第六話 困惑
消えた。
そう表現すればいいだろうか。
ノアが少し前かがみに居合切りのような動作をすると、杯でひょいと掬ったように地面が切り取られ、残骸の一欠けらすら残らなかった。
盗賊たちの姿は無く、ただ切り取られた地面の断面が佇むのみであった。
音も一切なく、元々不自然に切り取られた地形がそこにあったのかのようなものだった。
俺はノアが神様だと再認識した、なんだか必死に助けようとしていたのがバカみたいじゃないか。
俺はなんてちっぽけなんだ。
助けようとした女の子に助けてもらうなんて。
「ごめんね」
「え?」
「すぐに殺さなくてごめんね。エリクにひどいこと言われちゃった。でもエリクの顔も立てないとって思って。あのね。でもね。エリクは普通の人間だもんね。7人も人間が来たら不利だよね。卑怯だよね。でもね。エリクすごくカッコよくてね。私は縋られる存在で頼られる存在としてあったんだけど。だけど、初めて。初めて守ってくれた。そして私を先に逃がそうとしてくれた。だからね。私エリクのためだけに在ることにしたの。それでね。」
「ノア?」
「あっごめんね。大丈夫だよ。死体は完全に消滅したから安心して。私たち二人には結界を貼ってあるし、人に見つからないようにしたからエリクに迷惑は」
「ノア!」
俺が叫ぶとノアは驚いて、どうしたのという顔でこちらを見てくる。なんだ?ノアがおかしい。昼夜で性格が変わるのは知っていた。だがそれは暗いか明るいか程度の差だ、こんな暴走状態じゃない。
俺はノアの目を見て言葉を投げかけた。ノアに諭すように。そして、自分に言い聞かせるように
「落ち着け」
ノアはハッと我に返ったような顔をした
「落ち着いてる、ちょっと喋りたくなっただけだよ」
今度はいつものノアだ。なんだろう、神様でも混乱するときはあるということなのだろうか。
「ありがとう。助かった。一旦ここを離れよう。徒歩でも結界は維持できるんだよね?」
「もちろん」
「じゃあ改めて町へ向かおうか。
「行こう行こう!」
俺とノアは町へ歩き始めた。
結界を解除する場所はあとで考えよう。
夜になってしまえば、町の中でも人気のない場所ができるはずだ。
そのへんで調整できるだろう。
俺はチラリと横にぴったりくっついてきているノアを見おろす。
身長差を感じ、改めて普通の女の子にしか見えないなと思う。
けれど。
さっきの発言達は異常だった、少なくとも俺はそう感じていた。
慕ってくれているようで嬉しいという以前に、俺への執着が急に強くなった事への恐怖。
それが強く残る。
先ほどの剣技らしきものも人間界で振るわれていいものではない。
学者さんではないが、そんなことは俺にだってわかる。
逃げたい。そんな気持ちが心のどこかに生まれた。
そして、死にたくない。
ノアに嫌われようものなら本当に世界を半分消し飛ばしかねない。
冗談半分に聞いていた事が現実味を帯びてきた。笑えない冗談だ。