099「決勝トーナメント一回戦(9)」
「⋯⋯闇属性初級魔法『隠密』!」
モクモクモクモク⋯⋯。
舞台では、サラがドレイクの隙をついて正面に立ったところで『隠密』を展開。サラの体から『黒い霧』が広がっていき、サラを隠していく。サラの必勝パターンに入った。
ちなみに、この『隠密』はサラの姿が完全に隠れているように見えるのは対戦相手のドレイクだけであり、黒い霧が晴れれば観客からはサラの姿は視認できる。
「あの子に『隠密』が発動させたら、もう⋯⋯」
「うん、そうだね」
俺やレコ含め、誰もがサラの闇属性魔法『隠密』を展開した時点で、サラの姿を捉えきれなくなったドレイクの負けが確定したと思っていた。
「これで終わり⋯⋯にゃ!」
サラがドレイクの背後から近づき、両手で握り締めた拳を後頭部目がけて振り下ろす。一撃でドレイクを失神させるつもりで放った強烈な一撃。しかし、その攻撃が⋯⋯⋯⋯ドレイクに届くことはなかった。
ガシッ!
「にゃっ!?」
なんと、ドレイクはまるで見えているかのようにサラの一撃を完全に止めた。そして、
「これで決まりだ! 破拳・一ノ型『直烈破』っ!!!!」
ドゴッ!!!!
「か⋯⋯は⋯⋯っ!? な、なぜ⋯⋯どうやって、私の攻撃を躱し⋯⋯た⋯⋯」
サラもまた、ドレイクが躱すとは全く思っていなかった為、無防備な状態でドレイクの『破拳』をまともに食らい、そのまま膝から崩れ、倒れた。
「ワーン、ツー⋯⋯」
レフリーがカウントを取る中、ドレイクが口を開く。
「嘘っ!? ドレイク君は見えていたっていうの?!」
レコが驚きの声を上げる。それは他の皆も同じだった。
「おそらく、予測⋯⋯ドレイクの奴はある程度、攻撃を予測しつつ、さらに相手の気配や動きに集中してただけじゃないかな?」
「予測⋯⋯」
「うん。でも、かなりリスクはあったと思うけどね」
そう。ドレイクは決してサラの『隠密』が見えていたわけではなく、動きと気配に集中させつつ、攻撃が入る箇所を予測して防いだだけだった。
「でも⋯⋯」
「ん?」
「これでサラが立ち上がるようなら『隠密』はもっと慎重な使い方をするかと思う。そうなると、ドレイクはかなり不利だろうね」
実際、ドレイクはこの攻撃を必殺のつもりで放っていた。理由はこれで立たれると、これからのサラの闇属性魔法を絡めた攻撃を防ぐのは困難になるからだ。
「確かに、そうね。『隠密』を無効化したわけではないもの。でも、ドレイクの攻撃、破拳・一ノ型『直烈破』をあそこまでまともに食らったら立てないんじゃ⋯⋯」
「そうでもないようだよ」
「え?」
ぐぐぐ⋯⋯。
「⋯⋯ふぅ」
「立った! 立ったー! サラ選手、あのドレイク選手の強烈な破拳を食らって立ち上がったー! 信じられません!」
「「「「「ワァァァァァァァァーーー!!!!!」」」」」
サラはヨロヨロとしつつも、しっかりと踏ん張って立ち上がった。
「ちっ! 俺の破拳をまともに食らって立つか」
「フ⋯⋯なめんにゃよ、人間。あの程度の威力、私たち獣人には大したことないにゃ。にゃははは」
「⋯⋯化け物め」
「顔が青いぞ、人間?」
サラはズイズイとゆっくりとドレイクに迫る。ドレイクは冷や汗を滲ませながら後方へと下がる。
「どうやら、君、私の『隠密』を見破っていたわけではないようだね」
「さあ、どうかな」
「別にいいよ、答えなくても。ちょっと私も油断しすぎていたにゃ。反省しているにゃ。だから⋯⋯」
そう言って、サラがドレイクへと迫っていた歩みを止める。
「闇属性⋯⋯中級魔法⋯⋯」
「っ!? 今、『闇属性中級魔法』と⋯⋯まさかっ!?」
レコがサラの言葉に反応する。
「闇属性中級魔法『森羅迷彩』!」
「何っ!?」
「え⋯⋯っ!?」
「「「「「き、ききき、消えたぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」」」」」
突如、サラの体が周囲に溶け込むように⋯⋯⋯⋯完全に消えた。それは対象者のドレイクだけでなく、周囲も含めて完全に姿が消えていた。
「フ⋯⋯まったく。闇属性の下級魔法でさえ対処に困るというのに、中級魔法も使えるなど⋯⋯もはや手に負えんな」
「これで⋯⋯終わりにゃ」
トン。
「か⋯⋯っ!?」
ドサ。
サラは姿を消した状態で、ドレイクのうなじ部分に手刀を当て、意識を刈り取った。
「勝負あり! サラ・ウィンバード選手の勝利っ!!!!」
「「「「「ワァァァァァァァーーーーーー!!!!!!!」」」」」
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「か、完全に消えていたよ、カイト?」
「ええ、そのようですね」
「何よあれー! 信じらんない! インチキー!!!!」
レコが俺の首襟をつかまえてガックンガックン振り回しながら、金切り声を出す。
「レ、レコ⋯⋯ギブ、ギブ。俺、次、試合ある⋯⋯か⋯⋯ら」
「あ、ごめん、カイト」
レコが珍しく俺をすぐに解放してくれた。
「そりゃー、次に試合があるならこれくらい当然よ」
いや、どうせなら通常からこのくらいすぐに解放して欲しいものである。
「じゃ、いってきます」
「はい、いってらっしゃい」
そう言うと、カイトはいつも通りのテンションで舞台裏へと向かっていった。
——いよいよ、カイトの試合が始まる。




