130「学園長の要求」
「カイト君。君、この洗脳魔法⋯⋯⋯⋯どうにかできないか?」
「え?」
何を言っているんだ、このおっさんは?
「どう⋯⋯とは?」
「カイト君に望んでいるのは大まかに言うと3つじゃ。1つは⋯⋯」
そう言って、学園長がいくつか要求してきた。
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【学園長の要求】
『要求1』
カイト君独自の方法で、大規模洗脳魔法の使い手を見つけて欲しい
『要求2』
カイト君独自の方法で、大規模洗脳魔法が無効化できるような『何か』を考えて欲しい
『要求3』
カイト君独自の方法で、対象者のバックにいる組織を潰して欲しい
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「おい、おっさん! あ、失礼⋯⋯⋯⋯じじい!」
「ふぉふぉふぉ、よりひどくなっておるな。ていうかお主、その口調・態度⋯⋯⋯⋯『猫かぶり』をやめたのか?」
「ああ。ある程度周囲に『実力』が知れ渡ったからな。それよりも⋯⋯だっ! なんだよ、この『カイト君独自の方法で』ってのは! それって、ただの『丸投げ』じゃねーか!」
「ふぉふぉふぉ、それは違うぞ、カイト君。君ならできるじゃろ? いや⋯⋯⋯⋯君にしかできないじゃろ? だから、そう言っただけじゃよ?」
「っ!?」
学園長め、俺の『魔力膨大』のことを⋯⋯⋯⋯知っているのか?
「カイト君。君と大会前に話したよね? その時、君は『騎士団解体または新設をしたい』と言っていた。そして、私もそれに同意した。さらに⋯⋯⋯⋯君の視線の先と私の視線の先は、同じ方向を向いているとも⋯⋯」
「あ、ああ」
「これがその一歩じゃ。そして『カイト君独自の方法』が、この大規模洗脳魔法を止める『唯一の光明』だとも思っている」
「ゆ、唯一⋯⋯? ど、どういうことですか?」
「私やラディット国王が介入しても大規模洗脳魔法をいまだ止められない。それどころか魔法使役者さえ見つけられていないどころか手がかりすら掴めていない。こうまで我々が後手に回るこの事態を考えたとき、一つの結論に達した。ワシらは⋯⋯⋯⋯魔法使役者にその場で洗脳魔法をかけられ、その者の正体や現場の記憶を消されている!」
「⋯⋯あっ!」
「実際、ワシやラディットの記憶には、その魔法使役者の捜索の記憶はあると思う。というのも、その後の追い詰めたような感覚はあるものの、肝心なところの記憶だけ『濃いモヤ』がかかったようになっているのじゃ。じゃが、それは見方を変えれば⋯⋯⋯⋯『そこには何らかの記憶がある』ということ。そして、この『濃いモヤ』があること自体が『記憶を意図的に消された証拠』となるのじゃ!」
「っ!?」
なるほど。学園長のその論理⋯⋯⋯⋯確かに信憑性は高いように感じる。
「じゃから、この任務はカイト君の持つ『何か』が重要になってくる。いや、違うな⋯⋯⋯⋯『カイト君にしかこの任務は遂行できないもの』と言える!」
「っ!!!!!」
「「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」」
俺は学園長の言葉に息を呑む。
確かに、この『得体の知れない魔法』や『魔法使役者』を見つけることは、現時点では不可能なのだろう。なんせ、学園長やラディット国王が介入しても見つけられないのだから。
そうなれば、俺の『力』をどこまでかはわからないとはいえ、『何かあること』を知っている学園長からすれば、俺に頼むのも『道理』⋯⋯⋯⋯か。
しかし、正直、俺の能力『魔力膨大』は、自分でさえまだ完全に把握はしていないのが現実だ。なんせ、神様がきちんと能力の説明をしなかったからな(3話参照)。
そんな、学園長の要求にうんうん唸りながら考えていると、
「お、おい、カイト。お前、そんなことを大会前からすでに学園長と話していたのか?」
レイアが目を丸くして、俺に話しかけてきた。
「あ、ああ、うん⋯⋯」
「それにその口調⋯⋯さっき学園長が『猫かぶりを止めたのか?』と言っていたが、カイトはこれまで『猫をかぶっていた』というのか?」
「⋯⋯」
あ、バレた。⋯⋯どうしよう、いや、どうしようも何もないか。
どっちみち、本来の自分を曝け出すつもりだったからな。
「これが、本来の俺だ、レイア。これまでは『猫かぶり』⋯⋯⋯⋯大人しくしていたが、こっちが本当の俺だ」
「っ!? そう⋯⋯なんだ⋯⋯」
「⋯⋯幻滅したか?」
「え?⋯⋯あ、いや⋯⋯べ、別に⋯⋯」
そう言うと、レイアは頭を下げて震えていた。⋯⋯ショックだったか。
だが、これは仕方がないことだ。遅かれ早かれ知られることだったからな。
とはいえ、レイアには『本来の俺』は受け入れられなかったか。結構⋯⋯⋯⋯堪えるな。
⋯⋯うっし! 忘れよう!
俺はその勢いで、
「わかった、いいだろう。その任務、引き受けます! レイア⋯⋯⋯⋯いいか?」
「っ?! あ、う、うん。あ、いや⋯⋯⋯⋯は、はひぃぃっ!」
そういったわけで、俺たちは学園長の任務を受けることを承諾した。
うん? 何か、いま、レイアの返事⋯⋯⋯⋯『はひぃぃ』つった?
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【レイアside】
「これが、本来の俺だ、レイア。これまでは『猫かぶり』⋯⋯⋯⋯大人しくしていたが、こっちが本当の俺だ」
「っ!? そう⋯⋯なんだ⋯⋯」
カイトが私の問いに隠すことなく答えてくれた。
そして、その答えは私にとって衝撃的だった。だって、
「今のカイト、超超超超超ぉぉぉかっこいいんですけどぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」
私はハスハスする。ものすごくハスハスする。
やめられない。止まらない。
しかし、このままではまずい。
このまま、カイトの顔を見ていると、私の『ハスハスぶり』が露見されてしまう!
そんなことを考えていると、
「⋯⋯幻滅したか?」
「え?⋯⋯あ、いや⋯⋯べ、別に⋯⋯」
ズキュゥゥゥゥゥゥゥンンンっ!!!!!!
HITぉぉぉーーーー!!!!
あ、もうダメ⋯⋯。
これ以上、カイトの目を見て話すことはできないと判断した私は、興奮している姿を見られないよう、急いで顔を伏せた。あのさっきのイケボでの「⋯⋯幻滅したか?」は反則です。
そんな、カイトの激変ぶりに興奮する自分を必死に抑えていると、
「わかった、いいだろう。その任務、引き受けます! レイア⋯⋯⋯⋯いいか?」
ここでカイトが不意に私の返事を聞いてきた。油断していた私は思わず、
「は、はひぃぃっ!」
と、キャラ崩壊な返事をしてしまいました。
あああぁぁぁぁあああぁああぁ〜〜!! やってもたぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!!
チーン。
レイアはカイトへの返事を最後に興奮がピークを迎え⋯⋯意識を失った。
こうして、カイトとレイアの『すれ違い通信』は幕を閉じた。




