国の人間が、なぜクラリオン王国の騎士学園に⋯⋯?」
——波乱の予選トーナメントが終了した。




