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女奴隷に氷の花が咲いた時  作者: 武藤夏
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【14章】殺される証拠

14章 殺される証拠


「だ、だってリオ様、タラコスは誰かに差し向けられたんですよっ?誰がけしかけてきたのか、こいつに聞かないといけませんっ!」


 コナツはリオの手を振りほどくようにして、リオと向き合った。

 幸い、タラコスは喋ることができる。

 カタコトではあるが、タラコスに詳しく話を聞くことができれば、誰がリオを殺そうとしたのか、わかることだろう。


「誰が犯人なのか探るのは賛成ですが、魔術師に調べさせましょう。···ピロスを使役する魔術でも使ったのでしょうかね?」


 ピロスを使役する魔術。


 先日クロノスからそういう魔術が存在することは、聞いたが、本当にそんなことをしてリオを襲った奴がいるのだろうか?

 このタラコスは、間違いなく皇宮のピロス部屋にいたのだ。つまり皇宮にいる者が犯人なのではなかろうか。


「兄さん!ピロスに襲われたって聞いたけど、平気かな?」


 カイは黒いローブを着た魔術師2人を引き連れ、回廊を歩いてきた。


(げっ)


 コナツは、げんなりした。

 やはりコナツはカイが苦手だ。

 心配していると言ったが、本当かどうかわからない。図書館で自分の気持ちを知っているという態度も嫌だったが、その後の毎日の会議でも何度も顔を合わせているが、いけすかない。

 彼の薄ら笑いは真意を語っているかもわからない。


「ありがとうございます、カイ。無事ですよ」

「そっか、良かった。兄さんに何かあったらと思うと気が気じゃないよ」


(えぇ?本当かしら···)


 カイがリオを心配する?そんなことがあるのだろうか。


 カイは庭園の中を見渡し、雷の檻に囲まれたタラコスを見つめた。


「それが、兄さんを襲ったピロス?」

「はい。クロノスが魔術をかけて封じてくれています。どなたか代わってくれませんか?」

「わかった。じゃあ2人共」


 黒いローブの魔術師2人が、タラコスに向かって手をかざした。

 クロノスは疲れ切った目をしており、かざしていた手を力なく地面に置いた。魔術師2人によって、先ほどクロノスが使った魔術と同じように、雷の檻が構成されていく。

 タラコスは、その瞬間、大きく吠えた。


「ひっ!!」


 身をよじるように吠えると、魔術師2人が臆したのか、手を下げてしまった。


『コロスッ!!』


 タラコスが唸るように咆哮すると、一瞬消えた雷の檻を破り、リオに向かって飛びかかってきた。


「リーー」


 コナツはギョッとして、リオに飛びつこうとした。

 彼を守らなければと反射的に思ったからだ。


「駄目だよ」

『グッ』


 弱々しく、タラコスが鳴いた。

 タラコスの獅子のような体躯の部分が、串刺しにされている。リオの太い剣でもないし、エレニのレイピアが突き刺さっているのではない。

 カイが持つ黒い剣はタラコスの身体を突き破り、剣先から赤い血を滴らせていた。

 心臓部分を突き破られたのか、タラコスは震えた。痛みに顔を歪め、弱々しく声を漏らす。


「タラコス!?」


 コナツは絶叫した。腕に抱いたタロウが、「ぐ!」と鳴く。


「カイ!」


 リオも、止めるように声を上げた。

 え、とカイは黒い剣をタラコスから引き抜く。

 剣を引き抜かれたタラコスの身体は大きな音を立てて地面に倒れた。緑色の芝生が血で汚れていく。2人の魔術師が慌てて雷の檻を構成していたが、もう遅かった。

 檻の中のタラコスは横たわったまま、動かなくなっていた。


「何でタラコスを···っ」


 リオを襲ったとはいえ、躊躇なく殺しただと?

 タラコスからもっと情報を聞きだすべきだったし、いくらリオを襲おうとしていても命を奪って良いのか。

 何より、コナツはカイが躊躇いなくタラコスを殺したのが気に喰わなかった。どうして彼が、そんなことをしたのか。

 コナツが叫ぼうとしたとき、リオが肩に手をかけて止めてきた。仕方なく、黙るしかない。


「なに?兄さん」 

「殺すことはないでしょう?そのピロスは証拠です。タラコスは人語を話すことができるのですから、殺すべきではないと思います」

「あー、ごめんごめん。兄さんに襲いかかってきたからさ、ついね」


 軽い口調でカイが言った。あまり悪びれていないようである。

 カイもまた皇子として剣の鍛錬を積んできたのだろう。飛びかかってくるタラコスの心臓を、一突きで貫くなど、普通できることではない。


(つい?ついで済むことなの?)


 悪気なくやってしまったと言わんばかりだが、大事な証拠ーーしかも、話すことができる証拠を失ったのだ。


「カイ様···畏れ多いことながら···」


 地面に膝をついているクロノスが、荒々しい呼吸を繰り返しながらカイを見上げる。彼の隣にいるエレニは、クロノスの背中を撫でていた。


「魔術師が使役されているピロスを殺すということは···操っている魔術師も殺すということです···。つまり皇帝陛下を襲った犯人の動機すらわからなくなります···」


(それって···証拠どころか犯人も失っちゃったってことじゃない!?)


 どういう動機で犯人がリオを襲ったのか、それすらもわからないというのか。


「あー、そっか。犯人、死んじゃうのかぁ。どうせ死刑になっちゃうんだろうけど、今すぐ殺すのは良くなかったかな」


 兄さん、ごめんねぇ。とカイはへらへらと笑いながら付け加えた。


(そんな···こいつ···)


 人を殺すことも、ピロスを殺すことも、何とも思っていないようだ。

 至極当然のように赤い血を滴らせる剣を、彼は鞘におさめた。彼の足元に赤い血が落ちている。


「でもあのピロスって、どこから入ってきたの?皇宮の魔術師が飼ってたならさ、今さっき死んだ魔術師を探せばいいんじゃない?」


 皇宮に野生のピロスが入ってくることは、まずない。皇宮の中にいるということは、誰かしらが飼っているということになる。


「いえ、あれは私が飼っていたピロスです」

「兄さんの?」

「ええ、世話はコナツがしてくれていますよ」


 カイはコナツを見て、目を細めた。


(え?)


 怪しげに光る彼の目を見て、コナツは余計に嫌な気持ちが深まる。


「世話しているの、君なの?君があのピロスを兄さんにけしかけた?」

 はっ?


 ピロスをリオにけしかけたのが、自分だと?


「あ、あたしじゃありません!」

「カイ、物事には言って良いことと悪いことがあります」


 コナツをフォローするように、リオの語調が強くなっていた。彼のことを見上げると、リオから笑みが消えていたようにも思う。


(リオ様···?)


 彼が無表情になることも珍しい。

 カイは肩をすくめて見せるが、コナツの様子を眺めていた。


「カイ、ピロスの遺体を調べ、皇宮にいる魔術師軍全員の生死確認をお願いします」

「はいはい、兄さんのお望みのままに」


 カイは自分を一瞥すると、魔術師2人に指示を出し始める。

 コナツはリオの態度を不思議に思いながらも、床に膝をつくクロノスが気がかりだった。


「リオ様、クロノスが···」

「すぐにクロノスを部屋に連れて行って休ませましょう」


 自分はクロノスに駆け、近寄った。近くで見ると彼の顔は青白く、力を消耗しきっているのがわかる。


(攻撃魔法くらいじゃ、ここまで力を消耗しないのに···)


「大丈夫か?立てるか?」


 エレニはクロノスを肩を貸し、立たせる。ドレス姿のことなど気にせず、クロノスのことを心から気にかけているようだった。彼女は自分にもそうだったが、とても心優しいようだ。


「エレニ、先程は助けてくれてありがとうございます。さすがは騎士姫、素晴らしい剣術でしたよ」


 リオの言う通り、彼女は素早く敵の懐に潜り込み、レイピアを振るっていた。

 美しい剣さばきであり、まさに騎士姫という異名を納得させる剣技である。


「お褒めに預かり光栄です、皇帝陛下。···少し進言させて頂いてもよろしいですか?」

「はい?」 

「ピロスを殺すなんて、カイ様の失態なのでは?あのピロスから犯人を吐かせれば良かったのに···人語を喋っていたではないですか」


 エレニは声を潜めるようにして、言った。カイは魔術師に指示だけだすと、去ろうとしていた。彼の背中を、エレニは見据えている。

 彼を怪しんでいるのは、自分だけではないようだ。


「エレニ、カイをあまり責めないで下さい。証拠は他にもあるかもしれません」

「···皇帝陛下、あなた様はお優しすぎますよ」

「よく言われます」


 エレニは半ば呆れるようであった。コナツが庭園を見渡す。魔術師がタラコスの遺体を調べ、使用人たちがテーブルやカップを片づけている。


(···犯人、すぐにわかると良いんだけど)


 すぐに犯人を見つけ出してほしい。

 リオが殺されることなど、あってはならないのだから。


「ぐっ!」


 コナツの腕の中のタロウが、鳴いた。あっ、とコナツは気が付いた。

 タラコスやタロウが出てきてしまっているのだ。


「リオ様、ピロス部屋を見てきます」

「そうですね。他にいなくなっているピロスがいるか、確認してきて下さい」

 

 そうだ、他にもピロスがいなくなっている可能性もあるのだ。コナツは他の使用人達と同様に庭園を片づけるセゾンの姿を見つけた。


「セゾン、行くわよっ」

「あっ、はい、です!」


 セゾンを引き連れ、コナツはタロウを両手に抱きかかえながら回廊を小走りに駆けた。コナツとは反対に、庭園に向かっていく魔術師の姿もあった。


「あんた、もしかしてタラコスの襲撃を教えてくれたの?」

「ぐっ!」


 タロウに尋ねてみると、「そうだ!」と言っているような声を出してきた。


(本当かしら···)


 タロウは人の言葉がわかるのだろうか。

 先ほどもタラコスの襲撃を知らせるように鳴いていた。

 でも、もしタラコスの襲撃がわかっていたならもう少しわかりやすく伝えても欲しかったというのは、タロウに過剰な期待をしすぎだろうか。

 コナツはピロスの部屋の前に立つと、恐々と扉のノブに手をかけた。くるりとドアノブはまわる。


(鍵、あいている)


 扉を開き、コナツは部屋の中に入った。

 いつも通りの、様々なピロスの鳴き声。注意深くコナツは部屋の中のピロスを見てまわった。ゆっくりとした足取りで、確認する。


 数多くいるピロスの中で、いないのは―――2匹だけだった。


「あんたとタラコスだけが、部屋の中から出たの?」

「ぐっ!」


 タロウがコナツの腕から飛び降り、地面に着地する。

 そこには紙が落ちており、コナツは見慣れないそれを拾い上げた。紙なんて、ピロス部屋に落ちていなかったはずだ。


(なにこれ)



 白い紙には、黒い文字で「リオを殺せ」と書いてあった。



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