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【御神楽町の巫女―予兆篇―】

作者: Autorメンバー

『――何を見てるんだ?』

『ふふん、良いモノ』

『へぇ、僕にも見せてくれないか?』

『良いけど……後悔するわよ?』

『なぜ?』

『私が後悔させるから』

『なんで君が僕を後悔させるのさ。君と居る時間でさえ、後悔した事の無い僕には有り得ないぞ?』

『……そういうくすぐったい台詞、平気で言うところを直せなかったのは私の後悔かなぁ』


微睡みの中で、仲睦まじく寄り添って話す二つのシルエット。テーブルの上で何かを広げているけれど、あれは一体何だったのだろうか?


「秋月さん……」

「……」


そんな事を考えながら、私は黒板を叩くチョークの音をBGMにノートを眺める。あれは何なのだろうか。酷く懐かしい感覚だったが、それでも私が望んでいた未来像に近いような感じもしていたし……夢は記憶の整理とも言うし、よく分からない。


「秋月さん……あ、き、づ、き、さん!」

「っ、は、はい!」


ボーッとしていたのだろう。唐突に聞こえた声が耳から入ってきて脳天へと刺さり、私は我へ返った。

目の前に視線を送ると先生がこちらを見据えて、周囲のクラスメイトはボーッとしていた私を見てクスクスと含み笑いをこぼしていた。


「秋月さん。授業中に惚けるのは良いけれど、ちゃんと授業に集中しないとテストで痛い目に合うわよ?」

「あー、ええと、……はい、すみません」


実際問題として、編入という事もあってこの町の学業の進め方には詳しくない。試験範囲だって覚えているつもりだし、私としても予習復習はしているつもりだ。

謝罪しながら小さくなる私は、気恥ずかしい空気を感じつつ授業終了のチャイムを待ち続けたのであった。


「や、……やっと終わったぁ」


机に突っ伏して渾身の溜息を吐きながら、私はそんな事を言った。見兼ねたクラスメイトが『おつかれ』と労ってくれた事もそうだけど、この学院の生徒たちは皆温かい。

本土……地元ではこうもいかなかっただろう。小さな町で、クラスの数が少ない事が温かい理由だと私は思う。

逆に言えば、見慣れない顔が居ればすぐに分かるという事。噂なんて一日が経過する前に拡散する事だろう。

その証拠に……


『あ、秋月さんこんにちはー!学校慣れたー?』

「あ、は、はい。多分……!」

『こらこらめぐみん?新参者を弄ったらダメだよー。オドオドしてるのを見るのが楽しいー!ってのは分かるんだけどさ』


……数日経過しているとはいえ、随分と砕けた気がする。緊張具合も、それ程って訳でもないし……正直助かったかも。


「随分と噂になりましたね、秋月さん」

「ひゃあっ!?」


唐突に背後から話し掛けられた私は、全身に走った寒気を抑えて振り返る。そこにはニコニコと笑みを浮かべている男子生徒の姿があった。

……というか、彼だった。


「——し、死ぬかと思いました」

「すみません。何やら見知った方が廊下で呆けていたので、悪戯心が芽生えてしまいました。あはは」

「わ、笑い事じゃないんですけど……女の子に背後から迫って急に声を掛ければ、誰だってこうなります!良いんですか?貴方を痴漢扱いしても」

「それは非常に困りますね。神様に祈りを捧げておくとしましょう……アーメン」

「貴方の家、仏教でしたよね?」


じーっと目を細め、彼の事を見据える。だが数秒後、私自身が耐え切れなくなって目を逸らしてしまう。


『見島くん、またあの子と話してるね。これで何回目?』

『そうだなぁー。……割と最近ずっとじゃないかな?ほら一応、編入というかウチらの学校って神社を通すじゃん?その影響で知り合ったんじゃないかな?』

『これは新しい噂を流すしか』

『やめてあげなよ。心まで折れたら責任取れるの?あんた』

『うぐ……』


廊下の奥から何やら見られている気がするけど、私は気にせずに目の前に居る男子生徒を眺めた。

改めて見ると、やっぱり背高いなぁ。180はあるのかな?制服姿も新鮮だけど、やっぱり神社に居る時の服装が良いなぁ。何だっけ?あれ……袴?和服?巫女服は、女の子だもんね?


そんな事を考えながら、私は彼にお昼に誘ってもらった。一人だと心細いから、こうして居ると助かるし落ち着く。


「秋月さん、改めて学院は慣れましたか?」

「はい、多分……」

「良い返事の後に曖昧な空気ですね。まぁゆっくりで良いと思いますよ。高校は三年間ありますし、やりたい事があれば挑戦してみるのもアリだと思いますよ」

「挑戦、ですか。うーん、考え事も無かったですね」

「何か得意な事は無いんですか?」

「残念ながら何も無いんです……」


小学生から中学生まで、何かとクラブや部活動に入れる機会はあった。けれど、それを心からやりたいとか好きだからやりたいとか以前に、やってみたいという感情も込み上げて来なかったのだ。

今更何かをやろうという理由も無いから、ふと気になった事を求めてここに居る訳だし……


「では、見つけられると良いですね」

「え?な、何をですか?」


考え事をしていた所為で、その言葉に反応が遅れた。まるで心を読まれたような言葉だが、私は彼を見て首を傾げた。


「やりたい事、やってみたい事、好きな事……その曖昧で空気を掴むような事を探して、僕らは成長していきます。受け売りではありますが、あなたが自分にとっての何かを見つけられる事を祈ってますよ」

「……はい。ありがとうございます」


私はその言葉が何だか嬉しく思い、自然に笑みを浮かべてそう言った。何やら目を逸らされてしまったが、彼の言う通りに"何か"を探してみようと私は思うのであった。


――その頃、私たちの知らない所で事は動き始めていた。


『秋月花凛、か。似ているのう』

『見島先生から見ても、そう思われますか。私も初めて見た時は、夢を見ているのかと思いましたが……やはり』

『ううむ……花澄様の忘形見とは、彼女の事で間違いないだろう。我々も覚悟しなければならんのう。この町を護る御神楽の民としてのう』


――To Be Contuned……?

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