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女奴隷に氷の花が咲いた時  作者: 武藤夏
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【23章】皇宮からのお迎え

23章 皇宮からのお迎え


 --仕方なく、コナツはドワーフを洞窟に残したまま、リオ達が待つ酒場に戻ることにした。自分を慰めようとしているのか、タロウが「ぐっ」と言って手をばたつかせる。


(あと10日)


 タロウが慰めてくれようとしている?なのにも関わらず、自分の気持ちとしては沈んでいくばかりだった。やっと氷の花の魔法を使うピロスがわかっても、コナツの胸に咲く氷の花が溶けないのでは、意味がない。


「コナツ、おかえりなさい。待っていましたよ」


 酒場では、彼が待っていた。老女や地元の男達と談笑をしていたリオは、自分に目を向けた。自分がいなくなった後も彼等と話をし、仲が良くなったらしい。クロノスは男達の輪に入り、セゾンは老女と話をしていた。


「リオ様」


 コナツはリオを見て、泣きたい気持ちになった。彼の姿を見ただけで、張り詰めていた身体の力が抜けていくようだった。


「···何かありました?」 


 自分の顔を見て、何かあったとリオは思ったのだろう。

 コナツは零れ出そうになる涙をこらえ、酒場の席を借り、リオとクロノス、セゾンに先ほど起きた話を話した。説明するにあたって、なるべくコナツは感情を巻き込まないように話をしたつもりだ。下手に感情を巻き込めば、自分にも氷の花が咲いているとバレてしまうのではないかと考えたのだ。

 リオには勿論だが、自分には誰か片思いしている相手がいるのだと、知られたくなかった。自分の恥を知らせるような気がしたからだ。


「--なるほど、氷の花は、ルイーズというピロスの仕業なんですね」


 リオは腕を組んだ。話し終わったコナツを見ながら、彼は特段驚いた様子ではなかった。ピロスの仕業なのではないかと疑っていたので、想定の範囲だったのかもしれない。


「しかし、どうして今のタイミングで彼女の魔法が氷の花という形で具現化したのでしょうか?1000年前のピロスなんですよね、1000年間の間で同じような奇病が流行ってもおかしくないのでは?」

「ああ···」


 コナツはドワーフを連れてくるべきだったと思った。彼なら知っているだろうか?


「これは1つ憶測ですが、恐れ多くもリオ様の即位が関係している可能性も、あります」


 クロノスが言った時、リオは目を丸めた。


「私、ですか?」

「詩の中に「赤き光」という言葉があるでしょう。聞いた時から、気になっていました。500年前、大陸全土に呪いをかけたピロスは、広域魔法が使えました。広域魔法は、視えない範囲でも魔法が使える。ですが、ピロスは呪いをかけた国の要人の容姿の仔細を、直接会ったことがなくても知っていたそうですよ」


 コナツも、「赤き」というフレーズにはリオのことを考えていた。


 制限がある魔術と違って、魔法は個々のピロスの特性によって制限がないピロスもいる。しかし広域魔法が使えるという点では、そのピロスもルイーズも同じような特徴があるのかもしれない。


「ルイーズが懸想していたご先祖様と同じ、赤い髪の皇帝が即位したことが、ルイーズの魔法を発動させるきっかけになったということですか」

「可能性としてはありえるかと」


 クロノスは魔術にも魔法にも詳しい。そんな彼にコナツは質問したいことがあった。


「···ねぇクロノス、何かルイーズを起こす方法、ないかしら。魔術とかでさ」


 先ほど洞窟では、怒鳴っても、氷を叩いても、ルイーズは深く目を閉じているだけだった。彼女を直接起こして、魔法を解いてもらうことはできないのだろうかとコナツは思ったのだ。


「ルイーズの氷を割ってみるか」

「できるの?」

「先日河童を攻撃した魔法を使えば、可能かもしれん」


 クロノスが言っているのは、雷の魔法のことだろう。あの魔法なら、氷も割れるかもしれない。


「じゃあさ、やってみてよっ」

「あの、それだと、です」


 静かにしていたセゾンが、強く声をあげた。

 彼女が強く声をあげることなんて珍しい。リオも驚いていたようだった。


「患者全員、亡くなられる可能性は、あるです?氷の花は、無理矢理取ったりしても駄目でしょう、です」


 セゾンの言う通りで、コナツ自身も確かに医師から注意を受けていた。氷の花は、無理矢理取ったり、割ったりしてはいけないと。


「···可能性としては捨てきれないな」

「···ちょっと、やめてよっ!!」


 さすがにコナツも寿命が10日から0日になるのは嫌である。

 リオも苦笑し、「クロノス···」と呆れているようだった。


「氷を割るのは、なしです。他に何か方法は···」


 リオが言いかけた時、酒場の扉から慌てた様子で数人の人々が流れ込んできた。数人の黒いローブを着た男達は、リオを見るや否や自分達の席に向かってきた。


「な、何!?」


 酒場の主と思われる、カウンターの老女が叫んだ。

 自分とクロノスは彼等の姿を見た時に立ち上がりかけたが、大人しく着席する。

 黒い魔術師たちの姿と共に、彼の姿が見えたからだ。


「リオ様、お迎えにあがりました」


 パパドポロスは、恭しく頭を下げた。

 黒い魔術師は彼の配下の者達なのだろう。パパドポロスに合わせるように、リオの周りにいる者達は頭を下げた。

 リオは仕方なさそうに溜息をつく。


「ああ、抜け出したのがバレてしまいましたか」

「勝手なことをされては困ります。帰りましょう」

「···わかりました、今日のところは帰りましょう。店の方々、ご迷惑をおかけしました」


 リオは、何人もの魔術師が入ってきたことにも驚いている老女や男達に丁寧に頭を下げた。一見、中流階級の恰好をしているリオがどういう身分なのか、何者であるのか、彼等は探るような目をしている。リオが店から出ていくので、コナツ達も後に続く。外に出ると、2台だけだった馬車が数台に増えていた。パパドポロス達が乗ってきたのだろう。


「コナツ、タロウをこちらに」

「お、それが東国のピロスですか」

「ええ、可愛らしいでしょう?」


 コナツが抱いていたタロウをリオに渡すと、パパドポロスが微笑を浮かべる。

 パパドポロスは決して同意はしなかったが、笑みを浮かべてタロウを見ていた。


「まだ刺客も捕まってないのですから、リオ様は注意して下さい。コナツ、クロノス、セゾンもリオ様をお止めなさい」


 パパドポロスが自分たちに注意をする。クロノスは軽く頭を下げただけだったが、セゾンは今にも泣き出しそうなほど申し訳なさそうに顔を歪めた。


(えっ?)


 コナツが疑問に思っていたら、リオもまた何かを考え込むような顔をしていた。

 彼の顔から笑みが消えていて、コナツはどきりとした。


「リオ様?」

「私はコナツとクロノスと、共に馬車に乗りますよ。早く帝都に帰りましょう」


 リオは急ぐようにして、コナツの背を押し、馬車に乗った。


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