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俺、女神に憑かれてます  作者: 塚田恒彦
七章 ??編
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第五十話 躊躇

 一旦作戦会議を終了し、俺は組合へ向かった。

 わざわざ言わなくても分かるかとは思ったが、師匠が目覚めたので酒場の貸し出しの件はナシの方向で、とソイリオさんに伝えにいくためだ。



「了解しました。ではそのように連絡しておきます」

「たびたびすみませんソイリオさん」

「いえ、エリクさんには色々と助けて頂きましたので。どうですかこの際冒険者組合に入りませんか? 好待遇を約束しますよ」

「とてもありがたいお話なのですが、近日中にまた放浪の旅に戻りますので、辞退させて頂きます。また縁があれば組合にはご協力いたします」

「そうですか……では私は旅の安全を祈らせて頂きます。ありがとうございました」



 俺は軽く会釈をして談話室から一階の受付へ向かう。

 今回の報償金に、前回ソイリオさんに預けていた金を足したものを受け取った。

 権力者に融通が効くとこの辺りの手続きが楽で助かる


 組合から出て、次は病院へ向かう。

 見舞いのついでに、また長期間旅に出ると師匠に伝えておこう。

 病院に着くとさっさと病室へ向かう。

 しかし部屋を覗くと誰も居ない。



「部屋間違え……」

「てない。どうしたエリク」



 キョロキョロと病室内を見回していた俺の背後に、師匠が立っていた。



「ちょ、もう歩いて大丈夫なのか?」

「2日寝てただけなんだよ? そう心配されるようなものでもないさ」



 と言いつつも、師匠は壁に体重をかけるように手をついている。完治とまではいってないが、歩き回れている事に少し安心した。



「一応病み上がりなんだから、今はゆっくりしとけよ」

「動いてないほうが体に悪い気がしてね。歩いてるだけだからそう疲れないし」

「一理ある」

「だろ? まぁそこまでダメージはないし、今夜か明日の朝には酒場に戻ろうかね」

「あぁそのことだけど、たぶん今日中に俺たちは出発すると思う。

 店一晩空けちゃうんだけど大丈夫かな」

「そう大したものも置いてないし大丈夫だよ。酒はまぁ……ちょっと困るけど」

「上等なのもあるみたいだな……」



 一晩ぐらい警備を雇おうか、金はあるし。

 そうだ、金。リエイにくっついて天界に行ったら、この報奨金使えないじゃないか。



「ちょっと金を預ける。というかあげるよ、譲渡する」

「条件は?」

「ねぇよ。俺には使う暇がなさそうなんだ、有効に使ってくれ」

「金に困っちゃいないけどね、っておいおい。これ今回の事件の報奨金だろう? 

 組合員じゃなくてもこのぐらい出るだろうなと思ってたよ」

「こんなにいらない。自分が欲しい分はもう取った」



 取ってないが、いらないのは本当だ



「可愛い弟子からの恩返しだ、黙って受け取ってくれ」

「柄にでもないことするんじゃないよ。

 これは『預かる』から、また帰って来な」

「そうさせてもらう」



 いつもの身軽な所持品に戻った俺は病室を後にし、まっすぐ酒場へ向かった。

 師匠は元気にやっていけそうだ、この街にやり残したことはない。



「帰ってきたぞリエイ」



 さっきと同じ場所で皆は待っていた。俺も再びカウンター席に座る。



「巻き込んでいてなんだけど、帰って来れるか分からないわよ。もういいの?」

「死ぬつもりはさらさらないが、そういう旅になるってのは理解してる。ざっと身の回りは整えてきた」

「エリクに何があってもノアが守るよ。だからまたキリータさんとも会える」

「ノアさん。なんだかその言い方のほうが死にそうな感じしません?」

「大丈夫だ。会ってすぐもそういうこと言ってたからノアは」



 覚悟も済んだところで、俺はリエイの方を向きなおした。

 大勢力との決戦か、はたまた只の家出でしたと肩透かしを食らうか。



「リエイ行こう。天界へ」

「待って待ってその前に」



 リエイが俺を制止した。

 そして椅子から降りてノアの方へ歩いていき、肩を叩いた。



「まずは能力を返さないとね、ノア」

「分かった」



 もうすでに肩透かしを食らってしまったような感じだが、能力を先に返しておくのはアリだ。

 リエイからすればどうせ渡すと決めてしまったのだし、早めに戦力を増強しておきたいのだろう。



「いいんじゃないか。酒場をぶっ壊したりしないなら」

「場所だけ変えておきましょうか」



 リエイが指をパチンと鳴らすと、荒野の真ん中に出た。

 ちょっと暑いがこれならなんの心配もないだろう。


 俺がぐるりと景色を見ていると、何やらリエイが、ギラギラと太陽のような光を内包した水晶玉らしきものを取り出した。

 おそらく『生命と破壊の神』の力が入っているのだろうが、眩い光には人間が触れることの叶わない刺々しい攻撃性を感じさせられる。



「別れの挨拶はいいの?」

「と言うと?」

「能力を返還するとノアの記憶も戻ってくるんじゃないか、って仮説立ててたじゃない。

 記憶が戻ったことで人格も昔に戻るかもしれない。

 そうなったら、昔のノアはハッキリ言って別人よ?」

「また記憶を歩いたのかリエイ……まぁそうだ、お前が言うようにその可能性はある。

 でもそれは嫌だな。すごく嫌だ、どうすんだよリエイ」

「私に聞かれても」



 しばらく俺の唸り声が続いた後、静寂を破ってムーランがその場に屋根と椅子を生成する。一旦座るかという空気になり、全員座る。

 だがまた沈黙が続くかと思われたとき、ノアが口火を切った。



「でもさ、記憶が戻っても私の雰囲気は変わんないかもしれないじゃない」

「前例がないから、何とも言えねぇんだよノア……」

「やらないって選択肢はないじゃない。後回しにしてるだけでしょ」

「ノアは怖くないのかよ。俺はものすごく怖くなっちまってダメだ」

「リエイの話を断って、また放浪の旅を続ける?」

「いや、う……」



 完璧な選択肢はない。

 ノアがじっと俺の目を見つめて、返事を待っている。

『このまま旅を続けた方が幸せだ』喉元まで出かかった言葉を、腹に戻す。

 このまま能力を取り戻そうとしなければ、人格が変わってしまう可能性もない。

 旅の目的なんて、俺が金持ちになるにでもしておけばいい。


 怖い、俺の知っているノアが俺の傍から居なくなるのが。

 リエイに言われなくても分かっていたさ、記憶が戻ればノアは変わってしまうかもしれないってことは。

 でも考えたくなかった。なんとかなるで蓋をしていた。

 ノアのために動いている自分を崩したくなかったのかもしれない。ノアの記憶は取り戻せないかもしれない、なんて思ってたのかもしれない。

 口では記憶を取り戻すと言っても、実際取り戻そうとする意思は弱かったのだ。

 だから、この土壇場で一歩踏み出せなくなった。


 喋るのは、得意なはずなんだけどな。

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