【終章2】氷の花は
初めまして、武藤夏です。
こちらでこの作品はおしまいになります(#^^#)
これは、アイリスNEOの小説のために書いた小説です。
大賞を目指して書いたものなので、多くの人々に読んで頂ければ幸いです。
終章2 氷の花は
「ぐぅっ!」
コナツはピロス部屋で、タロウに小魚を何匹も与えた。
檻の中に入っているタロウは嬉しそうに声をあげ、小魚を呑み込んでいく。相変わらずピロス部屋のピロス達は鳴き声をあげ、騒々しい。
「あんた、あたしのこと助けてくれたわねぇ。ありがとう」
「ぐっ!」
コナツは檻の中に手を伸ばし、タロウの頭を撫でた。
皿の部分を撫でると、つるつるとした触感が気持ちいい。タロウは構わずに小魚を食べる。
(カワタロウは恩を返すピロスって聞いたけど、この小魚がカウントされているのかしら)
魔法が使えないピロスだというが、タラコスに襲われた時や、セゾンに刺された時も、タロウは自分を助けてくれた。
コナツは感謝の気持ちを込めて、タロウにお腹いっぱい小魚を与えようと、ピロス部屋に訪れていた。
(···セゾンがいないっていうのは、寂しいわね)
いつもコナツはセゾンを連れていた。彼女がいないことを寂しいと感じてしまうのは、仕方がないことだろう。
「コナツ、やはりこちらでしたか」
寂しさを噛みしめていると、扉から声がした。彼の声を聞き間違えるはずがなく、コナツは慌てて立ち上がる。
「リオ様っ」
胸が切なく高鳴った。
先ほどまで一緒にいたはずなのに、いちいち鼓動は高鳴る。意識をしすぎてしまう自分に、コナツは苛立ちすら感じていた。
「タロウに魚を与えていたんですね。昨日あんなことがあったのに、誰かに任せればいいでしょう」
「い、いえ、ピロス部屋はあたしの管理でしゅからね···っ」
コナツは玉座の間と違って冷静を装えず、噛んでしまった。
先ほど2人になったら訊きたいことがあると思っていたのに、2人になったという現実に耐えられなかったのだ。
(あたし···しっかりしてよ···っ)
リオは指摘しなかったが、自分自身が許せなかった。
「リオ様···っ!お訊きしたいことがありますっ!」
「はい?何でしょうか」
リオの笑顔が、いつもより眩しく見える。
昨日のことがあったせいだろう。コナツは鼓動を自覚しつつも、なるべく噛まないように口を動かす。
「セゾンやパパドポロスのことってどこからわかっていましたかっ?」
「2人のこと、ですか?」
「ええ、最初のラリスの帰り··リオ様、あたしとクロノスを名指しして馬車に乗せたでしょう?」
ああ、とリオは納得する。
コナツはあの時、リオが何故自分とクロノスを名指ししたのかわからなかった。
今思えば、彼はあの時点で実行犯と計画班がわかっていたのではないだろうか。
「コナツが指摘していた通り、私もパパドポロスがセゾンを名指ししていたことに違和感がありました」
「だから馬車には···」
「ええ、あなたを側から離したくなかったんです。でも、あれだけで犯人扱いする訳にはいきませんでしたからね。少し泳がせようと思ったのですが、結果的にあなたやエレニを傷つけ、あなたが先に真相に辿り着くとは思いませんでした」
(側から離したくなくて···)
ラリスでリオは気づいていたのか。
彼は自分を守ろうとしてくれていた。コナツが意識していなくても、自分の身を案じているのがわかった。
リオがくすりと笑った。
「そう常に緊張しないで下さい、コナツ。島の時と一緒で良いですから、大丈夫です」
リオはコナツの頭に手を伸ばし、優しく言ってくれた。
「リオ様···」
初めて会った時のことを、思い出す。
ヤマトから連れてこられ、張り詰めていた自分に優しくしてくれた少年が、彼なのだ。
11年間ずっと一緒にいた彼が自分を想ってくれた。
彼に頭を撫でられながら、幸福を噛みしめる。
想う相手に想われるなど、一生分の幸福を自分はつかみ取ってしまったのではなかろうか。
「あなたに氷の花が咲いた時、ショックでしたよ。思えば様子がおかしかったというのはありますが、気づきませんでした。ごめんなさい」
「リ、リオ様が謝らないでくださいっ!あたしが氷の花も···片思いしているに気づかれないように注意していたのに···っ」
リオに気づかれないように注意していたのは自分である。
「はい?あなたが私を想ってくれていることには気が付いていましたが···」
「···えっ!!気づいていたんですかっ!」
「あなたは、わかりやすいですからね。どうせ自分が奴隷だったからとか思ってるだろうから、文官にして自信をつけさせました。本当、恋に関しては激鈍だから、私がたびたび口説いていたのも気づいていなかったのでしょうが···」
「く、くど···っ!?」
コナツはより顔を赤らめた。
文官にされた理由は、側用人だったからだと思っていた。
リオは自分の様子を見て、くすくすと笑っていた。自分の頭を撫でていた彼の手は、自分の背にまわされた。
「おいで」
囁かれた彼の声音に、自分が抗えるはずがなかった。
もう子供の時のように、彼の手を跳ねのけたりできるはずがない。
「私はずっとあなたが好きですよ、コナツ。島にあなたが来てくれて、出会えて良かったと心から思います」
自分も遠い異国から運ばれ、彼に出会えて良かったと心から思った。彼と出会えなかったなら、故郷にいる意味などないようにも思える。それほどに自分達が過ごした11年間は尊く感じられ、コナツの胸を熱く溶かすような年月を過ごしてきたように思う。
(リオ様···っ)
強く、リオに抱きしめられる。想像しいピロス達の鳴き声や、「ぐ?」と不思議そうにしていたタロウのが声が、遠くに聞こえた。
「このままずっと、側にいて下さいね」
抱きしめられて、もう氷の花が割れるなどと心配することもなかった。
もう自分の胸に、氷の花は咲いていないのだから。




