6.負けたぁ~
6.負けたぁ〜
「ただいまー」
「おう、やっと帰ったか姚子」
「き、侠兎」
学校が終わって家に帰ると、リビングのソファーに侠兎が寝転がってリラックスしていた。
「なんで私ん家にいるのよ」
(しかも、思いっきりまったり気分で)
「なんでって、買い物行くんだろ、一緒に」
「そうだけど、わざわざ来なくっても自分ん家で待ってればいいじゃない、隣り
なんだし」
侠兎は、姚子の文句など生返事で返し、台所にいる母の方に向かって声を上げた。
「いいじゃん、気にすんな。
ナエちゃぁん、おやつまだぁ?」
「ナエちゃん!?」
「だって、おみゃあの母ちゃん早苗だろ、だからナエちゃんだ」
(昨日の今日でもう馴染んじゃってる・・・、んもう、お母さん人善過ぎだよ)
「勝手に名付けないでよ」
「おみゃあん家にいれば食い物に困らにゃあもん。
それに、こっちにいる方が気分がいい。
インドラの野郎は血の気が多いからな・・、奴の気に癒やし効果があるとは知
らなんだ」
「インド?」
「帝釈天の事だよ。
ただの豪傑ヒゲ親父だと思ってたのにな」
(それでこんなにのんびりしてるのか、他人ん家なのに。
どんだけ図太い神経してんのよ、こいつ)
「それで、その服で買い物行く気なの?」
その時侠兎が着ていた衣装は、去年姚子が気分というかその場のノリで買ってしまい、一度は袖を通してみたものの、ちょっと幼いデザインが自分には似合わないと思って恥ずかしくなり、以来ずっとクローゼットの奧にしまっていたワンピースだった。
それが、侠兎が着ると驚くほど似合っている。
見ていると色々な感情が芽生えてきて、ちょっと複雑な心境に陥る。
(ハァ・・、やっぱり着る人が着ると可愛いんだ・・・・、男だけど)
そんな姚子の考えは、当の侠兎には全く知る由もない。
「文句あっか?」
「別にないけど、そういう服の時は寝転がらないでちゃんと座ってよ。
スカートの皺とか気にしなきゃダメでしょ」
「そんなのいちいち気にしてられっか。
じゃあ、このパンケーキとかいうのを食ったら出かけるぞ。
ナエちゃん、今夜のおかずは唐揚げがいいな」
「あんたが決めるな。
んもう、なんでマイホーム気分で寛いでんのよ。
それに買い物行くのにお金はどうすんの?、持ってるはずないよね」
「松子から“くれじっとかぁど”という物を渡された。
姚子に預けるように言われてたよ、自由に使っていいってさ」
こうして買い物に出かけた二人。
他人の下着を買う為の外出など、姚子にとっても初体験だ。
ただ、地元の商店街には若い人向けの選択肢が少ないので、隣町まで出向かなければならない。
単純に下着を買うだけならディスカウントショップやネットショッピングでも十分に事足りるだろうが、侠兎の場合ブラジャーのサイズが分からないから、一度は専門店できちんと計測しておくべきだと考えた。
見たところ、けっこうな大きさはありそうなので、いつまでもノーブラでタンクトップはまずいだろう。
道すがら、姚子は以前から気になっていた事を侠兎に尋ねた。
「毎日何やってんの?、ブラブラしてるだけ?」
「人聞きの悪い事言うな。
ちゃんと松子に言われた通り引っ越しの片付けやってるよ・・・・、時々」
「なるほど、ほとんど私ん家でゴロゴロしてるだけか。
そういえば、ウチのお母さんに兄妹って言ったの?、そういう設定?」
「松子の奴が勝手に決めたんだ。
親戚って言ったはずなんだが、ナエちゃん勘違いしたっぽいな。
苗字違うのに気付かなかったのか」
「なんて言うの?」
「俺はシロイ」
「俺って言わない、女子でしょ。
自分の事を俺って言うのはNGだよ、絶対」
「知らん、細かい事は気にすんな。
俺はシロイ、皎侠兎だ。
で、松子が墨松子郎だってさ」
女の子が一人称で「俺」を使う事に違和感を覚えるのは、姚子だけではあるまい。
ただ、侠兎の場合、それが不自然に聞こえないから不思議だ。
(まあ、頭の中身は男だし、世間的にはボクっ娘もいるくらいだから、
それはそれでありなのかな)
「今日はその墨さんはいないの?」
「知らにゃあよ、あんな奴。
朝から出かけたっきりだ」
「ふーん・・・」
「なんだおみゃあ、あいつに惚れたの?」
「そ、そんなことないよ」
「ハハ、やめとけやめとけ、あいつに関わるとロクな事にならんぞ」
「なんでよ、いい人っぽいのに」
「いい人な訳あるか。
奴がなんで地上を専門に活動してるのか考えてみろ。
それだけで、どんだけ胡散臭い奴かが分かろうってもんさ」
「分かんない」
「要するに、天界には住めにゃあ事情があるって事だ」
「事情ってなに?」
「俺が知るか、奴に聞け。
どうせ教えてもらえにゃあだろうけどな」
「要するにあんたの想像って事でしょ」
「想像ではあるが確度は高いぞ、奴は絶対何かを隠してる。
自分の事はほとんど話したがらんからな」
(ふーん・・・、そうなのかな?)
「ところで、あんた歳は幾つなの?」
「知るか。
俺を人と同じ尺度で量るな」
「もしかして何百歳とか?」
「さあな、そう思いたいんなら思っとけ。
人間はなんでもかんでも数値化して優劣を決めたがるから困るんだって」
(う〜ん、どう見てもお年寄りには見えない・・・、お肌ツルツル)
「じゃあ、なんで道路に寝転がってたのよ、最初に会った時。
あ、そういえばお礼言うの忘れてたね。
あの時はありがとう、おかげで助かったわ」
「いつだっけ?
どうせ寝場所探して疲れたんだろ、毎度毎度の事だったからな」
「ずっとホームレスだったの?」
「地上に落とされてから何日かは地元の爺さん所にいたけど、その後はずっとな」
「一人で?」
「基本そうだろ」
「ずっと?」
「まあな」
「寂しくなかったの?」
「別に」
「なんで?、話し相手とかいなかったんでしょ?」
「おみゃあは話し相手がいにゃあと寂しいのか?」
「そりゃそうでしょ、普通・・」
「そうか?、そんなの考えた事もなかったな」
(何か変だよ、普通じゃない)
「ご両親はどうしてるの?」
「さあな、俺は知らん。
物心ついた頃には南極のじじいと一緒だったし、そこも子供の時に飛び出しち
まったからな、顔も名前も知らん。
じじいが生みの親ではないらしいから、どこで何をしてるんだか」
「もしかして、複雑な家庭環境とか」
「有り得るかもな」
「ごめん、気分悪くした?」
「別になんもにゃあよ。
気にした事もにゃあし、考えて結論が出る話でもにゃあだろ」
知らない土地でずっと一人で野宿生活してたなんて、どんなにか孤独だったのだろうと同情してあげたくなっていたのに、当の本人がこんな脳天気ではその気も萎える。
「天界の人ってみんなそうなの?」
「知るか、俺は俺だ。
他の奴等が何考えてるかなんて知らんし、知りたくもにゃあ」
「ふーん・・」
(変なの、神様の類似品のくせに)
「帰りたい?」
「当然だ、出来るならすぐにでも帰ってベン子に復讐してやりたいさ。
でも、この格好のままじゃ帰れにゃあし、顔見知りには会いたくにゃあし・・。
だから暫くはこっちでいいや。
唐揚げうみゃあし、おみゃあを性奴隷にする目的も果たさんといかんしな」
(それは果たさんでいい)
「でも信じらんないなぁ未だに、神様がいるなんて」
「いい加減信じろよ」
「だってさ・・・」
「どうせ、目の前にいたっておみゃあにゃ見えんけどな」
「なんで?」
「だっておみゃあただの人だもんよ」
「修行とかしなきゃダメなの?、座禅とか断食とかお経読んだりとか」
「そういうのは、やりたい奴だけやればいい。
要は精神を鍛えて研ぎ澄ませばいいだけなのさ。
そうすりゃそのうち見える。
それが人にとってどのくらい苛酷なのかは知らんけど」
「えー?、じゃなんであんたや墨さんは普通に見えてるのよ」
「俺は神じゃにゃあって言っただろ。
それに、今の俺は力を封じられてるんでね、人の視界から消える事も出来ん」
「ふーん、そうなのか」
「でも、神なんか見えたって別になんもにゃあぞ。
人はすぐご利益とか言ってありがたがるらしいが、そんなもの一欠片もありゃ
せん」
「なんで?」
姚子の素朴な疑問は、侠兎に人間の業に似た何かを感じ取らせた。
「いいか、ひとつだけいい事教えてやるよ。
神ってのは人を幸福にはしにゃあよ。
人に自由と金と快楽を与えて幸福感に浸らせてくれるのは悪魔の仕事なんだ」
「なんで?、神様は人を救ってくれるんじゃないの?」
「人に試練を与え、苦痛と悲しみを与えやがるんだ。
で、それにも屈せず腐らず地道に信仰してた奴だけが救われるんだ、死後に。
救うって言っても、特別いい事がある訳じゃにゃあ。
魂が悪魔に利用されにゃあように保護されるって程度だから」
「助けてくれないの?」
「神は人は救わにゃあ。
いや、正確には生きている人は救わにゃあ。
いちいち人の頼み事聞いてたら忙しくってかなわんだろ」
「神頼みって無意味って事?」
「無意味でもにゃあさ。
神にとっては人間の信仰心が栄養源みたいなもんだからな。
拝んでれば、いつかはいい事あるかもよ」
「それが神の奇跡ってやつ?」
「人間ってのはおかしな事言うよな。
神は奇跡なんか起こさんぞ。
気紛れは起こすけどな」
「気紛れなの?」
「神なんて適当なもんだ。
たぶん、おみゃあ等人間が奇跡だと言ってるものの中に、神が関わったケース
はほとんどにゃあよ。
あいつ等は約束を破る事には厳しい上にお人好しじゃにゃあ。
破ったら罰せられ、でも守っても褒美なんかにゃあぞ。
当たり前、みたいな顔でしれーっとしてるだけさ。
そんな奴が人を救うか?」
「・・・その言い方って、なんかつまんないね」
「当たり前だ、おみゃあの人生を面白おかしくする為に生きてる奴なんてどこに
いる」
「だったらさ、神様は何の為にいるのよ」
「ならおみゃあに同じ質問をしてやるよ、人間は何の為に生きてるんだ?」
「え?、そ、それは、えーっと・・・」
(えー?、難しい事聞くなぁ・・・、分かんないよ)
姚子が軽はずみでした質問は、その対象を人間に置き換えるだけで途端に哲学的難題になる。
子孫を残し遺伝情報を継承するという生物学的生存本能は、全ての動植物が一様に持つものであり、その問いに対する回答としては適切ではない。
口元を捻りながら悩む姚子を見て、侠兎は鼻で笑った。
「フン、答えられんだろ。
人間なんて、いようがいまいがどっちでもいいんだよ。
地球上の他の生物にしてみれば何の影響もにゃあ、むしろ邪魔なだけの存在な
んだ。
中にはその人間を上手い事利用して生きてるヤツもいるけど、仮に人間が絶滅
してもそいつ等は何も困らん。
同じ事だ。
神なんて、有って無きがようなもの。
ぶっちゃけ、おみゃあ等の生活にはなんも関係にゃあのさ。
まあ、人間が絶滅したら神も多少は困るんだろうけどな」
姚子は、特に宗教に興味もないし、当然熱心な信仰心がある訳でもない。
そういう意味では、侠兎の言葉はそれほど重大な衝撃を持って受け留めるほどの事でもないのかも知れないが、どこか釈然としないものを感じるのは、ほぼ全ての日本人には、生活のそこここで目には見えぬ神的なものに祈り願う習慣が自然と身に付いているからだ。
初詣、七五三、合格祈願、安産祈願といった具体的な参拝行動を伴うものは言うに及ばず、節分、雛祭、端午、七夕、彼岸、十五夜といった季節毎の節句や年中行事に始まり、魔除けや豊凶の占いのような避禍招福の儀式、冠婚葬祭の日柄、土地等の方位、果ては礼儀作法や験担ぎに至るまで、人それぞれ意識するしないに関わらず、古来より日常生活のありとあらゆる場面に脈々と息づき伝承され続けていて、およそ縁起がいいとか悪いとかの修飾語が付く行為や物品には、おしなべてそこに名も知らぬ神の存在に対する尊崇と畏怖の心情が込められている。
それが、神々の本心を知る事で根底から全て瓦解し灰燼に帰してしまうのだ。
さすがに、それでは日本人の持つ独特の精神世界が維持出来なくなる。
さすればこの世はカオスだ。
それでいいのだろうか・・・。
そんな不安な気持ちになった。
ただ、これはあくまで侠兎個人のひねくれた意見でもある。
彼女(彼)がそう思っているだけであって、本当の神々が何を考えどうしようとしているのかは知る術もない。
「神様って一人じゃないの?、何人いるの?」
「知らにゃあよ。
名簿があるでもなし、背中に番号付けて歩いてる訳じゃにゃあんだぞ。
それに、神の事は人じゃなくて柱って数えるんだって、松子が言ってたぞ」
「柱?」
「それが神の単位なんだとよ」
「神様がいるって事は、悪魔もいるの?」
「そりゃいるさ。
しかも山ほどな」
「ホントに?」
「神がおみゃあ等の世界に降りてくる事はほとんどにゃあが、悪魔なら普通に
そこらにいるぞ。
あいつ等は神と違って人に寄り添って生きてるからな。
人に寄生し、人の生体エネルギー、精神力や血肉を食らって生きるんだ」
「見えるの?」
「奴等だってバカじゃにゃあ、そうそう姿は現さんさ」
「えー、いやだなそれは。
困るなぁ」
「おみゃあが困ってどうする」
「だって、悪さするんでしょ?」
「変な欲をかくからつけ込まれるんだ。
命を取られたくなかったら無欲でいればいい」
「そんなの無理だよ。
悪魔なんかいなきゃいいのに」
「悪魔もおみゃあの都合だけで存在を否定されたらたまったもんじゃにゃあな」
侠兎の話は、姚子にとっては雲を掴むようなものばかりだった。
神とか悪魔とか、自分で口にしておきながらもまるで現実味がなく、想像の産物のようなものとしか考えてないから、全くもって無意味な会話とも思えた。
ファンタジー映画じゃあるまいし、胡乱に過ぎて悉く実感がない。
しかしながら、もしそれが真実なら、それを世間の人々が知ってしまったら、世の中どうなってしまうんだろう。
神様や悪魔が実在するとなったら、世界中がパニックになるかも知れない。
神話や宗教、果ては映画や小説、漫画に至るまでが再検証されて、間違った事をさも正しいかのように声高らかに吹聴して人々を唆したのは一体どれなのか犯人捜しが始まり、結果如何によっては戦争にまで発展する危険性すらある。
大袈裟かも知れないが、人々の新たな諍いの原因には成りかねない。
少なくとも、一神教は完全に否定される事になる。
全世界の人口の約半数を占める人々の信ずる教義は全て虚偽となり、聖典と呼ばれる書物が紙屑以下の扱いを受ける事になるのだ。
中には、そこに歴史書か寓話集としての価値を見出す人もいるだろうが、記載された内容の信憑性や説得力は限りなく下落する。
そればかりか、人類の歴史そのものに対して疑問符が投げ掛けられる懸念すら生まれるだろう。
その後はどうなるのか、考えるだけで空恐ろしい。
(怖いから、考えるのはやめよう・・・。
考えたって始まらないし、どうにか出来る訳でもないし。
そもそも誰も信じないって、こんな話。
私自身信じられないんだから・・・。
ていうより、誰にも知られなかったらいいだけなんだ)
とりあえず、侠兎と松子の身の上は、他言無用にしておくべきだと結論づけた。
「とにかく、自分は人間じゃないとか男の子だとか、軽々しく他の人に言ったら
ダメだからね。
余計な騒ぎには巻き込まれたくない」
「気にする事にゃあ、どうせ誰も信じやしにゃあって。
おみゃあだってそうじゃにゃあか」
「人と話す時は考えてから物を言えって事よ、誰がどこで聞いているか分からな
いんだから。
壁に耳ありって言うでしょ」
「正直メアリーか」
「障子に目ありだよ!、メアリーって誰!」
そして、そろそろランジェリーショップに到着しようかというところで、話を本来の目的に添わせた。
「どんなの買ったらいいのかな。
ねえ、どんなのが欲しいの?」
「心配すんな、ちゃんと勉強してきたんだ。
欲しいのはヒモのヤツとか、スケスケとかしましまとか」
「一体何見て勉強したのよ!」
「パンチラ学園放課後の誘惑、秘密の悦楽課外授業、ママにはないしょ」
「あんた・・・」
(なんじゃそりゃ、やっぱり中身は正真正銘の男だ)
「蝶々とか数珠みたいな玉のついたのもあったけどあれはいいや、食い込んだら
痛そうだし」
「もういい!
バカ、変態」
(こんなのをお店なんかに連れてっていいんだろうか)
しかし、ここまで来て物案じても後の祭りだ。
「お願いだから、変な真似だけはしないでよね」
忠告はするも不安は拭えない。
肝を据えて、多少の混乱や騒動は覚悟しなければならないと思った。
覚悟はしていたのに、侠兎のはっちゃけぶりは予想を超えていた。
店内に綺麗にディスプレイされた商品を、値札も見ずに引っ掻き回して無造作に鷲掴みしては、これがいいだあれはダメだと、店員や他の客の目も憚らず物色する無神経ぶりを見て呆れ返った。
男がこういう店に入るとこうなってしまうのかと痛感した。
顔を真っ赤にしつつ素知らぬ振りをしようとするも、侠兎が大声で名前を呼ぶのでただただ恥ずかしく、肩を窄めて縮こまるしかなかった。
(もう・・・、勘弁してよぉ)
そんなこんなで、どうにかこうにか落ち着かせて、店員に侠兎の胸のサイズを測ってもらった結果・・・。
「は、87の61、Gカップ!」
やはり専門店に来たのは正解だった。
まさか、G60なんて特殊なカップサイズが出るとは思っていなかった。
(・・・ま、負けたぁ)
「チッ、90ないのかよ。
なあ姚子、87ってどんぐらいデカいんだ?」
振り向いて質問する侠兎を見て、その無邪気な笑顔が、まるで勝ち誇っているかのように姚子の目には映った。
忌々しいったらありゃしない。
侠兎のプロポーションは、予想を遙かに超えて均整が取れていた。
女神・弁才天が創りたもうた体は伊達ではない。
すごく健康的でありながら、実に官能的でもある。
この日、姚子は悔しい思いをした。
胸の大きさで負けたからではない。
その後、下着以外の服や靴も買おうと数軒の店を訪ねたが、行く先々で姉妹に間違われた。
悔しいのは、必ず姚子が姉で侠兎が妹に見られてしまう事だ。
確かに、身長は並ばずして姚子の方が高いとすぐに認識出来るものの、たったそれだけで年長と思われてしまう事に理不尽さと世間のいい加減さを感じて、落胆すると同時にモヤモヤしたものだけが残った。
悲しいかな、侠兎の方が圧倒的に可愛く魅力的に見えてしまうのだ。
(納得出来ん)
<続>