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俺、女神に憑かれてます  作者: 塚田恒彦
七章 ??編
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第五十八話 異形

「こりゃあ分かりやすく『異形』だな」



 割れた空から堕ちてきたのは、トカゲのような胴を持ち、腰から上は六つの腕を持つ人間という名も知れない存在だった。それに加えて、やっと現れた本物の太陽が俺に光を届けられないほどの巨体だ。



「あれが彼らの目指した場所なのかしら。私じゃ理解が及ばないみたい」



 そういってリエイは飛び出して行った。

 俺はというと、ムーランと共に護身第一で避難を開始している。俺が変に巻き込まれて、ノアに動揺されても困るからだ。それでも敵の巨大さゆえに、どこへ逃げても世界の行く末を見届けることはできそうだった。

 地面に叩きつけられる前に、それは体勢を立て直した。おそらく飛行魔法のようなもので浮いているそれは、一瞬動きを止めたかと思うと攻勢に移った。

 両肩三本ずつある腕で、雑な横振りと的確に狙いを付けた叩きつけを仕掛けてくる。エレを鷲掴みにしようと六本の腕を伸ばしたこともあったが、そのどれもが失敗に終わった。



「皆さん余裕がありそうですね」



 隣で観戦するムーランが呟いた。



「アイツの攻撃が遅いからな。引き付けて躱して攻撃する流れが出来てる」



 その間に三人は攻撃を続けているのだが、そいつがあまりダメージを受けていない様に見えることが不安だ。エレが炎のドレスを着せてやっても特に反応を示さない。しかしタフなだけなら時間をかければなんとかなる。

 その時、ノアがふよふよとこちらに向かってきた。



「あいつ死なないよ!」



 タフにも限度があるだろう。



「頑丈なのか、再生が早いのか」

「どっちも。リエイが中身をぐちゃぐちゃにかき混ぜてるけど、動きが鈍ってない」

「心臓とかどうなってるんだよ……」

「あると思うんだけどね。削り取った皮膚とかは別に増殖してないから、どこからでも再生するわけじゃなくて、中心があるはずなんだ」



 俺はぐっと上空に目をやった。光景は数分前と何ら変わっていない。エレの攻撃はより過激さを増し、落雷さえも自在に操る姿は神の名に偽りないものだった。

 だが焦げた腕も穿たれた右胸も数秒で再生する。やはり再生の中心になっている部分を見つけなくては倒しようがない。

 そんなとき、突然リエイが降りてきた。



「あれの中身はまともな構造をしてない。いうなれば再生の始点が何十か所もある。ノアじゃないとなんとかできそうにないわ」

「ノアじゃなきゃダメっていうのは」

「エレも強いけど、ノアみたいに破壊の概念そのものみたいな滅茶苦茶な力じゃないと、それすべてを同時に破壊するのは無理な話なのよ。それだけあの巨体と生命力は厄介なのよ」

「でも私、そんなのできる自信ないよ!」

「出来なかったら、これからずっとあいつと生きてくだけよ」



 それだけ言い残してリエイは戦いに戻っていった。リエイの言い分は分かる。言い方からして、『昔のノア』にはそれができたのだろう。

 ノアが生命と破壊の力を取り戻してから、過去の話には結局触れていなかった。リエイから聞いた歴史以上の事は別に知りたいと思っていなかったし、ノアの記憶が消えなかったという喜びの最中、ここに来たからだ。だから俺には今のノアの全力が分からない。

 ノアも自信が無いと言っているし、記憶があるにせよ無いにせよ自分はリエイが求める水準ではないと思っているようだ。

 空の鏡面に、リエイの作った別位相の部屋。

 確かに異様なものを壊してきてはいるが、これから倒そうとしている存在の巨大さと強固さゆえに、倒す様子を想像できない。



「エリク、あれなんか様子がおかしくない?」



 そういいつつノアが指さす先には、あの怪物がいる。先程同様上空に留まってはいるが、姿にかなり変化があった。

 半人半獣から、六手は残しつつ完全な人間の姿になっている。いや、人間ではないか。

 起こった変化はそれだけではない。いつしか、高度が下がってきているようだ。気付かなかったのは、同時に身体を縮小させているために遠近感が狂っていたためだった。



「とりあえず逃げましょうエリクさん」



 俺を脇に抱えてムーランが走り出した。ノアはというと既に敵の元へ向かって行ったようだ。



「まだとんでもない大きさですが、人間サイズになって俊敏になると面倒ですね。自分から大きさの有利を捨てたってことは、それ以外の方法で勝ちに来たということ」



 ムーランの脇を抜けて自分で走り出し、チラリと後ろに目をやると既に奴は居なかった。



「どこまでちっさくなったんだよ」

「少なくとも家よりは小さくなったんでしょう」



 その時、振り向いたままの視線の先で家が一つ吹き飛んだ。ノア達の姿が見えないことからすでに地上戦になっているようだ。俺とムーランは視線を前に戻し、とりあえず距離を取るため走り続けた。



「耐久力を落としたとなれば、案外リエイが蹴りを付けるかもしれませんね」

「そう決まった訳じゃないけどな。ノアに対抗するならそうだろうな」

「いぁ」

「ん?」

「どうかしましたエリクさん」

「いや、ムーランが今何か」



 その時、ムーランが視界から弾かれた。理解が追いつかずにゆっくりとその方向を見ると、数十メートル先の家の屋根にムーランが叩きつけられ、崩れるガレキに巻き込まれて見えなくなった。



「エリク走ってぇぇぇぇぇ!」



 ノアの声だ。走り始めようとしたが、事態はそう悠長なものではなかった。

 誰かに肩を掴まれている。

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