078「予選トーナメント三回戦(2)」
「三回戦第二試合、ディーノ・バレンチノ、パルマ・オリーブ選手の入場です」
ガスの次に登場したのは、ディーノ・バレンチノだった。
「おー、ガスの次はディーノか。がんばれー!」
「あんた、ガス・ジャガー君もそうだけど、ディーノ君も上級貴族でしょ! 大丈夫なの? そんなタメ口で?」
「え? あ、うん。ガスたちやイグナスもそうだけど、タメ口で構わないって言われてるから大丈夫だよ。それに、騎士学園では身分差は関係ないし、親の介入もできないという『学園ルール』もあるしね」
学園長の言質も取っているしね。
「まーそうだけど。まあ、いいわ。あんたが大丈夫て言うなら何も言わないわ。どうせ、言っても無駄だし⋯⋯」
「ず、随分、ハッチャケましたね、レコさんや」
「今さら、どの口が言うのよ? さあさあ、第二試合始まるわよ」
そう言って、俺は舞台の方へと意識を向けた。
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「では、三回戦第二試合、スタートぉぉぉぉ!!!!!」
ゴーーーーン!
「しゃあああーーーーっ!!!!」
身体強化をすでに発動していたのか、開始と同時に、パルマ・オリーブが先制攻撃を放つ。しかし、
ブンブンブンブンブンブンブンブンブン!
「当たらない! 当たらないー! パルマ選手の拳や蹴りの連続攻撃がすべて空を切っているー!」
武闘術において、Bクラスの実力者の一人と言われるパルマ・オリーブの連続攻撃がディーノを襲うが、ディーノのまたすでに身体強化済みのようで、その攻撃を余裕を持って全て見切る。
「私、武闘術はあまり得意ではないのですが⋯⋯」
と言いながらも、ディーノが連続攻撃が止まったタイミングでパルマに迫る。
「へん! いくら、ディーノ・バレンチノ様といえど、武闘術でなら俺は負け⋯⋯うごっ!?」
ディーノの右ストレートが顔面を捉える。そして、
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッ!!!!
ディーノがパルマのお株を奪うような、もの凄い速度の連続攻撃を浴びせた。
「か⋯⋯は⋯⋯」
ドタ⋯⋯。
ボコボコに殴られ腫れ膨らんだ顔のパルマは白目を剥いて、そのまま膝をつき地面に崩れ落ちる。
「勝負あり! ディーノ・バレンチノ選手の勝利ーーーーっ!!!!」
「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」」」
ディーノは一度手を上げ、観客の声援に応えると涼しげな顔で舞台を後にした。
「きゃーーー! かっこいいーーーー!!!」
「ディーノ様ーーーーーーーーっ!!!!!」
女性の黄色い声援が一回生と二階の観覧席から上がる。
「ディーノ・バレンチノ君って、たしか、得意なのは魔法よね? でも、あの身体強化はかなり身体能力が上昇していた⋯⋯。武闘術以前に相手との身体強化のレベルがあまりにも違いすぎるじゃない。何なのよ⋯⋯あんた、一体何をしたのよ?」
「あ、いや⋯⋯さあ⋯⋯」
とりあえず、ここは惚けるしかない。
「カイトの魔力コントロール⋯⋯か」
「?」
レコが隣でブツブツひとり言を言いながら考え込んでいた。
ちなみに、カートはシードとなっていたので三回戦は試合をすることなく、決勝トーナメント行きが決定していた。悪運の強い奴である。
「続いて、第三試合、レイア・クラリオン、シャリー・オードネル選手の入場です!」
お! あれはレイア姫じゃないか。そういやレイア姫はAクラスだったな。ていうか、レイア姫が戦うところって初めて見るな。王族だから魔力量はかなりのものだろうが、さて、どんな試合になるかね?
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「第三試合、はじめぇぇぇぇぇーーーー!!!!!」
ゴーーーーン!
「レ、レイア姫様、よろしくお願いします!」
「うむ。全力で来るが良い!」
Bクラスの生徒で下級貴族のシャリー・オードネルが緊張しながら声を掛ける。レイア・クラリオンはその子に堂々とした振る舞いで返答する。
「はぁぁぁ⋯⋯『石礫』っ!!!!」
シャリーが土属性中級魔法『石礫』を発動。突き出したシャリーの両手から十センチ大の大量の石がレイア・クラリオンに襲いかかる。
「光属性中級魔法『光陣防壁』」
カッ!
レイア・クラリオンが光属性特有の防御結界魔法を展開。すると、レイアの体が光に包まれる。
カンカンカンカン⋯⋯!!!!
レイアを包む光により、シャリーが放った石礫の石がすべて弾き飛ばされる。
「え! な、何、あれ!」
「あれは光属性中級魔法の『光陣防壁』だね。レイア姫様は珍しい光属性魔法を扱える人だから」
「あの光って防御魔法?」
「うん。光属性には他の属性にはない治癒魔法と防御結界魔法というものがあるんだけど、あれはただの防御魔法ではなく結界のような役割もあるから⋯⋯例えば、他の属性魔法で壁を作るような防御魔法とは違い、物理への耐久性はもちろん、魔法攻撃の耐久性もはるかに高いわ。ちなみに、レイア姫様のあの中級の防御結界魔法なら、かなり魔法威力のある中級魔法か上級魔法でないとダメージを与えることはできないわね」
おいおい。すげーな、防御結界魔法。あれ? ということは、光属性を持つ俺でも防御結界魔法は使えるのか。まだ習得していないけど。
「あれ? そういえばカイトも光属性の初級魔法『治癒』使えたよね?」
「う、うん」
「ちょっと待って⋯⋯あんたって、いくつ魔法が使えるんだっけ? たしか、前に火も使っていたし、氷も使っていたよね。それに光属性の治癒も使える⋯⋯てことは、三属性持ちてこと?!」
「え、あ、うん⋯⋯」
「やるじゃない、さすがね。でも、私は五属性持ちだから! もちろん光属性魔法も使えるわよ、ふふん!」
と、レコがいつものマウントを取ってきた。うーん、でも俺が扱える属性の数は本当は⋯⋯⋯⋯いや、その話は今はやめておこう。
「終わりか? ではこちらからいくぞ?」
そう言って、レイア・クラリオンが光属性の防御結界魔法で光り包まれる状態のまま、身体強化をかけながら近づいてくる。
「く⋯⋯! ろ、岩礁硬盤っ!!!!」
シャリーはすぐに土属性中級魔法で防御効果の『岩礁硬盤』を展開。高さ・幅が三メートル超の岩の塊が、術者であるシャリーを中心に周囲にそびえ立つ。
「おお! これって土属性の防御魔法?」
「うん。土属性は光以外の属性の中では防御魔法が強力だからな。おそらく、岩の壁で守られている間に魔力を貯めて魔法威力の高い一撃を放とうと考えていると思うわ」
レコの言う通り、シャリーは岩の壁で守られている間に、魔力を手のひらに集中させ、魔法威力を上げた一撃をお見舞いしようと準備していた。しかし、
ゴガッ!!!!
「え⋯⋯?」
「⋯⋯破拳・一ノ型『直烈破」
なんと、レイア姫は高さ・幅が共に三メートル超ある岩の塊を『掌底一発』で粉々に破壊。岩の壁の中にいたシャリーがまさか破壊されるとは思わなかったのか、目の前の現実を受け止められないようで呆然としていた。
「いぃっ!? な、何、あれ! レイア姫様の掌底やばすぎでしょ! しかも、あれって、一回戦で拳闘士のロバート・ダウナーが見せたのと同じ『破拳・一ノ型『直烈破』てやつじゃ⋯⋯? あれ、あんなに威力があるものなの?!」
俺はレイア姫が放った『破拳・一ノ型『直烈破』の想像以上の威力に驚き、レコに聞いてみた。
「ううん。破拳・一ノ型『直烈破』は通常はあそこまでの威力はないわ。レイア姫様の身体強化によって威力が上がった結果ね。さすがレイア姫様ね」
「さすが? レイア姫様って有名なの?」
「知らないの? レイア姫様はああ見えて『武闘術の天才』よ。一回戦のロバート・ダウナー君も十歳で武闘術ランクが『拳闘士』ていうのも十分すごいけど、レイア姫様はそのさらに上を行く『武闘士』だからね。しかも、それでいて、光属性も使える四属性持ちていう『魔法の天才』でもあるわ」
「ええっ!? そ、そんなに凄いんだ、レイア姫様て⋯⋯」
「今回の一回生は動天世代て言われて多くの実力者がいるけど、優勝の最有力候補はレイア姫様だと私は思うわ」
「へー、そう⋯⋯なんだ⋯⋯」
レイア姫って、こんなに強かったのかよ。たしかに今のところ、他の選手と比べてもレイア姫は頭一つ抜けていると思う。まー、まだ実力を出していないのがほとんどだろうから何とも言えないけど。ていうか、レイア姫て155センチ(ザッきゅん調べ)と小柄な可愛いらしい容姿なのに、まさかの武闘派とはっ!?
レコから話を聞いて、レイア姫がまさかの『戦うお姫様』だったという『ギャップ萌え』に一人悶えていると、舞台ではシャリー・オードネルが降参したのでレフリーストップとなりレイア姫が勝利。
レイア姫は難なく本選へとコマを進めた。




