【27章】襲撃者の失敗・恋敵の余命
27章 襲撃者の失敗・恋敵の余命
また、しくじってしまった。
リオをなかなか殺せない苛立ちが募る。
タラコスも役には立たず、これで確実に殺せるといった助言も、また無下にしてしまった。
これでは、自分は見放されてしまう。
自分の命など無価値だったと証明されてしまうではないか。
そんなことはやるせない。いくら自分だって、このままリオが皇帝におさまるのは我慢ならない。
今度は確実に殺そう。絶対に追い落とそう。
自分の命など捨てるつもりで、王座を奪い取ろう。
★★★
エレニに使われたのは、ドラゴンの血であったという。
報告をしてくれたクロノスが教えてくれた。あの後、セゾンが水を持ってきたおかげでエレニは一命を取り留めたようだ。
「エレニ様、ご容態は如何ですか」
コナツはリオに言われ、エレニの様子を見に後宮を訪れた。
後宮の彼女の寝室は、リオをお茶に招いた部屋の奥にあった。かつての皇后が使ったとされる部屋で、1人では大きすぎる寝具が置いてある。桃色の花をモチーフにした絨毯が敷かれており、凛としたエレニには可愛すぎるような印象を抱かせる。
「おお、コナツ」
エレニは寝具に横たわったまま、動かなかった。
彼女は、何故リオのお茶と自分のものをすり替えたのか。目覚めた時、彼女は言ったそうだ。
『カップが汚れていたから、皇帝に出すのは失礼だと思ったんだ。少しの汚れだったから、自分が飲めば解決する問題だと思った。皇帝陛下の前で使用人のことを咎めるほどではない』
エレニはカップに気がついたから、リオのものとすり替えたそうだ。
「ドラゴンの血というのは痺れるような痛みなんだな。まぁ寝ておけば治るだろう。それよりも、マーキスは大丈夫なんだろうか?」
「···残念ながら」
コナツは俯き、エレニの顔が心配そうに歪められるのを、黙ったまま見るしかない。
マーキスは、皇帝に毒をもった犯人だと、捕らえられた。
(確かにマーキスだったら可能だった。けれど、本当にあの侍女がやるのかしら?)
彼女がリオを殺そうと思うのだろうか。
エレニのことを皇后にしようと、積極的にリオを呼び来ていた彼女に、リオを殺す動機があるのだろうか?
(それに、今回の事件とタラコスの事件は関連があるのかしら?続いて起こるにしては、期間が重なっているようにも思うけど)
タラコスの事件が起きてから日が浅く、そして昨日誰も知らないサラマンダーが現れている。関連がないと断定することはできない。
「マーキスは、汚れなど気が付かなかったと言っている」
自分はマーキスがドラゴンの血を入れた茶を差し出してしまっているのを見てしまっていた。
「マーキスがそんなことをするはずがない。私が保証しよう。彼女は、幼い頃から私の侍女なんだ。私を皇后にするのが、彼女の夢らしくてな。皇帝陛下を毒殺などする動機がない」
エレニは、真剣にマーキスの無実を信じてやまないようだ。
彼女は以前水をかけられていた自分のことを助けてくれて、貴族や使用人にも分け隔てなく接する。彼女の中で、階級などの差別はないのだろう。
(優しい人ね。とても、優しい人···)
リオも、誰であろうと差別なく、丁寧な口調で話しかける。平民であろうと頭を下げる。
もしかして、2人はお似合いなのではなかろうか?
(こんな優しい人に嫉妬してる自分が、嫌になるわ···)
「被害者であるエレニ様が弁護するのなら、情状酌量もあると思います」
「あぁ···皇帝陛下はお優しいからな」
彼女は、ほわりとした笑みを浮かべた。
彼女の笑みを見て、こんな優しい人の胸に、氷の花があるなんて信じられない。
「···エレニ様の余命は、あと何日ですか?」
「うむ···あと28日だ。···恥ずかしいな、懸想している相手がいると、この花は咲くのだろう。」
彼女は顔を赤らめた。
騎士姫などと呼ばれる彼女が、乙女のように頬を赤らめているのだ。発症してから、まだ2日しか経っていないのか。
(皇后候補だもんね。想うお相手は、1人だけ)
相手は、彼だろう。
(結ばれる相手がいないと、死ぬしかない病なんて、本当にルイーズは迷惑な魔法をかけたわね)
ルイーズのことを思いだし、コナツは嫌気が指す。
(広範囲で人の特徴とか視えてるなら、同じ相手を想う人間に魔法をかけないでよ。残酷すぎるわ)
どちらもリオに告白したらどうなるのだろう。
そして、どちらかが選ばれたら、どちらかが死ぬこともありえるではないか。
(ルイーズめ···視えてるなら、そういう細かいとこ調節しなさいよ···っ!!)
彼女を思い浮かべながら、苛立ちをぶつける。
「情けないな···余命があるというのは、恐ろしい···想いも、苦しいというのに···」
エレニはせつな気な目を細める。
いつも明るかった彼女が、余命を宣告されたことに絶望を感じているようだった。
(エレニ様···誰だって余命を宣告されるのは、怖いわよね)
人生が残り少ないことを憂うことがない人間が、この世にいるだろうか。
コナツだって余命を宣告されたとき、ショックだった。帝都のメラニアも、残り少ない寿命に怯え、嘆いていた。
(あたしの余命も、もうすぐ。他の片想いの子達だって救わなきゃいけないんだから···っ!)
まだ救っていない少女たちも、きっと怯えていることだろう。自分が今できることを考えた時、コナツは元凶であるルイーズのことを思い出した。
(早くラリサに行かなきゃ···)
何も、手がかりがないというわけではない。
血をルイーズに捧ぐことで、ルイーズが起きるかどうか、試してみる価値はある。
コナツはセゾンに馬車を用意するように厳命し、ラリサに向かった。




