第四話 飛行
食事を終え、俺はノアと今後の方針を話し合うことにした。
「ノアは気まぐれで俺に付いて来るんだな?」
「うん、封印を解いてくれた事への感謝もあるけどね」
「ふむ、ノアは具体的にどれくらい戦闘能力あるの?」
「全力を出せばこの星を半分吹き飛ばせる。私も消滅するけど」
「なるほど、人間は虫けら以下に扱えると」
「そう」
「うーん、軽く言ってくれる。調整もできるんだよね?」
「もちろん! じゃないと食器なんて扱えないよ」
戦闘能力を聞くといういう行為は、あなたを利用させてもらいますよと言ってるようなものだ。
しかしノアは結構協力的だ。
各地の武闘大会の賞金をさらう、SS級魔物の討伐依頼をこなす、聞いた通りの強さならばやれることは結構幅広い。
「私は面白そうなことを希望します!」
「うーん」
これだ。
病気にもならなければ空腹にもならない。
彼女が欲しているのは楽しさと、それに伴う知的好奇心の充足である。
俺がセコイ手段でしかノアを利用しないのであれば、こんなにノリノリなノアも俺を肉塊にしてどこかへ去ってしまうかもしれない。
それはよろしくない。
とりあえずだがノアの他の能力を調べるためにも帝都中心部へ向かうとするか。
「目的地は帝都ファータシュバン! ここからは馬で2日ほどだ。まずは馬を盗むか」
「飛ぶこともできるけどどうする? 5時間ほどかけてゆっくり飛べば、エリクの身体も耐えれる速度で飛べるよ」
「俺、人の形保てる?」
「そう、背中にしがみついてもらう感じでいくならね」
「誰かに見られて騒ぎになっちゃうんじゃないか?」
「大丈夫。私が結界を纏って飛行すれば生物には視認されないから。少し気流が乱れるけど、『今日は風が強い日だな』程度にしか考えないだろうし」
「じゃあそうしようか!」
ノアが万能すぎてダメ人間になる、そんな未来はそう遠くないらしい。
というかすでに浸食されつつある。
俺は荷物を整理し、ノアとともに宿を出た。
そこから昨日の屋敷のそばの森へと移動する。
「ここなら急に消えてもバレないだろう。えーと、お背中失礼しても?」
「どーぞ、おんぶするから乗っかって」
「女の子におんぶされる日が来るとはな……」
「正面から抱きしめて欲しいの?」
「それはちょっとまだ早いような」
「乙女か」
結局俺はノアの背中に乗った。俺も体重は軽い方だが華奢なノアに背負われると違和感のある絵面だ。ノアが心配にはなるがノアは全く重さなど感じていないようだ。かっこいいし俺は情けない。
「んじゃ飛ぶよ」
「はいよ」
ズアッッ
一秒ほどで高度50mほどに到達する。さっきまでは木を見ていたのが一瞬で森が見える高さに変わる。どうしてだか上昇による負荷は無い。便利なものだな結界。
「北西だよね?」
「うん、よろしく頼む」
「よしっ」
次の瞬間には横の移動が始まり、さっきの森がどんどん遠くなっていく。自身が飛んだのは初めてだが、魔術師が浮遊魔法をかけた物に乗って移動するので、飛行自体はそこまで驚かない。
だが速度には驚いた。帝都最速でも時速60kmほどなのだが、ノアの飛行はその5倍程度の速度を出しているように思える。
「すごいなぁ。常識が通用しない」
俺はノアの顔の横でつぶやく。
「そりゃあ神様だからね。人智を超えててふつうだよ」
ノアは振り返らず答える。
「ノアが人間に負けてることなんかないだろうな」
「そうかもね。あぁでも」
「でも?」
「情には欠けるかもね」
「そうなの?」
「自慢できたことではないけどね」
そして一息置くとノアはこう続けた
「神様は人間じゃないんだから」
「そりゃそうでしょ」
と俺が答えると、ノアはアハッと笑い
「ノアをよろしくね」
と呟いた。
俺はあまり意味を理解できなかったが、特に追及することは無かった。
その後の空の旅はトラブルもなく、他愛のない会話をはさみながら順調に進んでいった