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女奴隷に氷の花が咲いた時  作者: 武藤夏
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【18章】晩餐会

18章 晩餐会


「皇帝陛下!」


 晩餐会の会場に入ると、リオが入場したことで、わっと人々が寄ってきた。

 リオはいつもの優艶な顔で、寄ってくる彼らに対応する。

 会場の中には、白亜の像が飾られ、きらびやかに着飾った貴族たちがひしめく。

 コナツはリオの隣にいることで、自分もいつも以上に視線を浴びることになった。


(目立つわよね···こんな格好したことないもの)


 いつもの晩餐会だったら、いつも皇宮で勤めている時と同じ格好をして、目立たないようにすみの方にいたはずだ。


「猿の分際で···」


 自分の悪口を言う声が聞こえてきた。

 声がした方向を横目で見れば、以前自分に水をかけてきた女官2人だ。


(何よ···っ)


 苛立ち、すぐに怒鳴りたくなった。


「兄さん、奴隷の文官を着飾るなんて変わったことをしているね」


 カイがリオに話しかけてくると、周りの貴族達が静まり返る。彼は軽薄な笑みを浮かべ、いつものように帯刀していた。


「カイ、少し言葉が過ぎるようですが」

(リオ様···)


 自分を庇うような彼の声音に、コナツは服の裾を掴んだ。カイはからからと笑う。


「やだなぁ、冗談だよ。とても似合うと思うよ、そのドレスじゃ足が短いのもわからない」

(こ、こいつ···)


 やはり、カイは好きではない。


「皇帝陛下!エレニ様が皇帝陛下にお礼を申し上げたいそうです!」


 自分を押しのけ、マーキスがずいずいとリオの前に割り込んできた。

 後ろから、エレニが苦笑しながらついてくる。彼女はとても遠慮がちに、自分を見て、リオの周囲を見る。


(あれ···?)


 彼女は今、何か探しただろうか。


「エレニ、とても似合うね。そのドレス」

「あ、ああ。皇帝陛下からお贈り頂いたものだ。···皇帝陛下、素晴らしいものをお贈り頂き、感謝します」


 カイも、エレニとは従兄妹関係である。エレニはカイに対しても笑みを見せながら、リオに恭しく頭を下げた。


「子猿、見慣れない服を着ているな」

「あ、クロノス」


 彼は後ろから現れ、しげしげと自分のことを見つめた。リオ達は談笑を始め、クロノスのことには気がついていないようだ。


「晩餐会は、貴族たちの道楽に過ぎないな。皇帝陛下が面倒と言った気持ちもよくわかる」

「あら、あんたもそういう感じ?貴族だからこういうのに出席するのは多いでしょうに」


 クロノスの恰好は、いつもと特別変わらなかった。貴族達はきらびやかな恰好をしているのに、彼は地味な部類に入るだろう。


「多かった。特に俺は帝都に家があったからな、だから面倒だと思う」


 クロノスの家は帝都に居を構えている。都会暮らしの彼は、スモリペン島のいたリオよりも、晩餐会に出席する機会も多かったのだろう。


「おや、クロノス。来ましたか。来たなら」


 リオはクロノスの存在に気が付いたが―――。


「皇帝陛下!詩を披露しますよ!よかったらいらっしゃって下さい!」

「詩、ですか」


 派手な顔の中年の男に腕を引かれ、リオは連れて行かれようとしていた。

 皇宮での晩餐会での主役は、皇帝である。

 彼の取り合いになるのは当然だった。マーキスはもっとリオとエレニを会話させたかったのか、悔しそうな顔をしている。

 リオは肩を竦め、仕方なく男に惹かれていく。自分とクロノスも、リオを見失わないように後に続く。


「詩、ねぇ。クロノス得意?」

「苦手だ」

「でしょうねぇ」


 グリックラン皇国でも「詩」というのは上流階級のたしなみであった。


(リオ様も教養としてたしなんではいたけど、あたしは甘ったるくて苦手だったなぁ)


 特に詩というのは、恋に関してのものが多い。

 大袈裟な表現ではあるが、あなたがいないと死んでしまうなどといった甘美に装飾された詩は、コナツの好みではなかった。

 リオが導かれた晩餐会の奥では、向かい合った2つの赤いソファーが置かれ、何名かの貴族の男性や令嬢達が腰かけていた。彼等はリオが連れてこられると、目を輝かせた。


「皇帝陛下!ちょうど今ラリス伯爵が道外れた恋の詩を詩われて、感心していたんですよ」

「いやいや、先ほどのミトプロス侯爵令嬢の恋心を詠んだお詩にも、涙が出そうになりました」


 ソファーに座る人々は、口々に褒めあう。リオは笑顔を浮かべたまま、「そうですか」と言った。


(あんまり興味ないんだろうな、リオ様)


 リオは優しい口調で言ったが、コナツはリオの気持ちがよくわかった。彼も教養として詩をたしなんでいたが、特別好きな訳ではない。

 ここで詩を詠みあう人々は、きっと詩が好きなのだろう。


「身をも凍らせるほど想っても、永久に輝く赤き光には逢い難い」


 ソファーに腰かけた黒髪の女性が、にこりと笑って言った。リオを見る目が熱っぽく、リオに媚びるように身をくねらせる。


「昔の詩ですが、素敵な詩ですわよね。永久に輝く赤き光というのは、皇帝陛下のようですわ」


 コナツには、彼女が言った詩は、他のものが詠った詩とは違って聞こえた。


「身をも凍らせるって···」


 自分にも咲いてしまった氷の花を想像させる。自分だけでなく、リオやクロノスも同様だったのだろう。


「昔の詩と言いましたが、誰の詩ですか?」

「えっ、誰の詩かまでは、私、存じなくて···」


 女性はリオに問われ、顔を赤くした。皇帝に話しかけられて恥ずかしいとばかりだが、その仕草にコナツは苛立った。


「どこで知ったんですか?」

「えと、ラリサの、私の別邸に行った時、使用人から聞いたんですわ。ラリサに詩の石碑があるって」

「ラリサって、北のですか?」


 女性は頷いた。


 ラリサとは、グリックラン皇国の帝都から北にいった地方の名前だ。コナツは行ったことがないが、グリックラン開国の歴史に出てくる古都の名前のため、記憶していた。

 1000年の歴史を持つグリックラン皇国の開祖ニコラオス帝が開国した、皇国の歴史が始まった土地である。


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