【28章】皇帝リオが呼び出した者は。
28章 皇帝リオが呼び出した者は。
隣に、彼女がいない。
彼女だって自分の側にいるだけが仕事ではなく、公務で離れることだってある。
今はエレニの見舞いに行っているのだ。側にいないのが当然ではあるがーーー。
「コナツが帰って来ませんね」
右脇にいたクロノスが首を横に振る。
「先ほどエレニ様の様子を伺いに行くと言っておりましたが」
「それにしても、時間がかかりすぎではないでしょうか?話が盛り上がっているとしても」
エレニの様子を伺うにしても、時間がかかりすぎていることが、リオは気になった。
後宮に向かった足で、ついでに図書館で調べものをするにしても、使用人を使ってでもリオに一言あっても良いだろう。
「私のことを快く思わない者もいて、皇宮も物騒です。コナツを探して下さい」
「わかりました。···おい、子猿を探せ」
クロノスは使用人に命じる。褐色の使用人がすぐさま玉座の間から出て行く背中を見た後、リオはクロノスを見た。
「前々から思っておりましたが、子猿というのは悪口に聞こえますね」
昔から「猿」とコナツは蔑まれていた。
黄色の肌のことを侮蔑して言っているのだろう。直情的なコナツは誰彼構わずキレていて、クロノスに「子猿」と呼ばれても、「誰がよっ!」とお決まりのように怒っていた。
「は、悪口ではありません」
クロノスは真顔で、否定する。
「猿は可愛らしいと思います。特に子供の猿は、愛嬌があるものでしょう」
「···それは、本人に言った方が喜ぶと思いますよ」
クロノスは表情に乏しいのでわかり辛い。
誰が「子猿」と真顔で言われて、本当は可愛らしいと思われているなどと思うのだろう。
「ご報告申し上げますっ!コナツ様はラリサに向かわれて発たれたとのことですっ!」
玉座の間から出ていった使用人が戻ってきて、大声で告げた。
「ラリサ?」
予想外の動きだった。コナツは予想外のことをすることが多いが、リオはいつも驚かされる。
「クロノス、何かルイーズのことについてわかりましたか」
「いえ、リオ様にご報告している以外にはございません」
だとすれば、何だろうか。リオが知っている範囲で、コナツが動き出した理由。
(あのコナツが、私に報告せずに行った理由。他の氷の花の患者を助けたくて、感情が爆発して、先に行動してしまったというところでしょうか)
彼女の性格を冷静に分析した。
つい感情に任せ、手や口が出るというタイプの人間がいる。昔からコナツは、感情に任せて手と口が同時に出るようなタイプであった。
(どうしてラリサに?何か彼女もわかったことがあるのでしょうか)
「皇帝陛下、どうしましょうか?子猿を1人で行かせると、暴走する可能性もありますが」
「さすがはクロノス、よくわかっていますね」
クロノスはコナツのフォローを良くしてくれている。彼のような優秀な者を、側近に置いて良かったと思っている。
さて、コナツがラリサに向かったなら、自分は何をすべきだろう?
リオは考えた。
「皇帝陛下、ラリサに向かわれますか」
「そうですね、カイをここに呼びなさい」
「···カイ様、ですか」
「はい、早急にお願いします」
クロノスは俄に驚く。カイが呼び出された意 味がわからなかったのだろう。
5分も経たず、カイはすぐに玉座の間に到着する。
「何かな?兄さん」
カイは軽薄な笑みを浮かべ、階段下で頭を下げた。彼の顔を見て、リオはコナツが言ったことが思い出す。
『あたしは、カイ様が怪しいと思います』
彼女は自分のためを思い、自分に進言したのだ。
念の為、彼の左腕を見る。自分がサラマンダーを刺したのは、左腕だ。
長袖に隠されて、彼の左腕に怪我があるかは見えない。
「火急にお願いしたいことがあります」




