第五十七話 天上
ノアは炎の魔法で9割程度の敵を退場させた。その後はエレと協力して敵を蹴散らし、街から城が失われたものの掃討を完了させた。
「あとはシロを探すだけですね」
ふよふよと飛びながらこちらへ向かって来るエレとノアを見ながら、ムーランが呟いた。なんの反論も無いのだが、シロの居場所の見当がつかない。隠し部屋などはリエイに探してもらうつもりだったのだが、なぜだかなりそこない側に技術で負けている。
こんな大群で足止めしなくても、結局俺達は敵が動くのを待つしかない。敵の予想よりも、俺達は手詰まりなのだ。
「エレに心当たりを聞いて、それからだなぁ……」
しばらくしてノアとエレが合流した。
「近くで見ると中々に普通だねエリク君」
「やかましいわ」
とりあえずエレは敵ではないらしい。状況を説明し、シロの居場所について知らないかと尋ねたが、お手上げのようだ。
おそらくシロが四楔の中で唯一武闘派ではない。シロ自身による脱出が見込めない以上、やはり動けないというところに落ち着く。
「僕は手詰まりなんだけど、ノアはそうでもないみたいだよ?」
エレが指さした先で、ノアはいつの間にか高度を上げていっていた。首を真上に挙げた頃、途中でぴたりと止まったノアは再び俺の横に降りてきた。
「何か分かったか?」
「いやなんかその……違和感? みたいなのがある」
ノアは俺の真上を指さしている。それで近くまで見に行っていたのか。
「異空間に閉じ込められたときに、ここなら壊せそうだなって思ったのと同じ感じ」
「まさか、この空がハリボテだなんて言わないよな」
地上で見た時と何ら変わらない空を睨みながら、俺は言った。
ノアは頷きで返す。どうやらそういうことらしい。
「じゃあリエイが戻り次第動くか。他に時間が欲しい奴いるか?」
息も絶え絶えなムーランが挙手して時間を要求するが、エレとノアが眩しい笑顔を見せているので作戦に問題なしと判断した。
リエイを待つ間、俺は丘のようになった場所に歩いていき、街を眺めてみた。人口ならぬ神口がある街だけあって広く、端までは見通せなかった。
寿命が違おうが、文化が違おうが、ノアやムーランと出会って分かった。そこにいて、生きているからには助けられるものは見捨てられないんだな俺は。
ほとんどノアの力で、俺が凄いわけじゃない。ただ無視してただ楽しい方向に進むことはいくらでもできたはずだ。それこそ、ノアを利用して自由気ままな生活ができたんだ。
今回は世界の危機で、もう逃げ場がないのだが。
「死んで英雄はごめんだな」
そろそろリエイが戻ってくるだろう、と皆の待つ場所へ歩き出そうとすると、ノアが歩いてきていた。
「リエイが帰ってきたよ。今すぐ動いても問題ないみたい」
「ありがとう、今帰るとこだ」
俺がノアの隣まで歩いていくと、ノアは来た道を振り返り、二人は並んで歩く形になった。
「ノア、これが終わったらさ」
「うん」
「師匠に料理教えてもらうわ」
「うーん……まぁいいでしょう」
何故か渋い顔で唸るノアと共に、三人の待つ場所へ急いだ。到着してみると、やり残したことは無いといった様子で待っていた。
「よしやるか。
空の裏側に何があるかは分からない。シロを開放して終わりか、本命のおでましか……ノアの見立てだと、見えている空すべてが作り物かもしれないとのことだ。リエイでも異空間に閉じ込められた件もある、相手が一枚上手だと思って警戒していこう」
「うん」
「わかったわ」
「わかりました」
「りょーかい」
四人の認識を一致させたところで、俺とノアは目を合わせて頷き合った。
「やってくれ!」
俺の言葉の後、風を纏ったノアが地面を蹴り飛ばした。
「どぉりゃぁぁぁぁぁ!」
叫びとともに、ノアが拳を打ち上げると、湖面に張った氷のように空全体に亀裂が広がっていった。それもノアが殴った辺りは、何かの重さに耐えきれないといった様子で崩壊が早い。その破片から逃げるように落下するノアに向かって、その何かは堕ちてきた。