080「予選トーナメント三回戦(4)」
「イグナス・カスティーノ。久しぶりだな」
「ああ、そうだな。ガルーダ・タンゼント」
「一回戦を見たが、お前のその急激な魔力量、魔法威力の増加はどういうことなんだ?」
「フン。そんなことを俺が教えると思うか?」
「⋯⋯チッ!」
両者とも試合前からだいぶ気合いが入っているようだな。さて、火属性魔法特化のこのガルーダ・タンゼントにもイグナスの火属性限定の魔法消失『爪弾き』が果たして通用するのか。
「それでは、第五試合、はじめーーーーっ!!!!」
ゴーーーーン!
「火炎弾!」
ガルーダが先手必勝で中級魔法の火炎弾を放ち、無数の炎球がイグナスを襲う。しかし、
「爪弾き!」
これはイグナスも予想通りなのだろう。すぐに魔法消失『爪弾き』を展開。すると、
バシュ! バシュ! バシュ! バシュ!
向かってきた炎球を、氷と風魔法を混ぜ合わせ宿した両手ですべてはじき、火属性魔法を消失させる。
「バ、バカな!? 私は火属性魔法特化だぞ! その火属性魔法の威力でさえも打ち消すとは!?」
「フン。俺もお前の火属性魔法にも通用するとは思ってなかったぜ」
ガルーダは火属性魔法特化でその分、威力も通常の火属性魔法より高い。にも関わらず、『爪弾き』が通用するということは、この時点でイグナスの魔法威力がガルーダを上回っていることがわかった。
「す、すごい。火属性魔法特化で有名なガルーダ・タンゼントにも通用するなんて⋯⋯イグナス君は相当、魔力量と魔法威力が上がっているのね⋯⋯信じられないわ」
レコが急成長したイグナスに再度驚いている。ていうか、イグナスも自分の『爪弾き』がガルーダには通用しないと思っていたんだな。俺も「難しいんじゃないか」と思っていたが、イグナスの魔法威力の成長は自分の想定以上だったということか。やるな、イグイグ。
しかし、イグナスがガルーダの魔法威力を上回っているということは当然⋯⋯⋯⋯他の魔法も例外では無いということだ。
「今度はこっちの番だ! 風属性中級魔法『猛襲風刃』!!」
ゴォッ!
『かまいたち』の裂傷能力を備えた小型⋯⋯ではなく中型の竜巻がガルーダを襲う。
「な⋯⋯!? これが、中級魔法だと! ぬぅぅぅ〜⋯⋯っ!!!!」
ガルーダの体にいくつもの裂傷が入る⋯⋯が、それ以上にガルーダは体を吹き飛ばされないよう、踏ん張り必死に耐えている。しかし、
「『氷連矢』!」
ドガガガガガガガ!!!!!
イグナスはさらに、その猛襲風刃へ氷属性初級魔法『氷連矢』で氷の矢を射出。『かまいたち』の裂傷攻撃、中型の勢いを持つ竜巻、そして、そこにさらに物理的な『氷の矢』が加わる。結果、
「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
踏ん張りきれず壁へ吹き飛ばされたガルーダはそのまま気絶。レフリーがガルーダの状態を確認し、そこでレフリーストップを宣言。
「試合終了! レフリーストップによりイグナス・カスティーノ選手の勝利! なんとAクラス配属のガルーダ選手を破り、Bクラスのイグナス・カスティーノ選手が決勝トーナメント進出が決定しましたー!」
「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」」」
観客がBクラスの生徒がAクラス配属の生徒を破ったことにより、大いに盛り上がった。
「まー、イグナス・カスティーノは上級貴族だから『下克上』にはならないけど、ほぼ『下克上』に近い結果だからすごい盛り上がりね。イグナス君、本当に強くなったわね」
「うん、そうだね」
レコがそう言ってイグナスの勝利を素直に称える。
「カイトの魔力コントロール⋯⋯すごい効果ね」
「え? う、うん。僕もビックリだよ」
「じゃあ、大会終わったら私にも教えてね」
「え?」
「何、ダメなの?」
「え? えーと⋯⋯」
あれ? 教えていいのかな? いや、いいか。どのみち、今後広めていく予定だし。
「わかった。今度教えるよ」
「約束だからね! はい、指切りげんまん!」
「え?!」
キュッ。
そう言って、レコが小指を絡めた。
「じゃあ、私、用事あるから!」
「え⋯⋯あ、う、うん」
そう言って、レコは満面の笑みを浮かべながら立ち上がり、元気よく走り去っていった。
「⋯⋯」
俺は頬を紅に染めながら、立ち去るレコをボーと眺めていた。
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「続いて、第六試合! ドレイク・ガリウス、ザック・カーマイン選手の入場です!」
イグナスの次にザックが登場。ここでザックも試合に勝てば決勝トーナメント進出が決定し、俺の舎弟全員がAクラス入りとなる。
レコが離れたこともあり、俺は舞台に集中しようと思った。その時、
「や、やあ、カイト・シュタイナー!」
「え⋯⋯? ええ! レ、レイア姫⋯⋯様!?」
「うむ。レイア・クラリオンだ!」
レイア姫が合同魔法授業ぶりに声をかけてきた。




