119「決勝トーナメント決勝(2)」
ガガガガガガガガガガ⋯⋯!!!!!
「こ、この時点で、イグナスの全力に近い速度⋯⋯かよっ!?」
当然、試合開始前から身体強化を展開し、体内で魔力の循環速度も上げていたカイトであったが、リュウメイの速度はその準備を上回っていた。そのため、カイトは急遽、さらに循環速度を引き上げ、対処することになったのである。
バシィィィィィーーーンン!!!!!!!!
「さっすがーっ!」
「⋯⋯」
リュウメイが跳ねた声で無邪気に俺を賞賛する。
なるほど⋯⋯まだ、余裕があるということか。
「じゃあ、これは⋯⋯⋯⋯どう?」
バッ!
リュウメイはカイトから距離を取ると同時に魔力を練り始めた。そして、
「火属性中級魔法⋯⋯『火炎弾』」
ドドドドドドドドドドドド⋯⋯っ!!!!!!
リュウメイが無数の『炎球』で対象を襲う『火炎弾』を展開。しかし⋯⋯、
「な、なんだ!? あの『炎球』の大きさはっ!!!!」
舞台横からレコ・キャスヴェリーがリュウメイの『火炎弾』の炎球の大きさに思わず声を上げる。
それもそのはず、通常の『火炎弾』の炎球は術者の魔力によるが、大きいのでも30センチ前後である。しかし、リュウメイのそれは、その倍近い大きさの炎球だった。
そんな『60センチ近い炎球』が大量にカイトへと襲いかかってくる。
「こ、こんなの⋯⋯もはや、中級魔法じゃねーっ!?」
「逃げろっ! カイトぉぉぉーーーーー!!!!!!」
リュウメイの『火炎弾』の炎球の常識外の大きさに呆気に取られるガス・ジャガー。そして、その横からレイア・クラリオンがカイトへ『火炎弾』を回避するよう大声で呼びかける。しかし、
スッ⋯⋯。
カイトは右手を前方へとかざした。そして、
「⋯⋯『氷結凝固』」
パッキィィィィィィーーーーーンン!!!!!!!
「「「「「はぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っ?!!!!!!!!!」」」」」
なんと、目の前に迫った60センチ大の無数の炎球を、カイトはすべて一瞬で凍らせた。凍結された炎球が地面へ落ちて割れた。
「はぁ?! い、いやいや、あの『火炎弾』を避けるでもなく凍らせるなんて⋯⋯さすがに、ちょっと、これは呆れるしかないかな⋯⋯ハハハ」
リュウメイは、今のカイトの魔法は流石に予想外だったらしく、飄々とした姿は相変わらずだが、少し苦笑いを浮かべる。
「⋯⋯そうか。今ので予想外だったのか。じゃあ、これなら⋯⋯⋯⋯どうだ?」
「え?」
「次は、こっちの番」
「っ!?」
ドン!
今度は、逆にカイトがリュウメイへと詰め寄った。
「ほい⋯⋯っと!」
ドゴっ!!!!
カイトはそれなりの重い正拳突きを放った。
リュウメイはそのカイトの攻撃を両腕でガードしつつ、しっかりと踏ん張って対処した⋯⋯つもりだった。しかし、
ズザザザザザザザザザザザザザザザっ!!!!!!!!!
「ぐぅぅぅぅーーーーっ!!!!!」
リュウメイはカイトの攻撃の威力をほとんど吸収することができず、その体は舞台を超え、壁の近くまでいきおいよく持ってかれた。
「な、なんて⋯⋯威力⋯⋯だ⋯⋯」
リュウメイはガードした両腕が赤く腫れあがっているのを見ながら、カイトの攻撃の威力に愕然とする。⋯⋯もはや、最初の余裕は消えていた。すると、
「おいおい、頼むよ、リュウメイ? 最初のいきおいとか『飄々キャラ』がすっかり無くなってるぞ?」
「⋯⋯え」
「ていうか、たしかに最初の連撃は速くて驚いたよ。なんせ、舎弟のイグナスの全力に近いスピードだったからな。ただ、それはちょっと驚いただけで、別に『ヤバい!』とかそう思ったわけではないこと⋯⋯⋯⋯わかってる?」
「な⋯⋯っ?!」
「端的に言うとだな、お前、俺に対して『力を試す』ようなことをしているみたいだが、その時点で俺との力量差をまったく把握できていないこと⋯⋯⋯⋯わかってる?」
「っ!? フ、フン⋯⋯そんなわけないだろ! だって、今、拳を交わして、魔法も交わしたけど、君と僕との実力差はそこまでないじゃないか!」
リュウメイは「強がるなよ!」と気勢を吐く。しかし、
「そうか。じゃあ、もう少しわからせる必要があるみたいだな⋯⋯」
「な、何だ、と⋯⋯っ!?」
フッ。
リュウメイの言葉が言い終わる前に、カイトの姿が消えた。
「消え⋯⋯っ!?」
「よっ!」
「なっ?!」
リュウメイがカイトを「消えた」と思った瞬間には、自身の真横に出現したカイトに愕然とした。
「な、舐めるなぁぁぁーーーーっ!!!!!」
ブン⋯⋯!
リュウメイは横にいるカイトに振り向くと同時に裏拳を放つ。しかし、その拳は空を切る。カイトがまた消えたのだ。
「⋯⋯とまあ、こんな感じだ」
リュウメイの拳が空を切った瞬間——カイトはすでに最初の自分のいた位置へと戻っていた。
「そ、そんな⋯⋯バカな⋯⋯」
リュウメイは顔を真っ青にして、ブルブルと震えながら棒立ちとなっている。
「そういや、レイア姫様との試合のとき、お前『相手を下に見ていない』だの『相手に敬意を払っている』だの言っていたな。だが、レイア姫様には『周囲に自分よりも強い奴がいないため調子に乗っている』と指摘されて図星だったようじゃないか」
「う、うるさい! そ、そんなことは、ないっ!」
リュウメイは、カイトの言葉にカァッと顔を紅潮させ否定する。だが、
「いやいや、俺は別にお前を責めてるわけじゃないぞ?」
「⋯⋯え?」
「なんせ、俺も超強いおかげで調子に乗っているからな!」
「へ⋯⋯へぇいぇあぁぁあぁああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜?!!!!!!!」
リュウメイはカイトのそんな斜め上の言葉に、今まで発したことのないような声を張り上げた。
「お前とやる前は『もしかしたら俺より強いのかな〜?』なんて思っていたけど、でも、やってみたら、その⋯⋯⋯⋯大したことなかったぞ?」
「ぬぐ⋯⋯っ!?」
「まあ、お前もこれまで自分よりも格下相手にマウント取っていたようだが⋯⋯それも、ここまでだってことだ。なんせ、俺、お前よりだいぶ強いから」
「⋯⋯」
リュウメイは無言でカイトを睨みつける。
もはや、最初の飄々としたキャラの面影はどこにもない。
「それにお前⋯⋯⋯⋯まだ何か隠しているだろ?」
「っ!? カイト⋯⋯お前、そこまで見抜いて⋯⋯」
「今、言った俺のイキリは、現時点のお前の評価だ。その評価を超える⋯⋯むしろ、俺を凌駕するだけの何かを持っているのなら出してみろ。小手先のことはやめろよ? そんなことしたら、その何かを出す前に、お前の意識をすぐに刈り取るからな?」
「⋯⋯」
カイトのその言葉に、さっきまで怒りを露わにし、睨みつけていたリュウメイの顔がスッと冷静さを取り戻し、能面のような感情の消えた表情へと変わる。
その姿は、まるでリュウメイの覚悟が現れたように見えた。




