【15章】第一の襲撃の、謎
15章 第一の襲撃の、謎
「皇帝陛下、我が魔術師軍の中で死んだ者は、1人もおりませんでした」
パパドロポスは玉座の間で平伏し、リオに対して告げた。
タラコスの事件から1日が経ち、パパドロポスはリオに昨日の事件の調査結果を報告に来ている。魔術師軍の長として、カイの命令を受けて彼が報告に来たらしい。
「それは、犯人がわからなかったということですか?」
「はい、現在調査中です。皇帝陛下の御身を狙う下賤な輩が、この皇宮にいるようです。十分お気をつけ下さい」
自分とリオは、顔を見合わせる。リオの右脇にクロノスがいるが、昨日のことでまだ顔が青白く、決して万全の状態ではないようだった。
(見つからない?タラコスは殺したはずなのに)
クロノスの言っていたピロスの使役魔術ならば、魔術師は死んでいるはずだ。
「リオ様を殺せという手紙も、ピロス部屋にあったんです」
「手紙?そんな指示の手紙が発見されたのですか?」
「はい、ピロス部屋に落ちておりました」
コナツは手紙のことをリオには既に報告していたので、コナツはパパドロポスに言った。
「手紙、ですか。我が魔術師軍に死者はいなかったので、外部の魔術師の仕業でしょうな。ピロス部屋に潜り込んだ時に落したのでしょう」
「外部の魔術師が潜り込んだなんて···リオ様の警護を強化しないといけませんっ」
リオを傷つける訳にはいかないのだ。
「皇宮に刺客がいる確率が高いのなら、明後日の晩餐会も取りやめませんか?」
「···リオ様、それ、面倒臭いだけでしょうっ」
晩餐会に出席するのは面倒臭いと以前もリオは言っていた。
彼の口調から、晩餐会に興味がないので取りやめたいと言う本音が滲んでいた。
「いけません、晩餐会も立派な皇帝の仕事ですよ。跡継ぎを作らないといけませんからね」
「即位したばかりなのに急かしますねぇ」
パパドポロスは若い皇帝に諭すように話す。
(後宮に人を入れろって言ったのも、パパドポロス様だっけ)
グリックラン皇国のことを考えて言ってくれているのだろうが、跡継ぎと言われてコナツはエレニのことを思い出し、嫌になった。
「昨日も未来の皇后とのお茶会でしたのに、タラコスに邪魔されて残念でしたなぁ」
「パパドポロス、まだ私は皇后を決めてはいません」
「お考えになって良い時期ですよ。先帝は側室が6人おりましたしね」
「それよりも、やらなきゃいけないことが多いのです。追々ですね」
歴代の皇帝でも、多くの側室を持った者もいる。政治に夢中になったリオは、かなり珍しいほうなのだろう。
(政治に真剣だから、リオ様は狙われたのかしら)
まだ憶測でしかないが、コナツは嫌な気持ちのまま左胸に手をかけた。
氷の花の問題が解決する前に、また暗殺者に狙われることになるとは―――。
「コナツ様、氷の花の件ですが、患者の身辺調査が終わりました、です」
セゾンがこっそりとコナツに言ってきた。リオは自分と近い玉座に腰かけているため、セゾンの声にも気が付いたようだ。
「あら、近いところで両想いの子、いたの?」
「おりました、です。先日訪ねたメラニア様、です」
メラニアは「やり残したことがある」とは言っていたが、懸想している男がいたのか。
「コナツとクロノス、退出を許しましょう。本当なら私も同席したいですねぇ」
コナツがリオに許可を申し出る前に、リオから許可がおりた。彼もまた余命が残されている少女達のことを気にしているようだ。
「いけませんよ」
パパドポロスの前で言っても、リオの外出の許可が出るはずがない。リオは腕を組みながら肩を竦めていた。
リオを玉座の間に残しながら、外出の準備をし、馬車に乗り込んだ。
馬車の中には、コナツと、クロノスとセゾンが乗車した。
「子猿、ピロス部屋に紙が落ちていたと言っていたが」
コナツの向かい側にいたクロノスは、長い足を組んでいた。
「うん、リオ様を殺せって書いてあった」
「まさか、タラコスに宛てたものではないだろうな。誰かに宛てた手紙ということだ」
タラコスは人語を喋ることはできるが、文字などを読むことはできない。
リオを殺せと、誰かが犯人に宛てた手紙。
コナツは落ちていた手紙をリオに渡してしまったが、リオは自身を殺害しろという手紙を見て、何を考えたのだろうか。
また、リオを殺したい人間がいるというのか。
「ピロス部屋からはね、タラコスとタロウだけが出てたの。他のピロスは檻の中」
「タラコスが人を食うピロスだから、襲撃に使ったのだろうな。それに、あいつは盲目だ。犯人の姿が見えない。標的の匂いさえ嗅がせれば、標的を覚える」
---だが、タラコスを選んだのは、本当にそれだけが理由なのだろうか。
一緒に何故か部屋から抜け出したタロウも犯人の姿を見ているのだろうが、タロウは人語を喋ることはできないため、犯人の特徴は教えてくれないだろう。
「誰か皇帝陛下の在位を煙たがる者が、いるのだろうか」
リオが皇帝であることを望まない者。
彼は政治に対して熱心で、先帝の時代からの慣習を破り、グリックラン皇国をより良くしようとしている。
優しい彼を煙たがる者などいないように思うのだが――。
「あたし、カイ様はリオ様を殺したい動機があると思うの」
「カイ様か」
会議でリオの意見に反対ばかりするカイの姿を、コナツは思い出した。
殺しあった7人兄弟の中で、唯一皇宮で生き残った皇子である彼ならば、同じくスモリペン島で生き残った兄を疎ましく思うのではなかろうか。
「···皇位を考えると、なくはない。リオ様が死んだら皇位を継ぐのは、あの方だ」
皇帝になるために、リオを殺す。
十分すぎる動機である。
「で、でも···あの···です」
コナツとクロノスの会話に、セゾンは遠慮がちに声をあげた。
珍しい。
「いいわよ、セゾン。なぁに?」
「···魔術師じゃないと使役の魔術は使えませんよね、です。カイ様、魔術師じゃない、です」
セゾンの言う通りである。カイはピロスは見えるようだが、魔術師ではない。
「カイ様が、誰か魔術師を使ったんじゃない?手紙もあったから、1人が犯人じゃないんでしょう」
「それだと、ご自分で仲間の魔術師を殺したということになります、です」
カイは躊躇なくタラコスを殺していた。
リオを守ったと言っていたが、折角の証拠を――いや、彼が犯人だったから、証拠を消したかったのだろうか?
(仲間の魔術師も、切り捨てた?でもそれだと、皇宮の魔術師が誰も死んでいないのがわからないわ。パパドポロスが言う通り、外部の魔術師を使ったってこと?)
コナツは疑念に囚われたまま、深く考え込んだ。
すっきりしなくて、気持ち悪い。




