108「決勝トーナメント準々決勝(1)」
「これより、決勝トーナメント準々決勝をはじめますっ! 準々決勝第一試合は⋯⋯⋯⋯イグナス・カスティーノ選手対ウキョウ・ヤガミ選手!」
「「「「「ワァァァァーーーーー!!!!」」」」」
三十分休憩の後、早々に準々決勝が始まった。
「出た! ヤマト皇国の留学生!」
「ウキョウ・ヤガミか。あいつ、やばいよな!?」
「どっちも頑張れー!」
観客や観覧の生徒たちからも大きな声援が送られる。その中に、
「あれが、ヤマト皇国の⋯⋯留学生。強いのか?」
「はい。予選も決勝トーナメント一回戦も相手を圧倒しての勝利でした。というよりも、まだ本気を出していないようなので、どれだけ強いかは未知数です」
「ふむ。そうか⋯⋯」
「ただ、次の試合、快進撃を続けている、あのイグナス・カスティーノですからね。ウキョウ・ヤガミも片手間で対処できるような相手ではないでしょう」
「イグナス・カスティーノか⋯⋯見違えたな。上級貴族にも関わらず魔力量が極小だった男が、いつの間にかここからでもわかるくらいに魔力量が激増している⋯⋯」
「はい。それにイグナス・カスティーノは元々魔力コントロールや魔法センスが突出していた男です。そこに原因は不明ですが魔力量が大幅に増加したことで、その能力をフルに発揮しています」
「ヤマト皇国の強者と影の実力者の対決か⋯⋯見ものだな」
ヤマト皇国のウキョウとイグナス双方について冷静に分析する男が二人。『二回生序列1位』であり『学園最強の一人』といわれる『アレックス・ストラクチャ』とその従者。他にも、周囲には有名どころの上級生たちがアレックスたちと同様、冷静に試合を分析していた。
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舞台上、イグナスとウキョウの二人は試合開始の合図を待っていた。すると、
「よう、イグナス・カスティーノ君! 君のこと知っているぜ?」
「何?」
突然、ウキョウがイグナスに話しかけた。
「あんた、学園に入るまでは魔力が少なかったのに、入学してから魔力が増大したんだって? そんなの初めて聞いたんだけど本当なのか?」
「⋯⋯フン。だからどうした?」
イグナスは、グイグイ来るウキョウに対し、少しイラついた表情で反応する。
「いや、普通に凄すぎでしょ? もしかして魔力が増えたのって⋯⋯⋯⋯カイト・シュタイナーから何か教えてもらったの?」
「! どういう⋯⋯ことだ?」
「お? やっと俺に興味持ってくれた?」
「おい! 今の言い方はどういうことだ! お前、何を知っている?!」
「さ〜て、どうですかね〜」
「⋯⋯こいつ」
イグナスが右京に最大級の警戒を図る。対するウキョウはニッと子供のような笑顔を向ける。
「では、準々決勝第一試合、はじめぇぇぇーーー!!!!」
ゴーーーン!
「がっかりさせないで⋯⋯⋯⋯くれよっ!」
「っ!?」
開始直後、ウキョウは一瞬でイグナスの懐へと入り、すでに準備していたのであろう身体強化状態でイグナスの腹部に掌底を放つ。しかし、
ガシッ!!!!!
「何っ!?」
イグナスは、ウキョウの掌底が当たる寸前に両の手の平で挟むようにして止めた。しかも、それだけでなく、
「⋯⋯『氷結凝固』」
「うおっ!?」
パキパキパキパキパキパキパキ⋯⋯!
イグナスはウキョウの右拳を挟んだまま、氷属性中級魔法『氷結凝固』を展開。ウキョウの右手が瞬時に氷結していく。
「ぐっ⋯⋯この⋯⋯っ!?」
これまで、いつも余裕の笑みを浮かべていたウキョウの顔が初めて苦悶で歪む。
「オラァァァーーー!!!!」
「ぐはっ!?」
イグナスはウキョウの手を離すと同時に、ウキョウの顎を下から蹴り上げる。すると、イグナスももちろん身体強化状態であったため、ウキョウの体が五メートルほど浮いた。
「うぐ⋯⋯っ!?」
「どうだ? これまでの舐めた態度を改めるくらいには驚いたか?」
「っ!?⋯⋯お、お前⋯⋯」
「お前ら、ヤマト皇国がどれほどの者か知らんが、このクラリオン王国で舐めたマネされるのは⋯⋯⋯⋯ムカつくんだよ」
「⋯⋯フッ、なるほど。お前ほどの男が同年代にいるとはな。クラリオン王国も噂よりやるじゃん。ビックリしたよ」
「⋯⋯」
「ちなみに、俺たちはクラリオン王国を舐めてはいない。ただ、現実を、現状を、きちんと把握しているだけだ⋯⋯⋯⋯炎陣防壁」
「っ!?」
ウキョウが火属性中級の防御魔法『炎陣防壁』を展開。イグナスの氷魔法で凍った右腕を一瞬で氷解させると同時に、自身の体を激しい炎が守るように覆い被さる。
「チッ! 流石⋯⋯といったところか」
ウキョウのデタラメな『炎陣防壁』の威力を見て、イグナスが小さく悪態をつきながら、しかし、
(⋯⋯だがな、俺はこんなところで負けるわけにはいかねーんだよ!)
イグナスは表情とは裏腹に、心の中で激しい口調で気合いを入れた。




