129「脅威と初任務」
「では、ここから話す内容は君たちがこれから受ける『任務』に関係するものであり、国の最重要機密事項となる。よって、これからの話はすべて他言無用とする⋯⋯よいな?」
「「「「「は、はい⋯⋯っ!!!!(ごくり)」」」」」
俺も含めて、皆が学園長の言葉に緊張のギアがさらに一段階上がる。
「今回の任務は⋯⋯⋯⋯ある対象者の捕獲または討伐じゃ」
「対象者?」
「今回の対象者は⋯⋯⋯⋯『大規模な洗脳魔法を使う者』じゃ」
「「「「「せ、洗脳⋯⋯魔法⋯⋯っ!?」」」」」
初めて聞く魔法だ。しかも『洗脳』って⋯⋯。
「洗脳魔法⋯⋯といっても、実際そのような名称の魔法かどうかはわからぬ、というところが実情じゃ。そして、それだけ厄介な任務とも言える」
「え? そうなの?」
「うむ。敵⋯⋯この対象者がそもそも何者かもよくわかっておらん。ただ、この国で何か『きな臭い』ことをしていることは確かでな。その一つがこの『大規模洗脳魔法』じゃ。この洗脳魔法のせいで『ある者たちの存在』がクラリオン王国内の王国民の中から消え去ってしまっておる」
「え? 何それ?」
「さらに、その者たちは『王国内の歴史書』にも記録が残されていない」
「はぁ〜っ?! そ、そんな大規模な『虚偽の情報』を国レベルで操作されているってことですか?!」
「そうじゃ。始まりは『五大国大戦』終結後である十五年前くらいから始まっていると思われる」
「そ、そんな前から⋯⋯」
「もちろん、これまでもワシやラディット国王も犯人探しをしているが、一向に尻尾さえ掴めぬままじゃ」
「そ、そんな⋯⋯学園長や国王様が動いても尻尾さえ掴めないだなんて⋯⋯」
「そんな相手を、俺たち⋯⋯『学園騎士団』で捕縛または討伐するんですか?!」
生徒からは不安の声が上がる。当然だ。二大曲者である学園長とラディット国王でも尻尾を掴めない相手を、俺たちが捕縛・討伐なんて無理ゲーでしかない。
「ちなみに、なぜお前たちにこんな『難解な任務』を与えるのかというのは⋯⋯⋯⋯カイト・シュタイナーに関係しているからだ」
「え? 俺?」
「この大規模洗脳魔法を使って、王国民の記憶から存在を消し去っている人物⋯⋯。それは、かつて『五大国大戦』で英雄級の活躍をし、他国からクラリオン王国を死守した『ベクター・シュタイナー』『ジェーン・シュタイナー』⋯⋯⋯⋯つまり、カイトの両親じゃ」
「「「「「えええええええええええっ!!!!!!!!!」」」」」
学園長の言葉に俺も含めた皆が驚きの声を上げる。
「そ、それは、おかしくないですか!? お、俺は、ベクター・シュタイナー様やジェーン・シュタイナー様のことはちゃんと記憶にありますし、忘れたことなど一度もありません!」
そう、激しく声を上げたのは⋯⋯⋯⋯カート・マロン。
カートは『騎士団オタク』で有名で、その中でも『五大国大戦時代の騎士団オタク』らしい。
そして、その中で特にファンなのが俺の両親だと⋯⋯大会が終わった後、しつこいくらいに聞かされたのを俺は思い出した。
「うむ。そこがこの大規模洗脳魔法の厄介なところでな。どうやら調べていくと、この大規模洗脳魔法は『効果範囲こそ広いが、そこまで強力なものではない』ということがわかった。じゃから、カート君のような『二人のことが常に頭にある者』であれば、その者の記憶から消え去ることはない。なので、ワシや他の二人と近い者たちの記憶にはちゃんと残っておる」
なるほど。
確かに、学園長や騎士団長のアルフレッドさんは覚えていたな。
「ただし、そのようなあいまいな洗脳効果じゃからこそ、かえって気づくのが遅れた。そして、そのあいまいな効果のおかげで、これまで人々に怪しまれることが一度もなかったのじゃ」
何となくだが、俺は学園長が言っていることがわかった。『しっかりした効果』よりも『あいまいな効果』のほうが、じわりじわりとゆっくり浸透していく⋯⋯そんな感じだろう。
はっきりとした効果じゃないからこそ、気づきにくいし、見つかりにくい。
そう考えると、この大規模洗脳魔法を使役している人物は⋯⋯⋯⋯『相当な切れ者』であることは間違いないだろうな。
「そ、それでしたら⋯⋯⋯⋯いくら、カイトの両親が関係しているものとはいえ、尚更、私たち学生では、あまりに困難な任務ではないでしょうか!?」
レイアが学園長に進言する。みんなも同じことを思っているようで『うんうん』と頷いている。しかし、
「話はまだ終わっておらんぞ、レイア・クラリオンよ? この任務を君たちにやってもらう理由でカイト・シュタイナーが関係しているというのは何も⋯⋯⋯⋯『両親が関係しているから』だけではない」
「え?」
「カイト君。君、この洗脳魔法⋯⋯⋯⋯どうにかできない?」
「へ?」
何を言っているんだ、このおっさんは?
「どう⋯⋯とは?」
「カイト君に望んでいるのは大まかに言うと3つじゃ。1つは⋯⋯」
そう言って、学園長がいくつか要求してきた。




