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160「ミモザ・ジャガー」



——時を少し遡ること⋯⋯⋯⋯一回生クラス編成トーナメント/開催一週間前


「ミモザ先生ー!」

「ミモザちゃーん!」


 生徒はその呼びかけた先生に向かって、バタバタと駆け出して近づいてきた。


「コラー! 廊下を走っちゃダメでしょー!」


 その先生⋯⋯一回生のBクラスの担任であるミモザ・ジャガーは、走って自分に向かってくる生徒たちに顔を真っ赤にして注意をする。しかし、


「えー、別にいいじゃないっすかー! 俺たちは、ただ大好きな先生をみつけたから走っただけですよ!」

「そうです! これは『愛』です、ミモザ先生っ!」

「「そう、愛っ!!!!」」


 二人の生徒は、そんなセリフを恥ずかしげもなくミモザに向かって発する。


「はわわっ!? や、ややや、やめてください!! か、からかわないでくださいっ!!」


 さっき注意した時とは別の理由(・・・・)で顔を赤くするミモザ。


「やった! 先生照れたーっ!!」

「かわいいー! 先生ってやっぱ可愛いよー!!」


 生徒たちは、そう言ってミモザをさらにからかう。


「も、もう! いいかげんにして⋯⋯」

「コラァァァァァーーーー!!!!!!」


 生徒のからかいにミモザがあたふた戸惑っていると、後ろから甲高い声色が響き渡った。


「あ、レコ先生!」

「「ゲッ! レコ先生だっ!!」」

「あんたたち! また、ミモザ先生をからかっていたわね!! 教師なめてんじゃないわよぉ!!」

「来たー! やばい、やばいっ!」

「に、逃げろぉぉーーー! 魔法ぶっ放されるぞーーーー!!!!!」


 二人の生徒はレコの姿を見るや否や、速攻でその場から立ち去った。


「大丈夫ですか、ミモザ先生!」

「あ、ありがとう⋯⋯ございます⋯⋯」


 年齢的にはレコよりもミモザのほうが年上ではあるが、体型はミモザのほうが少し小さく(とはいえ、二人とも150センチ後半くらいではあるが⋯⋯)、且つ、ミモザのいつもの口癖である「はわわ」が余計に『子供っぽさ』を演出しているため、レコが年上のように見える。


「あんな奴ら、一度ガツンと言ってやらないとまたからかわれますよ!」

「す、すみません⋯⋯。で、でも、私、どうも、人と話すのが苦手⋯⋯というか⋯⋯」

「まあ⋯⋯そういうのもわかりますけど、生徒たちはこっちが注意しなかったらすぐにつけ上がりますから。⋯⋯難しいとは思いますけど頑張ってください!!」

「あ、ありがとうござい⋯⋯ます⋯⋯」

「大丈夫です! 私も協力しますから! あ、それから他にも⋯⋯」


⋯⋯、


⋯⋯、


——その日の放課後


「レ、レコ先生⋯⋯い、今、お時間⋯⋯いいでしょうか?」

「えっ! ミ、ミモザ先生っ?! え、ええ⋯⋯いいですけど。」


 放課後、ミモザ先生が学園にある教諭用の私の部屋にやってきた。そこまで仲が良いわけではないので意外だったが、でも今日のことがあったのでそれについての話だと私は思った。


「あ、あのぅ〜⋯⋯じ、実は⋯⋯その⋯⋯」

「⋯⋯」


 相変わらずの『モジモジ姿』に、私は内心⋯⋯「これじゃ、生徒に舐められるのもしょうがないわね」くらいに思っていた・⋯⋯⋯⋯が、次の瞬間、その印象はガラガラと崩れ去る。



「⋯⋯レコ・キャスヴェリー、お前の両親を人質に取った」



 突然⋯⋯⋯⋯あまりにも突然にミモザ先生の『雰囲気』が変わった。『声色』が今までのフワフワと可愛らしい声色がドス黒いしゃがれ声に変わった。そして⋯⋯オドオドと常に不安そうで、自分に自信を持てないようなウルウルしていたその瞳は今や『血走った赤い瞳』に変わっていた。


「え? りょ、両親? い、今⋯⋯何て⋯⋯?」

「あ? そんなの一回聞いただけですぐに理解してよ。あんた『規格外の天才』なんだろうが! この愚図がっ!!」

「え? え?⋯⋯⋯⋯え?」


 私の理性が⋯⋯理解が⋯⋯全く追いつかない。


「だーかーらー! お前の両親を人質に取ったのー! これからお前は私の『操り人形』として仕事をしてもらうってことー! わかったー?」

「りょ、両親を⋯⋯人質に取った? あ、操り⋯⋯人形⋯⋯?」


 気づくと私は泣いていた。脳はまだ理解が追いついていなかったのだが、私の胸の内というか、魂というか、そんな何か(・・)が⋯⋯この場の状況を先に理解したのか⋯⋯そして、その理解が肉体に伝わったのか⋯⋯私は気づくと涙を流していた。


「どうやら、状況を把握したかな、天才ちゃん? というわけで、これからよろしくね⋯⋯『操り人形(マリオネット)ちゃん』!」


 こうして、私はミモザ・ジャガーにカイトやその周囲の情報を流す『内通者(スパイ)』となった。



********************



——そして、現在


「報告ありがとう」


 現在、私は学園内にあるミモザ・ジャガーの部屋兼研究室にいる。


 私が部屋の扉を開けると、目の前には学園で見る『一回生Bクラス担任の顔』や『はわわ⋯⋯と言って慌てる顔』でもなく、彼女の『裏の顔』であり『本性』である『人を心の底から見下す瞳と冷笑を浮かべた顔』がそこにあった。


 すでに(・・・)彼女の本性を知った私は、いつも(・・・)のように今日も淡々と定時連絡をすると、前からずっと想ってきた『願い』を口にする。


「⋯⋯ミモザ」

「ミモザ⋯⋯『様』な?」

「っ!? ミモザ⋯⋯様」

「ん? なんだ?(笑)」


 ミモザが軽く愉悦な表情を浮かべる。


「私⋯⋯もう⋯⋯これ以上⋯⋯カイトを⋯⋯みんなを裏切るのは⋯⋯⋯⋯嫌」

「ほう?」

「だから、もう⋯⋯今日を最後に抜けさせてほしい。これまで⋯⋯あなたが私に接触してきて『両親』を人質に取ってから⋯⋯私はずっとあなたの言う通り協力してきた! そして、もう十分に貢献したはずよ! だから⋯⋯だから⋯⋯もう⋯⋯これ以上は⋯⋯」


 レコの目尻から涙が少し溢れる。しかし、


「はぁ? お前⋯⋯バカか?」

「⋯⋯え?」

「え? 何? そんなこと言われて私があんたを解放するなんて⋯⋯本当に思ったの?! だとしたら、あんたヤバいよ?『これまで言う通りにしてきた!』『もう十分貢献した!』⋯⋯って、それ、ただのあんたの主観じゃん?! あんたのただの『気持ち』じゃん?! 私が解放するための『交渉材料』でも何でもないじゃんっ!! 怖っ!! 怖っ!! これで私が本当に解放すると思っていたなんて⋯⋯あんた、まだまだ全然、甘ちゃんだよ!! 反吐が出るほどねぇぇぇーー!!!!」


 バキっ!!!!


 ミモザが言い終わると同時に、レコの目の前に一瞬で近寄るとそのままの勢いで顔面を殴った。


「うぐっ!!」


 殴られたレコの鼻から鼻血が滴る。


「頼むから、あんまりイラつかせないでくれるかな、レコ先生(・・)?」

「くっ!?」

「⋯⋯おい、返事?」

「っ!!⋯⋯は、はい」


 これが、あの⋯⋯いつも生徒にからかわれていたミモザ先生だなんて⋯⋯⋯⋯もはや見る影も無い。


「てなわけで、あんたにはこれからも(・・・・・)働いてもらうよ? 抜け出すのはもちろん不可能だし、まして両親を探すなんて無駄よ? ま、あんたが誰かにこの話をするような仕草を少しでも見せたら、すぐに両親をズタズタに残虐に殺すだけだけど。それでも良いなら誰かにお話してどうぞ。⋯⋯ま、そんなことしたら私の手下があんたも殺すけどね? あんたも知っているでしょ? 私の『あの従順な最強の部下』を? いくら『最年少上級魔法士』と言われていても、今のあなた程度なら確実に殺すことができるし、それくらいはあなたでもわかるでしょ?」

「⋯⋯は、はい」

「そういうわけだから、これからも末永く(・・・)よろしくね『操り人形(マリオネット)』ちゃん? ギャハハハハハハ!」


 これでもかと言うほど、ひどく歪んだ愉悦な表情を浮かべるミモザ・ジャガーであった。


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