表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、女神に憑かれてます  作者: 塚田恒彦
七章 ??編
62/62

最終話 女神

「おやすみ、みんな」


 ノアが歩み寄っていくと奴も数歩下がったが、ノアは距離を詰めて抱きしめた。

 数秒動きが無かったが、奴の体から力が抜けてノアの方に寄りかかると、体の崩壊が一気に進み、塵となって消えた。

 ただ、ノアの手のひらに残されたものもあった。ぼんやりと光る丸いもの。輪郭がはっきりせず、綿のように柔らかくも見える。ノアが治したであろう右足でグッと立ち上がり、ノアの隣に立った。


「ノア、その光ってるのは」

「これは【創造】の力そのもの。シロはやっぱり取り込まれてしまってたみたい」

「リエイに報告しないとな。全ての結末が出揃ったって」

「いーや、まだだよ」


 壁でまだもがいているムーランを救い出そうと俺は歩き出していたが、ノアにはまだ気になることがあるようだ。


「なんで騙したのかな? エリク」


 笑顔なのだが、顔を合わせていると背筋に寒気が走り、姿勢を正さずにはいられない。それとどこか懐かしいような気分もするのだが、そうかこれが殺気だからか。


「いやあの、仕方ないんだって! ノアの感情を一番揺さぶれる方法って何かなって思ったら、恐れながら俺が適役だったんだよ」

「うん。そうだねその通り、」


 ピンと背を伸ばして立つ俺の背後に回り込んだノアは、ぐっと両肩に両手を添えた。そして耳元で囁く。


「許さない……」


 怖すぎるな。どうだろう、何かをしないと許さないというのならともかく、許さない単品となるともうここで旅は終わるのかもしれないな。

 俺は天を見上げたまま固まっていたが、いつの間にか前に回り込んでいたノアに手に引かれ、よろめきながら俺は歩き出した。

 どうやらノアも、俺の感情を揺さぶる方法を知っていたらしい。

 その後、壁から引き抜いたムーランの体にノアが触れると、擦り傷や打撲痕、骨折までもが数秒で完治した。ノアは自身の力に驚くこともなく、立ち上がろうとするムーランに手を貸している。俺もムーランも、その力に見覚えが無い。


「ノアさん。その力、どこで手に入れたんですか」

「私って【生命と破壊】の神だったでしょ。だから、ちゃんと力をコントロールできるようになったってことかなと」


 話しながらノアは城門に向かって歩き出し、俺とムーランも後を追う。


「昔の記憶はあんまりないんだけど、エリクの右足を直した時しっくりきたんだよ。感覚みたいなものでしかないけど、これが昔のノアなんだろうなって」


 ノアはどこか楽しげで、足取りも軽い。


「何か気持ちの面でも変わったのか?」

「うん。【生命と破壊】の力を使いこなせるようになることが、昔のノアの供養にもなったかなって。確かに昔のノアも私だったんだけど、この力でしか繋がりを感じられないんだ。それを使いこなせるようになったら、ちゃんと引継ぎが済んだってことになるのかなって」

「そうだな。そうだろうよ、後はリエイに報告して終わりだ」

「お疲れ様-」

「来たかリエイ、もう色々と片付いたぞ」


 ふわふわと飛んできたリエイに諸々の説明をする。奴はもう完全に倒したこと、ノアが【生命と破壊】の力を使いこなせるようになったこと。そして、シロが消えたこと。


「そう、ノアが右手に持ってるそれが【創造】の力なのね。どうしようかしら、封印しておいても良いけど……ムーランが継承しちゃったら?」

「そんなに信用されてましたっけ」

「私もこんな事態には懲りたの、ムーランならうまく扱えるでしょ」


 リエイはあっさりと【創造】を手放した。仲間のものだから、といった意識が薄いのは神特有の考え方なのだろう。


「では引き受けましょう。世界が回るのに必要な仕事は承ります。となると私はここでお別れになりますね」


 俺が何かを言う前に、ムーランがぺこりと頭を下げた。


「ありがとうございましたエリクさん。私の願いのためにも、今後は空から見守る形にさせていただきたいなと思います」

「お前の願いって……?」

「ノアさんに幸せになってもらうことですよ。ノアとの別れは済みましたから」


 ムーランはノアの方を見ているようで、どこか遠くを見つめていた。愁いを帯びた表情ではあるが、ほんの少し笑っていた。


「ノアさんも短い間でしたがありがとうございました」

「うん。ありがとねムーラン」

「では、また」


 そう言ってムーランは一歩下がった。入れ替わりにリエイがずいと近づいてくる。


「私達も復興で忙しくなるわね。六十年ぐらい放っておいても良いとおもうんだけど」

「それはやめとけ、時間は有限だ」

「それもそうね。じゃあ二人とも、戻るのは酒場でいいわね」

「ん」

「じゃあねリエイ」

「ノアも元気でね」


 リエイがぐっと指に力を込め、鳴らしたと思った瞬間には酒場に戻ってきた。

 おそらく時間にすると一日経っていないはずだが、まぶしい夕日がとても懐かしく感じる。


「ま~た急に帰ってきたじゃないか」


 ワインセラーの方から声が近づいてくる、どうやら元気に酒を嗜んでいたらしい。


「ただいま師匠」

「あいおかえりぃ。今わの際みたいな顔して金を押し付けていったのに、二日で帰ってくるとはねぇ」

「さして時間はかからなかったんだ。でも腹が減った」

「私も」

「なら夕飯でも作ろうか、今晩久しぶりに客を入れるんで、腕がなまってないか心配なんだよねぇ」


 話しながら師匠は厨房を漁り始めた、俺とノアは適当な椅子に腰かけ、顔を見合わせる。


「終わったんだって感じがするね。この匂いも、ゆっくり流れる時間も」


 厨房から投げられた濡れタオルで顔を拭くと、冷えすぎた井戸水の香りが愛おしく感じられた。懐古趣味は無かったはずなのだが。


「これからエリクはどうするの?」

「そうだなぁ。ノアと行くならどこでもいいかな」

「えっ……」


 素でものすごく恥ずかしい事を言ってしまった。ノアはうつむいているが顔が赤いのは分かる。でもこれは引くタイミングじゃないだろう。


「どこでも行ける。冒険でも、観光でも、買い物でも、食事でも。だけどその隣に俺は居たい」


 今度は俺がテーブルを見つめる形になる。照れ隠しで詩人のような言葉になってしまったが、ノアの返答が来るまで顔をあげられない。

 遠くで師匠が笑いをこらえているのが分かる、奇妙な声を漏らすくらいならいっそ笑い飛ばしてくれ。


「うん、一緒にいこうエリク」


 一秒を言葉の理解に使い、二秒後に顔をあげるとノアと目が合った。

 この太陽みたいな笑顔を守るためなら俺は命を張れる、そう思えただけでもう感動で打ち震えるほどだった。


「はいはいお二人さん、夕飯出来たから冷めないうちに食べなさいな」

「……タイミング」

「何言ってんだ、今話しかけないとこれからずっともじもじしてただろう、二人とも顔洗ってきな、顔が真っ赤で笑いが止まらないよ」

「いーんだよ! もう幸せなんだから何言われても動じないぞ」

「あぁまた恥ずかしいこと言う、ウッヒッヒッヒ! アッハッハッ!」

「笑い過ぎですよキリータさん! エリクは真面目なんです」

「真面目っていうか、カッコつけなんだよコイツはクハハッ!」


 笑いながらノアの隣に座って背中をバシバシ叩く、ノアはぷいとそっぽを向いてしまったが、ちらりと覗き込んでみると表情は柔らかい。俺もつられて口元が緩んだ。


「ちぇ~楽しそうでいいねぇ若い衆は」

「残念ながら幸せだ師匠。しかも理由は明白」


 皮肉を返す俺の隣で、ノアが胸を張ってこう続けた。


「彼、女神に憑かれてます!」


二年間もかかってしまいましたが、無事完結させることができました! 続きの構想もありますが、しばらくは新作「エルフの王女と最強の皇帝」→https://ncode.syosetu.com/n7014gg/ を書き続けたいと思います。

最後にわがままですが、感想を頂戴できればと思います。

時間がかかっただけあって、本当に皆様の言葉が聞いてみたいのです。


ブックマークしてくださった皆様、評価してくださった皆様、本当にありがとうございました。引き続き応援頂ければ幸いです。 塚田恒彦



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ