017 ドクタースラスキー
ミオとドクタースラスキーが対峙する。
その首についているB級の認識証をみてスラスキーがつぶやく。
「B級亜人か・・君は何者かね?」
「この探査船の船長代理の副官、如月ミオです」
「なるほど、B級亜人か、ふむ・・・君も中々基本設定が良い、
君を設定した船長代理とやらと私は話しが合いそうだよ」
「さあ?それはどうかしら?」
「それとおそらく君の構造設計をしたのはしじまじゃないかね?」
「ええ、確かにしじま博士は私の生みの親ですよ」
「そうか、それは奇遇だな。
彼と私は言うなれば長年のライバルでね」
「・・・・」
「同じB級なら私のエイト相手に勝てると思っているのかね?」
「ええ」
「では、試してみよう。エイト!」
スラスキーが命令するが早いか、サッと飛び出すエイト。
たちまち人間の目には追いきれないほどの速度でB級亜人同士の戦いが展開される。
お互いに金髪をなびかせてコンマ1秒の世界で戦うミオとエイト。
「なかなかやるようだね、しかし汎用的なB級亜人と戦闘に特化したB級亜人・・・
どちらが勝つと思うね?」
しかし、しばらくミオの動きを見ていたスラスキーが唸る。
「これは・・・君は汎用B級亜人ではないな?」
その瞬間、ミオがエイトの足を取り、ゴキッ!と鈍い音を立ててその足を折る。
ゴロゴロと転がり停止をした後に片足でゆっくりと立つエイト。
その動きは鈍く、例え格闘が可能だとしても、もはやミオと互角に戦えないのは明白だった。
「なにっ?」
驚くスラスキー。
「・・・どうやら勝負はあった様子ね」
ミオのその言葉に不本意ながらもそれを認めるスラスキー。
「ああ・・極めて驚くべき結果に終わったが、確かにそのようだ」
「それで?どうなさるおつもりですか?」
「潔く負けを認めてここは一旦引き下がるとしよう」
「逃げられると思っているのですか?」
「もちろんだよ」
そう言って腰の辺りのスイッチを押すと、次第に透明になって見えなくなっていくスラスキー
「え?」
「何?」
「これは・・・」
驚く亜人たち。
それをモニターで見ていた私が即座に命令する。
「ミオ!敵の進入口の中に立ちふさがれ!急げ!」
命令されて脱兎のごとく走ると、進入口をふさぐミオ。
「いいか?誰かが君の間をかいくぐって行こうとしたら必ず捕まえろ!」
「了解しました!」
「副長!侵入者は個人用の光線歪曲装置を持っていると推察される。
これから捕獲指示をするので、絶対に隔壁を空けないように」
「了解しました」
そのまま現場に説明を続ける私。
「現場の諸君、ドクタースラスキーとやらは光線歪曲装置を使用してこの空間に潜んでいると思われる。
どうやらこの装置は可視光線だけでなく赤外線や電磁波全般に有効なようだ。
したがって視覚的探索や光学探査では発見は不可能と推測される。
一番手っ取り早い方法は諸君らがこの区域内を不規則に移動、何かに接触したらそれを逃がすな」
「了解!」
命令と同時に無事な亜人たちが手を一杯に広げてウロウロとし始める。
モニターから見ると異様な光景でもあり、どこか間の抜けた光景でもあった。
「あっ!何かに当たった!」
叫ぶと同時にそれを捕まえるあやね。
「そこまでだ、ドクタースラスキー!
白兵戦用亜人相手に下手に暴れるとどうなるかはよくご存知でしょう?」
そう言われるとおとなしくなりスッと姿を現すドクタースラスキー。
その横にはエイトもいる。
「まいった、完敗じゃ」
おとなしく降参するスラスキーに私が疑問を投げかける。
「2つお聞きしたい事がある、ドクタースラスキー」
「君は誰だね?」
廊下のスピーカーから聞こえてくる声にスラスキーが質問をする。
「この船の最高指揮官で、船長代理の如月星です」
「そうか、あの副官の基本設定をした人間かね?」
「そうです」
「質問は何だね?」
「どうやらウチの戦闘員達は行動の自由を奪われただけで、全員修理可能なようですが、なぜウチの戦闘員達を完全に破壊させなかったのです? 」
「彼女達を後で調べて見たかったのが一つ、後はまあ私は亜人が好きだからな。
例え敵とはいえ、完全破壊させるのは忍びない」
「なるほど、ではもう一つの質問、なぜその亜人…エイトを放って逃げなかったのですか?
一人なら身軽に逃げられたかも知れないのに?」
「娘を見捨てて逃げる親もなかろう、こいつはわしの最高傑作で娘みたいなもんじゃ」
「なるほど、確かにあなたと私は多少話が合うかもしれないな」
「そうじゃろうて、いずれお前さんとはゆっくり話してみたいもんじゃ」
不敵にニヤリと笑うスラスキー。
「まあ、それはともかく、あなたにはしばらく不自由な身で頂く事になりますよ」
「こうなった以上、それも仕方がなかろう。
わしの考えが甘かったのだからな。
おとなしく従おう。
だが、一つだけ聞きたい事と、一つお願いがある」
「何ですか?」
「エイトの処分はどうなる?」
「わからないな・・・副長?」
私の質問に艦橋で困惑したように副長も答える。
「そもそもこのような例は亜人法制定以来、前例がありません。
行動理念に何の規制もないロボットならともかく、亜人は連邦体制側に対して攻撃を加えるという事は本来ありえません。
首に認識証をつけていなかった事といい、ドクタースラスキーは余程特殊な独自のプログラムを施したとみえます。しかし…」
「しかし?」
「前例はありませんが、認識証をつけておらず、ましてや、その亜人が連邦側を攻撃した以上、その亜人は間違いなく即解体処分でしょう」
「やはりそうか・・・」
副長の答えを聞いてガックリとするドクタースラスキー。
「お願いというのはそこじゃよ、船長代理殿」
「彼女の解体を防いでくれ、という事ですね?」
その私の言葉にうなずきながら答えるスラスキー。
「さすが話が早いのう、やはりお前さんとは一回じっくり話し合ってみたいことじゃて」
「保証は出来かねますが、私の権限が及ぶ限りは保護する事は約束しましょう。
ただしそれには・・・」
言わずもがなの事をスラスキーも察して全てを私が言う前に言葉を引き取る。
「わかっておるて、わしはおとなしくするし、この娘にもあんたの命令はよく聞くように言っておくとも」
「まあ、そういう事です」
こうしてドクタースラスキーとエイトもコランダム777の虜囚となったのだった。