103「決勝トーナメント一回戦(13)」
「ハルカラニ家相伝魔法『愛ノ奴隷』!」
トゥンク!
「お、おい! あれ見ろ! カイト・シュタイナーが⋯⋯!!!!」
周囲の声にハッと我に返った二人は、すぐに舞台にいるカイトへと視線を向けた。すると、
「カイト。私のこと好きですか?」
「はい。リリアナのことが⋯⋯⋯⋯大好きです」
「「な⋯⋯なんですとぉぉぉぉーーーーーっ!!!!!!!」」
リリアナの横で目を半目にし、虚な表情で棒立ちになっているカイトの姿があった。
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「完璧⋯⋯でしたわね」
「はい、フロレンシアお姉様」
舞台を見ながら、優雅な笑みを浮かべるのはハルカラニ家のフロレンシアとマリアンヌ。
「体術であそこまで圧倒された相手。普通なら誰もが降参を申し出るでしょう。しかし、まさか、あの子がここで相伝魔法『愛ノ奴隷』を放つだなんて⋯⋯⋯⋯リリアナ、恐ろしい子」
「ええ。しかも、おそらくリリアナはここまですべて計算していましたわ、お姉様。『愛ノ奴隷』発動までの流れがあまりに完璧⋯⋯ですもの。末恐ろしい妹⋯⋯ですわ」
そう言って、マリアンヌが汗を垂らしながら苦笑いを浮かべる。
「⋯⋯本来、ハルカラニ家相伝魔法である『愛ノ奴隷』は『自分の色気』を利用して相手の精神を支配する魅了魔法。しかしリリアナは、『自分の色気』ではなく『相手の惚れ気』を利用する、あの子独自の『愛ノ奴隷』。その分、お膳立てが重要となってきますので成功率は通常の『愛ノ奴隷』よりだいぶ低い。ですが、それがバッチリ嵌れば通常の『愛ノ奴隷』よりも強力な魅了魔法となります。そして、今回のカイト・シュタイナーへの魔法発動までのお膳立ては⋯⋯⋯⋯完璧でした。見事ですわ」
「はい、お姉様、これ以上ないほどかと。ただまあ、ある意味、リリアナの『愛ノ奴隷』は未経験の子にはトラウマを与えかねない、ある種、残酷な魔法ですけどね。クスクス」
「そうね。今度、リリアナには魔法名を『愛ノ奴隷』から『童貞殺し』とでも改名してもらいましょう。クスクス」
クスクス。クスクス。
二人のゾッとするようなやり取りを周囲の男性陣がガクブルして盗み聞きしている中、舞台横の観覧席からは悲痛な叫び声が⋯⋯特に二人ほどから上がっていた。
「き、貴様〜、リリアナ・ハルカラニ! なんという下劣な精神干渉魔法を!」
「そうですよ、リリアナさん! そ、そんな『はしたない精神干渉魔法』を十歳の子が使うだなんて!」
その二人とは、もちろんレイアとレコだった。しかし、そんな二人にリリアナが反論する。
「ウフフ⋯⋯。姫様、レコ先生。別に『下劣』『はしたない』といっても精神干渉魔法の使用は問題ないでしょ? だって、サラ・ウィンバードさんも精神干渉魔法である『闇属性魔法』を使っていたのですから」
「「ぐ、ぐぬぬ⋯⋯!?」」
全く、その通りである。『ぐう聖』である。
「というわけで! これで私の勝ちは100パーセントとなりました。でも、せっかくですから、カイトにいろいろ質問をしましょう!」
「え? リ、リリアナ⋯⋯?!」
「リリアナさん? あ、あなた、何を⋯⋯?」
「ずっと気になってたんですよ、カイト・シュタイナーのこと。身分はただの下級貴族に過ぎない彼が『大会初の学園長推薦シード』とか『合同魔法授業で今大会優勝候補筆頭だったガス・ジャガーを圧倒して倒す』とか、あと『超級魔法の発動疑惑』など⋯⋯あまりにも『身の程を超える噂』が挙がったのか。私は知りたいのです。彼の噂の何が『本当』で何が『嘘』なのかを。皆さんも聞きたいですよねー?!」
「おおお! 聞きたいぞー!」
「いいぞぉぉ! ハルカラニ家の令嬢!」
「「「「「ワァァァァァァァーーーーー!!!!!」」」」」
リリアナがそう言うと、観客が一気にヒートアップ。一瞬で観客を味方につけた。
「⋯⋯うまいですわね、リリアナ」
「はい、フロレンシアお姉様。あの子、煽りも一流ですわ。本当に敵に回すとやっかいな妹です」
そう言って、ゆったり微笑むフロレンシアと、さらに冷や汗が増し、引き攣った笑みを浮かべるマリアンヌ。
「⋯⋯ハルカラニ家。やはり、この辺の駆け引きは抜群だな」
「そうですね。ただ、リリアナさんがまさか『ハルカラニ家相伝魔法』を使えるとは思いませんでした」
レコがレイアに質問すると、レイア姫が苦い顔をしながら話し出す。
「⋯⋯リリアナは、可愛い見た目とは違って、とても計算高く、したたかで、容赦がない女だ。正直、リリアナと戦って勝てるかどうか⋯⋯わからない」
「レ、レイア姫様がそこまで⋯⋯!?」
「それだけ、ハルカラニ家の水と氷属性の特化魔法。そして、この相伝魔法『愛ノ奴隷』は強力だからな」
「⋯⋯たしかに」
そんなレイアとレコが話をしていると、
「おい、お前ら⋯⋯さっきから俺が横にいること気づいていないのか?」
「「あ! ガス・ジャガー(君)っ!!!!」」




