第八話 師匠
「は?」
食欲そそる匂いの源は肉野菜炒めだった。
だが違う、問題はそこじゃない。
むしろ野菜炒めは好きだ。その店主は良く知る顔のような気がする。
というか知っている。目が合ったのも初めてではない。
俺は外に出て看板を確認する。
《キリータの酒場》
再び店内に入りノアの手を引いて外に出ようとする
「ノア、ほかの店にしよう」
「え、でもキリータさんって知り合いなんじゃ。挨拶しなくていいの?」
「挨拶には暗殺で返されるぞ」
そういうと厨房からナイフが飛んでくるがノアが人差し指と中指で止める
「エリクを狙った……? 敵……?」
「あぁぁぁぁ待てノア!」
その女店主は一歩目でフラつきながらもへ歩いてくる。
昼間っから酒でも飲んでるのか。
それに対してノアがものすごい殺気を放っているのでノアをなだめるように俺は言う
「ここの店主は俺の師匠なんだ」
ノアがポカンとしていると俺とノアの頭を師匠がくしゃくしゃとなでた。
「見ないうちにデカくなったねエリク。もう17かい?」
「師匠は全く老けねぇな。魔女の薬でも飲んでんのか?」
「そりゃ誉め言葉じゃないか。切れ味鈍ったな~エリク。で、こっちのおっかない恋人さんは?」
俺が説明しようとするとノアが師匠の手を払って話し出す。
「ノアっていいます。よく看破しましたね。何を隠そうエリクの恋人です」
「ちょっ!?」
「へぇ〜そうなのかい。エリク。大事にしてやりなよ」
そういうと師匠は厨房に帰っていった。
「えっ、それだけ?」
意外だった。
俺に盗賊のあれこれを教えてくれた育ての親キリータ、15歳で独立したので2年ぶりの再会である。
なのに大してイジリもせず、思い出話もない。
「な、なぁ師匠」
むず痒くなった俺は師匠に話しかけたが
「ちょっと厨房来な」
「俺?」
ノアも俺の後ろについてくるが師匠が遮る
「ノアちゃんはちょっとテーブル拭き頼まれてくれないかな?お願いっ!」
ノアがチラリと俺の顔を見る。
「ノア、テーブル拭き頼めるか?」
「分かった!」
言うが早いかノアは丁寧にテーブルを拭き始める。
「んで師匠。何を手伝えばいい?」
「そうだなぁ。まず私の身の安全を保障して欲しいかなぁ」
「何から」
「ノアちゃん」
「なるほど」
「あとその辺のグラス拭いといて」
「へいへいっ」
師匠は厨房の端に置いてある丸椅子に座り一息つく。
「あ〜、一回死んだわ私。すげぇ殺気〜」
俺は先ほどのノアの殺気を思い出した。
確かに怖かったがそこまでではあるまい。
「ははっ。死んだなんて大袈裟な」
「まーエリクからすればそうなるよなぁ」
師匠は一度足を組み直しておれを見据えた
「あの子人間じゃないね?」