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女奴隷に氷の花が咲いた時  作者: 武藤夏
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【31章】襲撃者の正体

31章 襲撃者の正体


「コナツ様···わからない、です」

「何が?」

「私は、ピロスが見えません、です。魔術師でもありません、です」

「そうよ、あんたには見えない。魔術師でもない」


 セゾンは困ったように否定するが、それはコナツにだってわかっている。

 彼女はタロウだって見えなかった。現に、目の前のドワーフやルイーズだって見えていない。

 彼女は、魔術師でもない。


「だからよ。タラコスも、ドラゴンの血も、見えないあんたの犯行よ」

「···わからない、です」


 セゾンは当惑していた。

 幼い少女は首を横に振り、無実を訴えるように潤んだ目で自分を見つめる。


「タラコスがリオ様を襲った件、考えてたの。タラコスは殺されたのに、どうして皇宮の魔術師は死ななかったのか?どうして、タラコスがリオ様を、襲ったのか」


 注意深くセゾンは自分の言葉を聞いていた。カタコトしか喋れない彼女は、一言も聞き漏らさないとばかりに張り詰めているようだ。


「皇宮の魔術師が死ななかったのは、そもそも魔術師の仕業ではないから。何故タラコスを選んだかってのは、ピロス部屋でタラコスが人語を喋れる唯一のピロスだったからよ。見えないあんたには、人語が喋れて取引ができるピロスしか頼れなかった。好都合にもタラコスは盲目だしね」


 コナツは疑問だった。

 ピロス部屋にはたくさんのピロスがいる。

 その中で、何故襲撃者はタラコスを選んだのだろう?

 タラコスは盲目だ。犯人の顔を見ることができないから使役したのだろうと安易に考えた。

 タラコスは人語を喋れるため、使役魔術を使わなくても、取引ができた。

 ピロスには必ずしも魔術を使わなくてもいいと気づいたのは、ルイーズがニコラオス帝に使役魔術を使わなくても付き従っていたと聞いたおかげだ。


「そんな···外部の魔術師を使う可能性だって、ある、です」


 パパドポロスも、同じ可能性を言っていた。

 コナツも同じことを考えたが、タラコスの言っていた言葉を思い出したのだ。


「タラコスは匂いをかがせてもらったと言っていたわ。あたし、あんたに渡したわよね?リオ様が選んだ布地」

「···そ、そんな···」


 リオはエレニにドレスを贈るために、生地を選んでいた。

 コナツも同席していたが、生地を渡したのは、セゾンである。


「あの時点で外部の魔術師の線はなくなってたのよ。あんたが、タラコスをけしかけた実行犯」

「で、でも···あの···です···っ」


 コナツは言い切ると、セゾンは言葉を探しているようだった。彼女が言葉をさまよわせるのを、悲しく感じた。

 できたら否定してほしい。自分が、彼女に謝罪することを、心の底から願っていた。


「···コナツ様、でも、お茶の件は···」

「···あぁ、そうね」


 コナツは溜息を吐く。


「帝都のピロス部屋に一緒に行ったけど、ピロスの一部っていうのは、ピロスが見えないと見ることはできないわ。ドラゴンの血も同じで、見ることができないと見えないわよね?」

「は、はい、です。だから私には···無理、です」


 ピロスを見ることができなければ、ドラゴンの血は見ることはできない。

 だから、捕まってしまったマーキスは“カップの汚れ”など気づかなかった。


「いや、だからよ。カップに注いでも、血は見えないんでしょ?お茶と混ぜて、カップから血が漏れても困るとあんたは思って、指をカップに入れて、ドラゴンの血を注いで確認しながら淹れたのよ。見えない奴でも、ピロスやその一部に触ることはできるからね」


「そ、それなら、マーキス様もピロスが見えない、です」

「チェストに、ドラゴンの血が付着していたわ。さっき言ったけど、カップに指突っ込んで血を計ったんでしょ?エレニが倒れた後にできてたわ。あの時マーキスはチェストになんか近づかず、エレニの側にいた。あんたはエレニに水を持ってくるって駆けつける前に、チェストのとこにいたわよね?」


 セゾンは言葉を失っていた。



(頼むから、否定して頂戴よ···っ!)



 コナツは心の底で叫びだしていた。

 彼女が顔を青ざめているのが、信じられない。


「···エレニ様が倒れた時、あんたは水を持ってきた。おかげでエレニ様は助かったわ。ってことは、あんたは完璧にリオ様だけを殺そうとしたってことよ。どうして?さっきだって、困ってた人を助けてたじゃない···」


 セゾンは自分の様子がおかしいと気づいたらすぐに気にかけてくれていた。


「私は···」

「どうしてよ···っ」


 コナツの声が震えていたことに、セゾンはハッとして顔を上げ、自身も傷ついた顔をした。

 これまでの事件の犯人がセゾンであるということが、コナツを傷つけるなど思ってもいなかったのだろう。


「···リオ様が皇帝なの、おかしい、です」


 ぽつりと彼女は言った。

 彼女が言った言葉は、相変わらず遠慮がちであった。


「リオ様じゃなく、カイ様が皇帝であるべきです···」

「カイ様?えーー」


 コナツは戸惑った。

 セゾンとカイに接点はない。カイはセゾンのことを名前すら知らないだろう。


「カイ様を皇帝にしたい、です!私は、カイ様をずっとお慕いしていました、です····っ!」


 感情を吐き出すセゾンを、コナツは初めて見た。

 いつも感情を出さなかった彼女が、熱を持った目で想いを吐き出している。


「皇子の時からずっとお慕いしていました、です···!カイ様が皇帝になりたいのなら、カイ様を皇帝にさせてあげます、です!」


 カイを一途に恋するセゾンは叫んだ。

 自身がずっと隠していた想いを告げるように。

 セゾンは皇宮の図書館でカイと会った時、ひどく嬉しそうにしていた。

 思い返せば、カイが犯人であるかもとコナツが疑った時、真っ先に否定していた。


(···まさか···)



 セゾンが動機が、「カイを皇帝にしたい」ということだとしたら、“彼は”ーーー。



(嘘···)



 コナツはめまいがした。

 少し後ずさると、冷気が漂う。すぐ後ろに、ルイーズの氷があった。


「ぐぅっ!」

「···な、何、です」


 セゾンに体当りする影があった。セゾンは自身の周りを見、怪訝に顔を歪めているが、コナツにはちゃんと見えていた。

 見間違いようがなく、タロウだ。


(え、タロウ···っ?)


「コナツ!」

「え」


 名を呼ばれ、コナツとセゾンは同時に洞窟の入り口方向を振り返る。

 そこにいたのは、リオとクロノスだった。彼らはゆっくりと自分たちに近づいてくる。セゾンがたじろぐ。


「リオ様···?」

「今の話、全部聞かせて頂きましたよ」


 どうして彼がここに来たのだろうかと、コナツは思った。

 自分は特にリオの許しを得ずにラリスに来てしまったが、それを怒っているだろうかとも気になった。どうせ優しい彼のことだから、きっと「注意してください」と言うくらいで済まされそうではある。


「皇帝陛下···!」


 セゾンは信じられないようにリオを見つめたが、キッと眉を吊り上げた。

 今まで秘めていた憎悪が、彼女の瞳の中でぎらりと光る。


「こ、皇帝じゃと?ルイーズ···!」


 ドワーフが叫び、ルイーズの氷を振り返った。


(え、今、ルイーズ動いた?)

 視線の端で、ルイーズの身体がぴくりと反応したのが見えた。今まで身じろぎ1つしなかったというのに。


「それが、ルイーズですか」


 リオはコナツとセゾンの後ろにある、ルイーズを見つめた。彼もまたルイーズが少しでも動きを見せたことに気がついていたようだ。


「子猿、犯人を突き止めたのはお手柄だな。後は俺が···」


 クロノスが言った時、彼女は動き出していた。

 自分やリオは、ついルイーズに視線を奪われてしまっていたから、気づかなかった。


「皇帝!覚悟、です!」


 セゾンは、リオに向かって突進していた。

 彼女の手に握られた短剣は、暗闇の中でも鈍い光を放つ。


「リオ様っ!!」


 コナツは絶叫し、セゾンの行く手を阻むようにしてリオの前に立ちはだかった。


(ダメ、絶対に殺させないんだからっ!)


 リオが殺されるなんて、コナツにとってありえない。


「コナツ···っ」


 リオが愕然としていた。

 コナツは、セゾンの短剣を自身の胸で受け止めた。セゾンがギョッと目を見開いていたが、短剣はすでにコナツの左胸に突き刺さる。

 薄い氷が割れた音がした。


「あ···」


 氷の花が割れ、胸からは鮮血が流れ出していた。


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