【26章】第2の襲撃・恋敵の絶体絶命
26章 第2の襲撃・恋敵の絶体絶命
後宮の建築様式は、皇宮と何も変わらない。違いとしては、歩いているのが貴族令嬢ということだろう。自分やセゾンの地味な服とは違い、きらびやかで、リオが歩いてくると何やらはしゃいでいる様子がある。頭を下げられればリオもいちいち反応して「こんにちは」と挨拶するので、彼女達は浮かれた様子だった。
「皇帝陛下!お待ち申し上げておりました!エレニ様がお待ちですよ!」
声高らかに言ったのは、マーキスだった。
彼女は部屋の前に立ち、リオが来るのをずっと待っていたのだろう。リオが来るやいなや華やかな笑みを見せ、リオを部屋の中に招く。
「おお、皇帝陛下···」
部屋の中には、エレニがいた。
しかし彼女はリオを見るや否や、暗い顔を見せた。確かめるようにして自分を見たような気もする。
(あれ、何だか気分悪そう)
コナツは元気なさげなエレニを見て、首を傾げる。
「エレニ、いつもの元気さがありませんね」
「い、いや皇帝陛下、とんでもございません」
招かれた部屋の中は、エレニに与えられた部屋なのだろう。
真っ白いテーブルクロスが敷かれた円卓に、同じく白い布が敷かれたチェストが壁に沿うようにして置かれていた。チェストの上にはカップやポットが置かれ、茶の準備がされているのがわかる。何人かの使用人が準備をしており、当然のようにセゾンも準備に加わった。
「ささ、皇帝陛下、どうぞおかけ下さい」
部屋の主よりもリオの来訪を喜んでいるマーキスは、豪奢な椅子を引く。リオが椅子に腰掛けると、エレニも向かい側に腰掛ける。
「皇帝陛下、失礼致します。お待たせいたしました」
クロノスが扉から顔を出した。自分やリオがいるのを確認すると、部屋の中に入ってくる。
「クロノス、サラマンダーについての調べはつきましたか?」
「現在調査中という状況は変わりません。ただ、あのサラマンダーには、タラコスのような攻撃性がみられません」
「攻撃性が見られない···私を襲いに来たのではないのでしょうか」
襲いに来たのでなければ、サラマンダーは皇宮の回廊で何をしていたのか。何か目的があったのではないのだろうか?
リオとクロノスが話す傍ら、マーキスが、リオとエレニのカップをそれぞれに置いた。コナツもクロノスの話を聞きたくて、クロノスに顔を向けていたが、横目でエレニの行動を見て、気がついた。
(今、カップをすり替えた?)
エレニは何故か、すでにお茶を注がれたカップを、リオのものと替えていた。
お茶の色は赤茶色で、エレニが持ったカップは、フチの部分が指一本分ほど汚れている。
「リオ様···」
「はい、何でしょうか?」
コナツはリオに注がれたカップを、彼が手に取る前に、彼から遠ざけた。
クロノスを見ていた彼はエレニの行動がわかっていないようだった。
----瞬間、床に大きなものが倒れるような音がした。
エレニが、倒れたのだ。
「エレニ様!!」
マーキスが悲痛に叫び声を上げた。エレニは真っ青な顔をして、苦しむように自らの首を指先で掻く。
「水はないの!?」
コナツは、エレニが倒れたのはリオとお茶をすり替えたせいだと気づいた。
彼女はリオとお茶をすり替えて、自分で飲んだお茶のせいで苦しんでいるのだ。
「ここには、ない、です!持ってきます、です!」
セゾンが慌てたようにして部屋から出ていく。コナツはチェストに目を向けた。チェストの上に、指一本分くらいの赤茶色の汚れがついていた。
「医者を呼びましょう!エレニ···っ」
リオは苦しむエレニを見て、クロノスに叫ぶ。クロノスも的確なリオの指示に従い、真顔で頷き、外に出て行った。
「エレニ様···っ!ドレスの締めを緩めましょ···っ」
マーキスはおろおろするばかりでエレニの身体を抱いてしかいなかった。
見たところ苦しんでいるのに、彼女のドレスは腰のくびれの線を強調するようなものだった。自分は彼女の腰に手をかけ、ドレスを緩めるために彼女の体を抱くとーーー。
「触らないでくれっ···!胸には···っ!」
エレニが必死に叫んだ。
腹の底から絞り出すような声音に、コナツは嫌な想像が浮かんできてしまう。
(胸···!?)
胸には触るな。
その言葉の意味するところを、コナツだって約2週間前から味わっていた。
「エレニ様、失礼しますっ!」
コナツは、少しだけ彼女の服をずらした。鎖骨のすぐ下に、花弁の先が見えた。
「氷の花···!」
エレニの左胸には、氷の花が咲いていた。




