068「結束」
「⋯⋯なるほど。あなたはやはりとんでもないお人だ」
そう言って、ディーノがニコッと笑みを浮かべる。すると「ガス様」と言って、ガスを俺の目の前に手引きした。手引きされたガスはカイトの前に出るとニカッと笑い、
「乗ったぜ、カイトっ!」
と、何とも頼もしい野太い声で第一声を上げた。
「いいのか、お前?」
「あたぼーよ! ていうか、俺だけじゃねー。ディーノもカートも問題ねー!」
「え? それって、どういう⋯⋯?」
ガスはもう一度、ニカッと笑って一拍、間を置いてから話し始めた。
「⋯⋯さっきディーノはお前を試したのさ。お前がどれほどの覚悟でその言葉を言っているのかをな」
「試す? なぜ?」
「俺たちもカイトに似たことを考えていたからだ」
「え!?」
「俺たちは⋯⋯⋯⋯『クラリオン王国を変革したい』」
上級貴族、しかもジャガー財閥の子供であるガスから、とんでもない爆弾発言が飛び出した。すると、
「お、おい、ガス。お前⋯⋯それ、ガキの頃に言ってたやつ⋯⋯本気で考えていたのか?」
イグナスが驚くような顔でガスに問いかける。
「ああ。ガキの頃にお前に話したときからずっとな⋯⋯」
話によると、ガスはまだイグナスと仲が良かった頃からこの『クラリオン王国の変革』を考えていたという。その想いはイグナスが理不尽な処遇に追い込まれた『魔力偏重主義』や『一部の王族・貴族の堕落』への怒りから来ているらしい。
「俺はそのことを考えて、将来の基盤作りの目的でこの騎士学園にやってきた。それはディーノやカートも一緒だ。しかし、国の変革なんて簡単なことじゃねー。絵空事のようなものだ。でも、騎士学園で一番になり、同時に自分の配下を作り、その後騎士団に入ってそこでもトップになればそれは大きな力となる。そうなれば、ジャガー財閥関係なく俺個人で権力が手に入り、『絵空事が現実味を帯びる』と俺は考えた。まあ、俺たちの中での『十年計画』みたいなもんだ」
「「⋯⋯ガス様」」
「そんなときにカイト・シュタイナーに出会った。お前のその圧倒的な力に俺は驚愕と同時に、可能性を感じたよ。こいつと一緒なら⋯⋯とな」
「⋯⋯ガス」
「そして今、お前から『騎士団新設』の話を聞いた時、武者振るいしたよ、へへ⋯⋯」
そう言って、ガスが鼻をこすりながら照れ笑いする。
「望むところだぜ、カイト。俺はお前と一緒にとことんついて行く!」
「ガス⋯⋯」
ガスが差し出した手を俺はしっかりと握り締めた。
「⋯⋯イグナス」
「⋯⋯ガス」
「俺はお前とは似たような境遇だ。だから家の事情は少しはわかっているつもりだ」
「⋯⋯」
「俺もお前の家族も強大な力を持つ百戦錬磨の存在だ。そこに楯突くようなことがどういうことかくらいはわかっている。だが⋯⋯このままじゃこの国はダメなことくらいわかるだろ?」
「⋯⋯」
「お前も一緒に暴れよーぜ? カイトと一緒によ? カイトとならできると思わねーか? あの時の夢の実現をよ!」
「⋯⋯あの時の⋯⋯夢」
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「俺はこの国が魔力で差別されない国を作る! そしたらイグナスの問題なんてすぐに解決だ!」
「⋯⋯ガス」
「こんなアホらしい国は俺が変えてやる!」
「⋯⋯へっ! 調子に乗るなよ、ガス! お前だけでできるわけねーだろ! あーあ、何でお前はこう猪突猛進のバカなんだ」
「なんだと!」
「こりゃ、俺がサポートしねーとどうしようもねーな」
「!? イグナス⋯⋯お前」
「仕方ねーから俺も手伝ってやんよ! ちゃんと俺の言うことを聞けよ、ガス。お前、バカなんだから」
「へ! 言ってろ!」
「ふん。⋯⋯⋯⋯絶対に実現させような、ガス」
「ああ、もちろんだ」
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「⋯⋯ふっ。相変わらずお前のバカさ加減は治ってねーな、ガス」
「へ! 言ってろ!」
そうして、イグナスもまた俺の計画に付き合うとツンデレ成分多めに言ってくれた。そして、
「カイト! 俺も付き合う!」
「ザック」
「正直、大それたことで、荒唐無稽で、絵空事で、突拍子もない話に俺は全くついていけてないというのが本音だ。でも、カイトやイグナス、ガス様が言っていることは将来の俺にとって大事なことだってことはわかっている。だから、俺も協力する! 俺も⋯⋯自分の未来は自分で掴み取る!」
「ザック⋯⋯ありがとう」
「まあ、俺程度がどれだけみんなに貢献できるかわからないけどね」
「いや、俺の中ではザックがこのチームの一番の『要』だと思ってるよ」
「え⋯⋯それってどういう⋯⋯?」
「ま、それはまた今度話すよ。ありがとうな、ザック!」
「あ、ああ」
(俺みたいな下級貴族にカイトは期待⋯⋯してくれてるんだ)
ザックはカイトの意外な言葉に困惑しつつも、信頼されていると感じ、一人密かにグッと力強く拳を握り締めた。
「とりあえず、そういうことだ。だから、何も気にせず大会では⋯⋯⋯⋯大いに暴れてくれ」
「「「「「おうっ!!!!!!!!!!!!!」」」」」
こうして、俺たちは初めてチームとして一つになった。




