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星の見守り人  作者: 井伊 澄洲
第一章 星間探査編
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013 イワシタ氏との別れ

 「実はですね、その・・・ハルナ隊員を私に譲る、いえ、長期間に渡ってお貸ししていただきたいのですが・・・」

「つまりそちらの乗組員として借用したいと?」

「ずうずうしいことは百も承知ですが、お願いです!

ハルナ隊員を私に貸してください!」


そう言った直後にガバッ!と私に対して頭を下げるイワシタ。

(やはり来たか・・・)

という感じで私は考えた。

それは私の予想通りの要求だった。

イワシタから見れば、この船はオアシス、いや理想郷も同然だった。

イワシタ本人も似たような事を言っていたが、イワシタの船とこの船は実質的な目的は同じなのだ。

ただその基本性能と探査機器の充実度、生活環境の完成度が比較にならないほど違う、ただそれだけだった。

しかしその「ただそれだけ」が問題だった。

しかも人間が生きていく上で、最も重要で肝心な生活環境に到っては、特に天と地ほどの差がある。

それはまさに木っ端で出来たあばら屋と高級ホテルほどの差と言っても過言ではないほどだろう。

今まで孤独に耐え、自ら望んでしていた事とは言え、劣悪な環境で宇宙の深遠を一人で探険していたのだ。

それが亜人とは言え、美女に囲まれた、言わばリゾートホテルのような場所に、3週間近くもいたのである。

彼から見れば、毎日の贅沢な食事、広く極上な居住区、夢見るような高性能な探査機器の数々・・・これからの事を考え、元の生活に戻るのは耐え切れなくなるのは想像に難くない。

実を言えば、私が彼に過剰な贅沢とも言える生活をさせていたのも、そうすれば彼が普通の生活に戻り、探検をあきらめるのではないか?という目論見もわずかながらあったからだった。

しかし彼はあきらめなかった。

そしてもし彼が悪人で短慮な者ならば、この船の乗っ取り計画を立てたとしても不思議ではなかったろう。

またいやいや宇宙探検をしていたのならば、この機会にキッパリとやめてしまっていた事だろう。


「バウンティ号の反乱」という話がある。

バウンティ号は18世紀のイギリスの船でタヒチ近辺で物資調達をしていた船だ。

その船は半年近くもタヒチ島に逗留した後に出発した。

そして出発後、1ヶ月もしないうちに反乱が起こった。

過酷な軍船での生活はタヒチの楽園のような生活に慣れきってしまった人々には堪えられなかったのだ。

反乱者たちはバウンティ号を乗っ取り、タヒチ近くの島、ピトケアン島に逃げて、そこで生活を始めた。

ちなみに20年ほど後に、イギリス軍がその島を発見した時には、一人を除き、他の船員たちは、同士討ち、原住民との戦い、病気等で全て死亡していた。


そしてイワシタ氏の船とこのコランダム777は、まさにバウンティ号とタヒチ島ほどの差があった。

私はこれほどの差を見たらイワシタ氏が自分のオンボロ船で探査をするのをあきらめて、文明圏に帰りたがるのではないかと考えて、わざと優遇したのだった。

それほどイワシタ氏の船と私の探査船の差は大きい物だった。


そしてその中でも今後特に問題なのは女性である。

探査機器はほぼ新品になり、エンジンと食料という最も現実的な問題を解決した以上、次に問題になるのは情緒的な問題になるのは分かりきっていた。

私も同じ男として、そしてある意味、同じ「探険家」として、その気持ちはよくわかるつもりだった。

イワシタ氏は私より年長とはいえ、まだ30代で若い。

文明社会に戻って普通の暮らしに戻れと言うのは簡単だろう。

しかしすでに人生の半分以上も宇宙暮らしを続けた男にそれを告げるのは酷だった。

そしてこの男は優秀な観測者だった。

この男から譲られた数十年にわたる観測データは貴重な物だった。

連邦が行う探査もいい加減ではなかったが、時間の兼ね合いもあり、最低限の探査にせざるをえなかった。

しかしこの男の一族の数十年に渡る探査は綿密で、その細かさは副隊長のリンディも驚いたほどであった。

その今までの成果、そしてこれから行うであろう観測は、亜人を一人、補佐としてつけるに十分な理由であり、報酬であろうと私は考えていた。


「一応、御説明しておきますが、イワシタさん、あなたの年齢と能力なら、今からでも私と同じ、天文探査官になるのに何も問題はないですよ?」


その私の説明にイワシタはうなずきながら答える。


「その事はハルナ隊員にも言われて、実はこの数日間、真剣に考えました。

しかしそうすれば、これから4年以上はかかる上に、その後も自分の好きな場所を探険するという訳にはいかないのでしょう?」

「もちろん、それはそうですが・・・」


もし、そうしたいのであれば、少なくともこれから20年以上に渡って探査官を勤めて給料を貯蓄し、自前による本格的な探検に備えなければならないだろう。

その頃はイワシタはゆうに60は越えてしまっているだろう。

過去の例を見ても50歳を過ぎてから徒歩で日本地図を作成した伊能忠敬や、トロイ遺跡を発掘したシュリーマンなど、そういう人物がいないでもないが、それを一般的に当てはめるのは私も酷だと考えて、強く勧める気にはなれなかった。


「馬鹿と言われても仕方がないと思いますが、やはり私は今の探険を続けたい・・・

いえ、おそらく私は本当に馬鹿だと思います。

無茶な要求なのは承知の上ですが、ハルナ隊員を貸していただく訳にはいかないでしょうか?」

「貸したり、差し上げるというのは出来ませんが…どうだろう、ミオ?」

「はい、この探査隊は隊長代理の権限でC級亜人、及びロボットは任意に駐留させる事が可能です。

実際、探査した恒星系の観測所にC級亜人を配備していっている訳ですからね。

ですから供与したり、貸し出すという形では出来ませんが、連絡員という形でしたら可能かと思います。

ただしイワシタさんには今後も軍からの委託探査をしていただくという事で契約軍属になっていただかなければなりませんが・・・」

「それで構いません」


ミオの提案に即答するイワシタ。


「実はもう一つ問題があります。

C級亜人には準人権が適用されますので、本人の同意なくしてこういった所属の変更は認められないのですよ」

「え・・・?」


その私の言葉にあからさまに顔が曇るイワシタ。


「で、どうなんだい?

ハルナ隊員?」

「え?私ですか?

私は別に問題ないですが・・・」


その言葉にホッとするイワシタ。


無事に宇宙船の大改造も終わり、ハルナ隊員も連絡員として移乗して、いよいよイワシタが新たなる宇宙船で旅立つ時が来た。

イワシタ氏とハルナ隊員を送る小型連絡艇に別れを告げるために、私やミオ、技師長達も格納庫へやってくる。

集まった面々にイワシタが最後の礼と挨拶を述べる。


「それでは本当にお世話になりました。

もしお礼が出来ればいつか」

「気になさらないでください。

それよりもこれからの道中、気をつけて」

「はい、ではまたいつの日にか」

「ええ、それではお元気で」


イワシタがハルナと共に連絡艇に乗り込むと全員が格納庫から去り、艦橋に戻って様子を確認する。

映像盤を見ていると、やがてイワシタの探険船が加速を始める。

それは次第に速度を上げてワープに入る。

ワープを確認した船務長が報告をする。


「イワシタ船、ワープ完了、問題ありません」


その報告に私もホッと一安心して指示を出す。


「それでは我々も次の目的地に向けてワープだ」

「はい、次の探査予定ガレノス恒星系に向けてワープします」

「ワープ開始」

「ワープ開始」


こうして私たちは漂流者のイワシタ氏を救出し、次の探査恒星系へ向かったのだった。



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