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星の見守り人  作者: 井伊 澄洲
第一章 星間探査編
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018 見えない侵入者

 しかしスラスキーとエイトを捕らえた直後、戦闘隊長のジュンが私に報告をしてきた。


「船長代理!」

「なんだい?」

「まだ警戒態勢を解かないでください。

実はスラスキーが侵入して来た時に不思議な事がありました。

現場に向かう時に走っていた私に何か見えない物が接触した形跡があります」

「すると既に本船に侵入者がいる可能性があるという事かね?」

「そうです。その時はわかりませんでしたが、今考えてみると・・・」

「光線歪曲装置を使っていたかも知れないという事か?」

「そうです」

「ではスラスキー以外にまだ本船に侵入者がいる可能性があると?」

「そうです」

「なるほどね、しかし困ったな。

あの歪曲装置は特殊だ。

普通の物だったら、赤外線探知機や金属探知機を使えば存在を確認できるが、あれはスラスキーの特製らしく、大抵の探知機には引っかからない。

実際に接触してみるしかないらしいな」


私が考え込むとミオが助言をしてくる。


「ドクタースラスキーに聞いてみてはいかがでしょう?」

「そうだな。

それが良さそうだ。

その前にこのまま全ての階層の遮断をしておこう。

そうすれば例え侵入者がいても、他の甲板へは行けまい。

それと各区域も閉鎖のままだ」

「賛成です」


さしあたり侵入者を現状位置からさほど動けないように処置をすると、私はドクタースラスキーを呼び出した。

拘留区画の面会室で対応したスラスキーは、画面越しの私の質問に素直に応じた。


「ドクタースラスキー、あなたに聞きたい事があります。

 本船にあなた以外に侵入者がいますか?」

「正直に言おう。

聞かれなければこちらから言い出すつもりは無かったが、聞かれた以上はわしは知っている事を話す」

「それで?」

「わしはギムナールの要請を受けてエイトと一緒にギムナールの救出に向かった。

その時確かにギリアムも一緒にいた。

しかしわしがお前さんたちと戦っている間、奴がどうしたのかは知らない」

「ギリアムというのは何者ですか?」

「ギムナールの手下の一人じゃよ。

それも優秀な奴で、息子みたいなもんじゃ」

「彼はあなたと同じ光線歪曲装置を持っていますか?」

「ああ、もっとる」

「では彼が当船に侵入したとしてその目的は?」

「それは無論、ギムナールとその一党の奪還じゃろうな」

「あなたがそれを止める事はできませんか?」

「無駄じゃな、わしもわしとエイトの保身のためにそうしたいとこじゃが、仮にわしが

呼びかけたとしても奴は聞かんじゃろう」

「なるほど」

「彼はどういった方法で仲間、ギムナールたちを助けると思いますか?」

「そうさな、基本的にはわしと同じ方法をとるじゃろう」

「同じ方法?」

「お前さんを人質にしてこの船を乗っ取る事じゃよ。

何しろこの船を手に入れる事が出来れば失った船を補って余りあるからな」

「確かにそうですね」


このコランダム777は最新型の深宇宙探査船だ。

しかも武装は駆逐艦以上で、銀河辺境ならば、まず敵はいない。

この船を奪取すれば宇宙海賊にとってはこの上ない戦果だろう。

しかしもちろんそんな事をさせる訳にはいかない。


「さて、どうするかな・・・

目にも見えず、あらゆる探知機にも引っかからない相手か・・・

こりゃ困ったね」

「確かに実際に接触してみなければわからないというのは問題ですね」


ミオも私の言葉にうなずく。


「仕方がない。

時間は少々かかるかも知れないが、もっとも確実な方法で行こう」

「と言うと?」

「相手が人間である以上、食料と水は消費するだろうし、風呂はともかく、トイレには行かなければならないだろう。

潜入して数日は私を狙う目的なのだから食料は多少持ち込んでいるだろうが、水はそれほどは持ち込めまい。

それにトイレに行かない訳にはいかない。

野生の動物じゃないんだから、そこら辺で撒き散らしたらたちまち居場所がばれてしまうからね。

こっそりとどこかのトイレを使うはずだ。

探知装置には引っかからないかも知れないが、艦内の水の流れは把握できる。

悪いが亜人の諸君はしばらく水の使用は禁止だ。

それで侵入者がどこにいるか場所を特定する」

「確かにその方法が一番確実そうです」


亜人たちもアンドロイドとはいえ、多少の水は消耗するし、トイレにも行く必要がある。

体が汚れるので風呂にも入るし、洗濯もする。

しかし数日程度ならば、水なしでも何とかなる。

だが人間は、そういう訳には行かない。


「副長、聞いての通りだ。

しばらくの間は我々は居住区画から動かない。

私の部屋以外で、どこかで水を使った形跡があったら、その区画周辺をせばめていってくれ」

「承知しました」


こうして2日ほどで区画は完全に限定された。

そこでその区画に私は一斉放送する。


「私はこの船の最高指揮官で船長代理の如月だ。

もちろんこの区画には誰もいないと思うが、これからこの区画には致死性の毒ガスを流す!

もしこの区画に誰かがいるのであれば、直ちにこちらへ連絡するように!

何も連絡が無ければ5分後に毒ガスを流す事にする!

以上だ!」


この放送を流した直後に、その区画に突然人の姿が現れる。

ただちにコンピューターがその人物を拡大して俺の画面へと映す。


「降参だ!

俺の名はギリアム、親父のギムナールを助けに来た」

「親父というと、君はギムナール・イヴァンの息子なのか?」

「そこんところは俺も知らん、聞いたことも無いしな」

「ふむ」

「まあ、それでも一応あれは親代わりだ。

スラスキーのおじきと共に救出にこようと思ったが、この様よ」


そう言ってギリアムは画面の中で手を上げる。


「それで?どうするつもりだ?」

「今言った通り、降参する。

あんたには敵いそうにないやな」

「本気かね?」

「ああ、本気さ」

「さて、どこまで信用できるかな?」

「信用して欲しいね」

「ではまずは君の身柄を拘束する事にする。

これより警備班をそちらに向かわせるからおとなしくしたまえ」

「わかった」


これ以上逆らっても意味がない事を理解して、ギリアムはあっさりと捕まった。

こうしてギリアムはコランダム777に捕われの身となった。

しかし、エダジマ副長補佐が彼を調べた結果を、ミオが私に報告をしてきて驚いた。


「困りました、船長代理」

「何がだい?」

「困ったのはギリアムの扱いです」

「彼がどうしたんだい?」

「彼の罪をどうするかです」


ミオの言葉に私は驚いた。


「どうするかって・・・海賊行為じゃないのかい?」

「彼は海賊一味とは一緒に行動はしていませんし、海賊行為もしていません。

彼がした事は本船への不法侵入だけです」

「え?」


私はそのミオの言葉に驚くが、ミオは話を続ける。


「しかも穴を開けたのはスラスキーであって、彼自身はこの船を損傷もしていませんし、誰とも戦っていません。

ただ無断で本船に侵入して潜伏していただけです。

これだけなら単なる密航者です。

もちろん密航は密航で罪は重いですが」

「そういわれてみれば、そうか・・・」


確かにミオの言う通りで、ギリアムはこの船で密航以外は何もしていない。

現状では他の罪は問えそうにない。


「しかも記録によれば、彼は銀河連邦市民ではありません。

いえ、それどころか、どこの国家の国民でもないのです」

「なんだって?すると彼は・・・」

「ええ、お察しの通り、彼は未届民です」

「そうか」


未届民というのは、生まれた時に役所に届けられず、それに伴い、戸籍がどこにも存在しない人間である。

本来は生んだ親が届けなければならない訳であるが、このような場合、親が罪を問われ、子供に戸籍を与えられる。

しかしそれは一般社会の場合であって、海賊の仲間内で生まれた子供の場合、まったく一般社会に出る事無く、そのまま海賊社会で成人してしまう場合がある。

ギリアムの場合がまさにこれであった。

彼の推定年令は20代後半であると思われるが、正確な誕生日や年令はわからず、義務教育も受けていない。

このような場合、大幅に罪は引かれ、その代わりに銀河連邦の教育施設に入れられる場合が多い。


「仕方がない。

彼は乙中型拘留区画で独房にいれて、しばらく標準教育をする事にしよう。

それ以上の措置は母船に戻ってからだ」

「承知いたしました」


乙中型拘留区画というのは3階建ての独立区画で、そこには居室だけではなく、食堂、中型浴場、遊戯室などもあり、その区画内では自由に行動する事が可能な場所だ。

贅沢を言わなければ、かなり楽に暮らす事が出来る。

ギリアムはこの探査中はそこで暮らす事になり、探査母船に帰り次第、身柄を当局へ引き渡されて、今後を検討される事となった。



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