052「決着」
「え⋯⋯? カ、カイト・シュタイナーのあれって⋯⋯ま、まさか⋯⋯」
「いぃっ!! あ、あいつ、まさか⋯⋯ここで⋯⋯ガス・ジャガーに⋯⋯」
「「超級魔法『極致炎壊』を打つ気ぃぃぃーーーっ!!!!」」
レイア・クラリオンとレコ・キャスヴェリーの真っ青な顔と絶叫がシンクロする。
そして、その二人の絶叫は周囲の生徒や先生の耳にも入ることになる。
「え? 超級⋯⋯魔法?」
「今、レコ先生⋯⋯『超級魔法』って言った?」
「レイア姫様もレコ先生と同じように『超級魔法』て言ったぞ? たしか⋯⋯極致炎壊て⋯⋯」
「いやいやいや、ない! ない! 超級魔法だなんて、そんな伝説級の魔法だなんてあるわけ⋯⋯」
「で、でもよ、カイト・シュタイナーのあの炎の塊⋯⋯めちゃめちゃデカくなっているけど、あんな魔法見たこと⋯⋯あるか?」
そんな生徒がザワザワする中、
「はい、ちゅーもーく」
Cクラス担任であるパープルロングヘアー・パイオツカイデーメガネ美人先生ことアンジェラ・ガリウス先生が騒然とする生徒たちに声をかける。
「えー、カイト・シュタイナーがぶっ放そうとしているのは、紛れもない超級魔法『極致炎壊』だと思われまーす。なので、生徒・先生の皆さんはここから速やかに離れてくださーい」
「「「「「⋯⋯え? ええええええええええええっ!!!!!!!!!!」」」」」
アンジェラ先生は、淡々と事務報告レベルのトーンで生徒にこの場から離れるよう伝える。ただ、そのためか皆がすぐには動かなかったのだが、事の重大さに気づくと一斉にカイトとガスのいる舞台から一目散に離れた。
それにしても、うちの担任⋯⋯アンジェラ先生だっけか? 俺が今、発動しようとしているのが超級魔法『極致炎壊』とわかっていても全然動揺していないぞ⋯⋯何者だ?
俺がアンジェラ先生を見ながら思案している間も、炎の塊はぐんぐんと膨らみ続けている。ちなみに、現在はさっきの倍くらい⋯⋯直径十メートル程に達していた。
「カイト、やめて! 何があったかは知らないけど怒りを抑えてっ! そんな超級魔法をここで打ってしまったら、周囲の生徒や先生だけでなく学園一帯がぼぼ全壊してしまうわっ!!!!」
「そうです、カイト・シュタイナー! 超級魔法を放ってはいけません! お願いですから、ここはひとまず、その怒りの矛を収めてくださいませっ!!!!」
レコと、なぜかレイア姫は舞台から逃げ出しておらず、必死に俺の魔法発動を止めるよう声をかける。上級魔法士であるレコならまだしも、レイア姫は超級魔法『極致炎壊』とわかっていてよく逃げないでいるな。すごい根性だ。
「お、おい! わ、わかった! 俺の負けだっ!! だ、だから⋯⋯だから、その絶対にやばい炎の塊を打つのはやめてくれっ!!!!」
どうやら、ガスは完全に戦意喪失しているようで、俺に魔法をやめるよう訴えかける。しかし、
「土下座⋯⋯」
「え?」
「イグナスに『上級貴族の『恥』』って言ったこと⋯⋯ちゃんと、イグナスの前で土下座して謝るんだろうな?」
「も、もちろんだ!!!!」
「『騎士学園の三年間は隅っこにでも隠れてネズミのようにおとなしくしていろ』て言ったことも、きちんと頭擦り付けて謝れるか?」
「わ、わかった!? わかったから! わかったからその魔法を放つのは止めてくれ! お前の仲間をバカにしてすまなかった!!!!」
ガスは俺の目の前で土下座しながら必死の形相で叫ぶ。
「カイトっ!」
「あ、イグナス君」
イグナスの呼び声に『猫』をかぶった俺が返事をする。
「わ、わかった! もうわかったから! だからもう、ガスのことは許してやってくれ!」
「え? イグナス君、いいの?」
「ああ、いいんだ! カイトがこれだけ俺のために仕返ししてくれた、その気持ちだけで充分だ! だから、そのおっかない魔法を今すぐ止めろ!」
「カ、カイト! お願いだからその魔法止めてぇぇぇぇ!!!!」
イグナスとザックが魔法を止めるよう叫ぶ。
「わかった。イグナス君とザックがそう言うのなら⋯⋯止めるね!」
俺は『イグナスとザックが俺を止めてくれたからという体』で、直径十五メートル超まですくすくと成長した炎の塊をフッとすぐに消失させた。
かくして、ガス・ジャガーとの対決は幕を閉じた。
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「すまなかった、イグナス・カスティーノ!」
「「も、申し訳ありませんでした!」」
今、イグナスの目の前でガス・ジャガーと、子分その1、その2のディーノ・バレンチノとカート・マロンが土下座をして謝っていた。
「やめろよ、ガス! あと、お前らも! もういいから顔を上げろ!」
「いや、ダメだ! お前にあんなことを言った俺も、下級貴族であるカイト・シュタイナーに全く歯が立たなかったんだ! お前にあんなことを言った俺もまた『恥知らず』だった! すまない!」
「わ、わかったよ! わかったから! お前にそんな風に謝られたら調子が狂っちまうだろうがっ!?」
「いーや、ダメだ! そんなんでは俺の気が収まらないっっっ!!!!」
「だぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!! もう、面倒くせぇぇぇ〜〜〜〜っっっ!!!!」
ガスは、イグナスが「やめろ」「顔を上げろ」といくら言っても、頑として土下座を崩さず、何度も謝っていた。
このガス・ジャガーという男⋯⋯性根が腐っている奴かと思ったが、案外、良い奴なのかもしれないな。それに後ろの二人⋯⋯ディーノとカートもまた、ガスと同じ気概を持つ者なのか、ずっと頭を地面に付けたまま微動だにしなかった。
「機会があれば、一度話してみようかな?」などと、一件落着感でホッと腰を下ろそうとしたら、
「「カイト・シュタイナー〜〜〜〜っっっ!!!!」」
「は、ははは、はい〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」
顔を真っ赤にして怒りの形相をしたレコと、レコと同じく顔を真っ赤にして怒りの形相に見えるが、なぜか、うっすらニヤついているようにも見えなくもないレイア姫が俺の名を叫びながら近づいてきた。
「あんたバカじゃないのっ! こんな人の多いところで超級魔法『極致炎壊』ぶっ放そうとするなんて! ていうか、あんた下級貴族なのよ! そもそも下級貴族のあんたが上級貴族相手に圧倒してどうすんのよ! ていうか、超級魔法見せるとか何考えて⋯⋯あ〜〜〜もう! また、ツッコミが追いつかないじゃないのっっっ!!!!」
ベシベシベシペシペシ⋯⋯と、右肩あたりを割と強い力で叩きながら説教をするレコ。
「カ、カイト・シュタイナー! ちょ、超級魔法『極致炎壊』を打てるとは聞いてましたが⋯⋯ほ、本当に打てるのですね⋯⋯きゃーカッコいいぃぃ⋯⋯でも、あまり目立ち過ぎるのはどうかと思いますわよ⋯⋯もう、可愛くて強いとか反則ですわぁぁ⋯⋯こ、今後は気をつけるように⋯⋯もう心の声が漏れて止まらないので退散しますぅぅ⋯⋯で、では失礼するっ!」
レイア姫は、俺に「あまり目立ち過ぎないよう今後は気をつけなさい」というような注意をしてすぐに去っていった。それにしても今、注意する言葉の中に『カッコいい』とか『可愛くて強い』という言葉が聞こえたように思えたが⋯⋯まあ、気のせいだろう。
そんなことを考えていた俺の横ではレコが、ベシベシベシペシペシ⋯⋯とまだずっと叩き続けながら説教していた。
ま、とりあえず、丸くおさまったかな!
こうして、初めての『合同魔法授業』は途中中断という形で幕を下ろした。
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「⋯⋯ほう。あれだけ膨れ上がった超級魔法『極致炎壊』の特大の炎の塊を一瞬で消失⋯⋯魔法中断するとは。カイト・シュタイナー、こいつは掴んでいた情報以上の逸材だな」
レコに説教されているカイトを遠くで眺めながらボソッと呟くのは⋯⋯Cクラス担任アンジェラ・ガリウス。
「さて、こちらが思っていたよりも早く周囲に力を知られることとなったようだが、この後はどう動く?⋯⋯カイト・シュタイナー」




